第4章:単独侵入観察記録
研究報告書No.004 / 記録者:アキト・ミナセ
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【実験目的】
被験者ミサキが、アキトの居ない状態の自室に侵入可能か、および侵入経路と時間帯の特定を目的とする。
また、アキトの行動と連動して出現するのか、それとも独立した意思とタイミングで現れるのかを調査する。
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【準備およびセキュリティ環境】
実験日時:7月××日(火) 午後17:00〜翌朝06:00
場所:アキト自宅(アパート3階)
ドアロック:テンキー+物理鍵(2重ロック)
窓:全て施錠済み、ベランダなし
監視カメラ:玄関、室内、窓方向の3基(遠隔録画機能付き)
通信機器:実験中、スマートフォン通信・GPS・SNSすべてオフ
備考:
•ミサキには「今夜は実家に帰る」とだけ連絡(場所不明)
•実際には外出先でモニタリングを実施
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【実験経過】
17:03
アキト、外出開始。ドア・窓すべて施錠確認済み。
カメラ録画状態確認済み。
17:41
監視カメラ玄関前に“軽微な映像ノイズ”発生
※人物映像は映らず、波紋のような歪みが0.5秒間検出
17:42
室内カメラにて、リビングソファの背後に“人影”が一瞬映る
→再生速度を落とすと、黒髪の女性(ミサキと一致する髪型・服装)がソファに座っている姿が2フレーム分確認される(0.08秒)
17:43〜18:27
その後、カメラ映像上には誰も映っていない状態が継続
室内の物理的な変化・音声は記録されず
18:28
玄関ドアの“開錠音”が鳴る
だが、ロック機構ログには解除操作の記録なし
→**“内側から開けられた”としか説明がつかない**
18:29
誰もいないはずの部屋から、カメラに向かって“手を振る”ような動作が確認される
手の一部のみ映り込み、人物の全体像は不明
直後、映像が一瞬だけブラックアウト(約1.2秒)
18:31以降
映像は通常通りに戻るが、以降の時間帯に人物の映像は確認されず
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【帰宅後の記録】
06:14(翌朝)
アキト帰宅。
施錠状態:異常なし
鍵の差込口に異物なし
玄関の内側マットの位置が3cmほどずれている
室内確認:
•ソファに置いていたクッションが左右逆
•冷蔵庫に**「アキトさん、おかえりなさい♡」と書かれた手描きメモ(紙質:自宅にないもの)**がマグネットで貼られている
•使用した形跡のない“紅茶の香り”が空気中に残っていた(備蓄なし)
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【アキト個人所感】
これは明確な侵入記録だ。
ただし、「どうやって入ったか」については依然として説明不能。
・ドアは開けられたが、ロック解除の痕跡なし
・映像上、ミサキが“出ていく”描写は記録されていない
・カメラが映らない瞬間を狙って動いている可能性すらある
最も気になるのは、手書きのメモだ。
文体は丁寧、ハートマーク、筆跡も整っている。
しかしそれが逆に恐ろしい。
なぜならその文面には、**“何時に帰宅するかを知っていた”**としか思えない余裕があるからだ。
今、唯一の救いは、彼女が“こちらを害していない”という事実。
しかし……
このまま“観察”という立場でいられる保証は、どこにもない。
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――次回記録予定:報告書No.005「GPS追跡不能時における接触検証」