表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら魔王だった。でも何故か世界から「聖人」扱いされている件  作者: 妙原奇天


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/6

第1話 善人と呼ばれた魔王

 ――目を覚ましたら、玉座に座っていた。


 黒曜石の床、赤い絨毯、無駄に高い天井。左右にずらりと並ぶ角付きの従者たち。

 そして、鏡の中には――漆黒の鎧をまとい、紅い瞳を光らせる自分の姿。


「……おいおい、どう見ても魔王じゃねぇか」


 会社員だった俺・ユウトは、気づけば“異世界の魔王”になっていた。

 デスクの書類地獄から解放されたと思ったら、今度は魔界のトップとか、業務内容がブラックすぎる。


 目の前では、銀髪の女魔族が跪いていた。


「陛下、昨夜の戦火により南方の村が焼け落ちました。いかがいたしましょうか」


「え、ええと……再建を急がせて、被害者の救済を最優先で」


 思わず日本人の感覚で答えた。

 だが次の瞬間、玉座の間がどよめいた。


「さすがは我らが魔王様……!」

「人間の村など見捨てるのが常なのに……慈悲深い!」

「陛下の御心はまさに聖人のごとく!」


 え、ちょっと待って。なんで褒められてる?

 俺、ただの常識的対応しただけなんだけど。


「……まあ、いいか。人を助けるのは悪いことじゃないし」


 そう思っていた俺は、この世界の“常識”をまだ知らなかった。


 翌日。

 復興支援のために、俺は兵を派遣した。道路整備の指示書を出し、物資を配る算段もつけた。

 日本の会社で散々PDCA回してきた俺にとって、段取りは得意分野だ。


 だが、その報告が王都に届くと――人間側がざわめいた。


「魔王が……我らを救済した……?」

「偽りだ、きっと罠に違いない!」

「しかし村人たちは実際に救われたと……」


 王国は混乱した。

 一方、魔界では――俺が“神に愛された魔王”として祭り上げられ始めていた。


◇ ◇ ◇


「陛下、井戸を掘る許可をいただけますか?」


「いいぞ。衛生環境を改善しよう」


「な、なんと……民の健康をも気遣われるとは……!」


 いやいや、普通だろ。衛生は基本だ。

 なんでいちいち感動されてるのか、理解できない。


 さらに、夜。書斎にいた俺のもとへ、参謀の老魔族がやってきた。


「陛下。民の間で“慈愛の魔王”と呼ばれております」


「やめてくれ、その称号……俺、悪役だよな?」


「いいえ、今や人間ですら陛下を恐れぬどころか、崇拝し始めております。『聖魔王ユウト』と」


 どこのRPGだよ、その二つ名。


「……いや、俺は世界征服とか興味ないし」


「お優しい……やはり陛下は聖人であらせられる!」


 話が通じない。

 なんでこの世界、まともな悪がいないんだ。


◇ ◇ ◇


 三日後。王国から使者が来た。

 勇者パーティの一行。白銀の鎧を着た青年――勇者カイルを筆頭に、神官、弓手、魔導士の四人組だ。


「魔王ユウト。我らは貴様を討伐する使命を負っている!」

「……はいはい、そう来ると思ってた」


 ようやく“まともな展開”が来たと思ったのも束の間、彼の次の言葉が予想外だった。


「だが、討つべき悪とは何か……我々は迷っている」


「え?」


「貴様が村を救い、橋を直し、孤児を養っていると聞いた。

 それが真実なら、貴様は我々より正しいのかもしれぬ」


「……いや、俺はただ、インフラ整えてるだけで……」


「インフラ……? それは“平和を築く術”か」


 カイルは真剣な目で俺を見つめた。

 そして剣を下ろす。


「今日のところは引こう。貴様を斬る資格が、我々にはない」


 使者たちは静かに去っていった。

 玉座の間に残ったのは、ぽかんとした魔族たちと、現実を受け止めきれない俺。


「……なんでこうなるんだ」


「陛下、勇者を改心させるとは、さすがです!」

「神に背かせるほどの威光……まさに救世主!」


「ちがう! 俺は悪をやりたいのに!」


 叫んでも、誰も信じてくれない。

 俺が罵倒しても、「深い意味のあるお言葉」と解釈される始末だ。


◇ ◇ ◇


 夜。

 バルコニーに出て、冷たい風に当たる。

 闇夜に沈む魔界の街並みは、整備された灯りで穏やかに輝いていた。

 街路樹、整然とした家並み、笑顔で語らう魔族たち。


 ――おかしい。悪の支配って、もっと殺伐としてるはずだ。


「……俺、魔王として、間違ってるのか?」


 呟いた声が、夜に吸い込まれる。

 その背後で、参謀の老魔族が静かに頭を下げた。


「陛下。間違っているのは世界のほうです。

 陛下こそが、“真に正しい悪”を体現しておられるのです」


「なにその矛盾した日本語」


 だが――心のどこかで、俺はもう気づいていた。

 誰かが“悪”を引き受けなければ、世界は平和に回らない。

 善が溢れすぎれば、争いは生まれる。

 ならば、自分がその歪みを引き受けよう。


 “聖人魔王”という皮肉な称号を背負ってでも。


「……まあ、いい。どうせやるなら、世界一まともな“悪”をやってやる」


 夜風が吹いた。

 遠くで鐘が鳴る。

 その音は、魔王の城を包みながら、静かに世界へと広がっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ