第3章:存在認知試験記録
研究報告書No.003 / 記録者:アキト・ミナセ
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【実験目的】
被験者ミサキの「ワープ機能(仮)」が、第三者の存在・視認によって制限されるかを検証する。
また、彼女の出現が物理的存在として感知可能か、**第三者による“観測記録”**をもって判定する。
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【協力者情報】
氏名:東雲カエデ(仮名)
関係性:学部時代からの友人。現在も週1〜2回の頻度で会っている
特性:
•精神的に安定
•嘘をつく癖なし
•心理学実験への参加経験あり
※アキト個人的補足:
やや世話焼き気質。ミサキの存在については一切知らせていない。
協力要請の際、「面白そうじゃん」と快諾。
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【実験内容】
•実験場所:都内某カフェ(週末で混雑している)
•アキトとカエデが談笑している最中に、ミサキが接近・出現できるかを検証
•ミサキへの情報提供:日時のみ。場所は一切伏せた
(SNS非投稿、携帯GPSオフ、Suicaログも非使用)
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【経過記録】
13:00
アキト・カエデ、カフェ入店。
窓際2人席にて着席。注文完了。
会話内容:他愛のない近況報告
13:17
カエデ、周囲を見回し「なんか視線、感じない?」と発言
※店内にそれらしい人物の姿なし
13:21
カエデ、冷たい笑みを浮かべて
「ねぇ……女連れで会うってどういうこと?」
と口にする
アキト:「は?」
カエデ:「今、アキトの後ろに立ってる女の子、誰?」
アキト、背後を振り向く。誰もいない。
13:22
店内の空気が急に冷える(冷房の設定変更なし)
カエデ、再び発言
「……あれ? え、うそ。今、こっち向いて――」
→直後、カップを落とす(ホットティー)
→手の甲にやけど(全治2日)
→「……消えた……あの子、消えた……嘘でしょ……」
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【補足事項】
・監視カメラ映像:
13:21の時点で、アキト背後のフレームに「ノイズ」が発生。
わずか0.3秒ほど、髪の長い女性の輪郭が確認されるが、静止画解析でしか認識不可。
店員・他客からの目撃情報はなし。
・カエデ証言(実験後):
「背の高い黒髪の子が、アキトの後ろに立ってた。ずっと、にこにこ笑ってた。私が『誰?』って言ったら、こっちを向いて――次の瞬間、目の前から消えた……“消えた”って言うしかない。立ち去ってない。“パッ”と消えたの……ねぇ、アキト。あの子、誰?」
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【アキト個人所感】
明らかに、彼女は“他者の目の前にも”現れることが可能だ。
存在が観測されても消える。
目撃されたにも関わらず、それに干渉されずに“消える”ことができる。
物理的な干渉・遮断は意味を成さない可能性がある。
カエデの精神状態は安定しており、幻覚の兆候は認められない。
だが、目撃後から微妙に態度が変わっている気がする。
彼女はしきりに「アキト、本当に大丈夫なの?」と繰り返してくる。
正直、俺も自信がない。
ミサキの能力は“研究”の域を超えてきた。
彼女の目的が、
「ただ傍にいたい」だけで済むとは……もう思えない。
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――次回記録予定:実験004「アキト不在時の自室侵入観察」