第5章:報告書No.005 / GPS追跡不能時の接触検証
記録者:アキト・ミナセ
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【研究目的】
これまでの実験において、被験者ミサキは以下の状況下でも接近・侵入が可能であった:
•場所未通知
•他者の同席
•セキュリティ封鎖
•物理的・電子的遮断環境
本実験では、完全な“存在抹消”を試みることで、被験者が追跡可能かを検証する。
同時に、**「彼女がなぜ来るのか」「どこから来るのか」**を明らかにできる最後の機会と判断し、決行する。
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【実験条件】
•宿泊施設:郊外の無人ログハウス(地図に掲載されていない開発停止区域)
•携帯通信:全機器オフライン、SIMカード物理除去
•移動経路:複数ルート経由・非記録(現金払い、監視カメラ非対応ルート)
•出発連絡:一切なし
•記録装置:バッテリー式カメラ(4基)+ボイスレコーダー(常時録音)
•宿泊者:アキト単独
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【実験開始】
日時:7月××日 午後21:00
ログハウスにて記録開始。
電源はランタンと非常灯のみ。
外界との接続を一切遮断し、“世界から消えた”状態を再現。
アキトの手記(21:14):
これで来られるはずがない。
GPSはない。電波もない。情報もない。
でも……心のどこかで思っている。
「それでも、来るんじゃないか」って。
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【21:57】
外のランタンの灯りが“ふっ”と消える。
風なし、電池残量:100%
ボイスレコーダーに“足音のような音”が2回記録される(正確な出処不明)
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【22:08】
ログハウス内のカメラすべてに“同時ノイズ”発生
約0.6秒、全画面に黒い靄のような映像
直後――
背後から、「見つけた」と囁く声
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【22:09】
アキト、ようやく筆記を再開(震えた文字で以下を記録):
振り向かなければ、いなかったことにできる
振り向かなければ、ただの幻覚だと信じられる
振り向かなければ――
でも
でも、もう
振り向いてしまった
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【22:10】
最後の録音記録:
「やっと、目が合ったね」
沈黙。
その後、無音が3分37秒続く。
記録装置は自動終了。
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【補足事項】
翌朝、ログハウスの管理人が確認のため訪れたが、
アキトの姿はなかった。
鍵は内側から施錠されており、窓の開閉なし。
記録装置だけが机の上に残されていた。
冷え切った空間の中、机に置かれた便箋には、こう綴られていた:
「報告書、ありがとうございました♡
最後に見てくれて、うれしかったです」
――ミサキ