第20話:太陽と海の愛し子たち【赤の覇者エンディング】
「――レオンハルト!」
ステラは叫んだ。 複雑な術式の書き換え? シルヴァリオへの同情? そんなものは、今は捨てた。 この閉塞した状況を、腐りきったシステムを、物理的に終わらせられるのは「彼」しかいない。
「その剣で、全てを断ち切って! 私の魔力を全部あげる!」
ステラは最後の力を振り絞り、レオンハルトの背中に向かって両手をかざした。 癒やしや解錠のための繊細な光ではない。 純粋なエネルギーの塊を、彼という強靭な器へと注ぎ込む。
『――受容・全譲渡!』
「ぐぉぉぉぉッ!?」
レオンハルトの全身が紅蓮の炎に包まれた。 ステラから送られた膨大な魔力が、彼の闘気と混ざり合い、爆発的な出力を生む。 彼の大剣が、太陽そのもののように白熱し、輝き始めた。
「ハッ……! 無茶しやがるぜ、俺の女神様は!」
レオンハルトは獰猛に笑った。 全身の血管が焼き切れそうなほどの熱量。だが、不思議と不快ではない。 愛する女の命そのものを預かった重みが、彼に無限の力を与えていた。
「シルヴァリオォォォッ! テメェの理屈は聞き飽きた!」
レオンハルトが地を蹴る。 祭壇の床が砕け散り、彼は光の矢となってシルヴァリオへ肉薄した。
「馬鹿な……! 魔力の質量が、桁違いだぞ!?」 シルヴァリオが防壁を展開するが、その顔には初めて「恐怖」が浮かんでいた。
「ご自慢の鳥籠も、腐った心臓も、俺たちが全部ぶっ壊してやる! 新しい時代が見たいなら、そこで寝てろ!」
「覇王・断罪剣!!」
振り下ろされた一撃は、シルヴァリオの障壁を紙切れのように切り裂き、その背後の「核」をも両断した。
カッ――!!!
音が消えた。 王宮の頂上が、真昼の太陽のごとき閃光に飲み込まれた。
***
轟音と共に、王宮のメインタワーが半壊し、崩れ落ちていく。 だが、不思議と魔力の暴走による汚染は起きなかった。 レオンハルトの一撃が、核の淀みごと全てを「燃やし尽くした」からだ。
「……行ったか」
崩壊する瓦礫の中で、アレクシスは空を見上げた。 そこには、炎の翼を広げたような魔力を纏い、ステラを抱いて夜空を駆けるレオンハルトの姿があった。
「後は任せろ、馬鹿者ども。……この国の後始末は、次期国王たる私が引き受けよう」
アレクシスは苦笑し、気絶しているシルヴァリオに手錠をかけた。 彼らの逃走劇は、ここからが本番だ。
***
それから、数年後。
海洋都市アクアは、かつてない賑わいを見せていた。 王都から独立宣言をしたこの都市は、自由貿易の中心地として栄華を極めている。
「おーい! 領主様! またサボりですか!?」 「うるせえ! 今日は非番だ!」
白い砂浜。 太陽の下、赤髪の男――レオンハルトが、子供のように波打ち際を走っている。 その隣には、健康的に日焼けし、眩しい笑顔を見せるステラの姿があった。
「待ってください、レオン! 速すぎます!」 「ははっ、捕まえてみろよステラ!」
かつての「聖女」の面影はない。 ここにあるのは、一人の愛される女性としての幸福な姿だけだ。
レオンハルトは立ち止まると、追いついてきたステラを勢いよく抱き上げ、くるくると回った。 「きゃっ! もう、目が回ります!」 「へへっ、愛してるぜ、ステラ。世界で一番いい女!」
彼はステラを下ろすと、熱烈なキスを贈った。 海鳥が鳴き、街の人々が遠くから冷やかしの指笛を吹く。
王宮も、聖女の使命も、世界の危機も、もう過去の話。 ここには、太陽と海、そして愛する人との自由な日々だけがある。
ステラはレオンハルトの首に腕を回し、心からの笑顔で囁いた。
「ええ……私も愛しています。私の、最高の英雄様」
二人の影が、白い砂浜に一つに重なった。 それは、どこまでも明るく、一点の曇りもない、最上のハッピーエンド。




