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終章:その足で踏みしめる大地、やがて訪れる隣人【聖女エンディング】

ステラは、誰の名前も呼ばなかった。  ただ静かに、天を仰いだ。


 レオンハルトの激情も、アレクシスの正義も、シルヴァリオの執着も。  どれもが愛おしく、けれど今の彼女には、あまりに窮屈だった。


(私は、貴方たちの所有物じゃない) (私は、世界を維持するための電池じゃない)


 彼女はゆっくりと、暴走する祭壇の中央へと歩み出した。  三人の男たちが息を呑む中、ステラは彼らに背を向け、そして振り返り、儚くも凛とした微笑みを向けた。


「私はもう、誰の道具にもならない。……さようなら、私の王様たち」


 その言葉は、決別であり、感謝だった。  ステラは両手を大きく広げた。  彼女がイメージするのは、「修復」でも「破壊」でもない。  ただ、あるべき場所に、あるべきものを還すこと。


『――システム全解除オール・リセット魔力還元リターン・トゥ・アース


 ステラの身体が、星そのもののように輝き出した。  それはシルヴァリオが作った「鍵」としての機能を超えた、彼女自身の魂の輝き。


 パァァァァァァァ……


 光が、ドス黒い「核」を包み込む。  核は砕けることなく、光の粒子となって霧散し始めた。  地下から吸い上げられていた魔力も、シルヴァリオを蝕んでいた毒も、全てが空へ、大地へ、海へと還っていく。


「魔力が……消えていく?」 「ステラ! やめろ、お前まで消えちまうぞ!」


 レオンハルトが手を伸ばすが、光の奔流に阻まれて届かない。  王宮を縛っていた結界が消え、ステラをこの世界に固定していた「聖女の呪縛」もまた、解かれていく。


(ああ、身体が軽い)


 光の中で、ステラは自分の姿が「絶世の美女」から、本来の「私」へと戻っていくのを感じた。  もう、誰も私を聖女とは呼ばない。  私はただの、一人の人間として、この大地に立つんだ。


 光が収束し、弾けた瞬間。  祭壇には、もう誰の姿もなかった。


 残されたのは、魔力を失いただの石となった台座と、呆然と空を見上げる三人の男たち。  そして、澄み渡るような青空だけだった。


          ***


 それから、三年後。


 王都から遠く離れた、北の山里。  冬には深い雪に閉ざされ、春には美しい花が咲き乱れるその場所に、一軒の小さないおりがあった。


「先生、薬草の乾燥が終わりました!」 「ありがとう、リナ。丁寧にできたわね」


 エプロン姿の女性――ステラは、あどけない弟子の少女に優しく微笑んだ。  その容姿は、かつて王都を騒がせた「銀髪の聖女」とは違う。  栗色の髪に、健康的な肌。目立たないけれど、意志の強さを感じさせる瞳。  それが、魔法という化粧を落とした、彼女の本来の姿だった。


 あの日、王宮から姿を消した彼女は、自分の足で旅をし、この地にたどり着いた。  魔力はほとんど失われたが、微かに残った知識を活かし、今は「薬師」として村人たちに頼りにされている。


 豪華なドレスも、宝石もない。  けれど、土の匂いがするこの生活を、ステラは心から愛していた。


「……平和ね」


 縁側でお茶を飲みながら、遠くの山々を眺める。  風の噂では、王都は新しい政治体制となり、魔術に頼らない技術革新が進んでいるという。  三人の英雄たちの消息は、あえて聞かないようにしていた。


 ――コン、コン。


 不意に、庵の扉が控えめに叩かれた。  患者だろうか?  ステラは湯呑みを置き、立ち上がった。


「はい、どなたですか?」


 扉を開ける。  そこに立っていたのは、旅装束に身を包んだ、背の高い男だった。  フードを目深に被っているが、その隙間から見える藍色の瞳と、不器用で誠実そうな立ち姿は、見間違えようがない。


「……道に迷ってしまいましてね。評判の薬師がいると聞いて、立ち寄らせてもらいました」


 男はフードを外し、少し照れくさそうに、けれど懐かしむように微笑んだ。  その顔には、かつての「悲愴な使命感」はなく、ただ一人の人間としての穏やかさがあった。


「アレク……いいえ」


 ステラは言いかけて、首を振った。  ここにいるのは、王族でも騎士でもない。  ただ、彼女に会うために長い旅をしてきた、一人の旅人だ。


 ステラは、とびきりの笑顔で、彼を迎え入れた。  聖女としてではなく、一人の女性として。


「いらっしゃいませ。……美味しいハーブティーが入ったところなんです。よかったら、旅のお話を聞かせてくれませんか?」


「ええ。喜んで。……話したいことが、山ほどあるんです」


 男が一歩、家の中に足を踏み入れる。  それは、支配も依存もない、対等な二人の新しい関係の始まり。


 窓の外では、春の風が優しく吹き抜けていた。  彼女が選んだ未来は、これからも静かに、確かに続いていく。

本作を最後まで見守ってくださり、本当にありがとうございました!

三者三様の愛の形、いかがでしたでしょうか?


もし、楽しんでいただけましたら、ページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして、完結のお祝いをいただけると、歓喜で跳ね上がります!

皆様の評価とブックマークが、執筆の後押しする最大のガソリンになります。応援、どうぞよろしくお願いいたします!


さて、明日月曜日3/9は22:40より新連載開始します!


『追放された無能聖女ですが、世界樹の精霊王に拾われて1000%偏愛されています』

https://ncode.syosetu.com/n9772ls/


寝る前のひとときに、精霊王による圧倒的な「執着愛」を楽しんで頂けたら嬉しいです。


続く、火曜日(3/10)も朝7:00より、こちらも新連載スタートします!


『公爵子息に夢中な悪役令嬢は、今更「もう戻れ」と言われても絶対実家には帰りません!』


今度のヒロインは、自己評価底辺の魔道具師・メリア。

彼女を保護して甘やかしまくる「氷の公爵」ヴァイス様ですが、言葉足らずゆえにメリアは「私は本命を守るための『お飾りのダミー』なんだわ!」と、斜め上の方向に全力疾走してしまいます。


胃を痛めながら溺愛をこじらせる公爵様と、囮の仕事を完璧にこなそうとする令嬢の、すれ違いまくりの溺愛ロマンス。


火曜日からも、朝7時の「重すぎる愛」の習慣、ぜひお供させてください!


新作二作もどうぞよろしくお願いします!

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