第2章:密室侵入実験記録
研究報告書No.002 / 記録者:アキト・ミナセ
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【実験目的】
被験者ミサキが、物理的な封鎖が施された空間内へ接近できるかを検証。
「鍵のかかった空間」「セキュリティコード付き扉」「非公開の訪問先」等への侵入可否を調査。
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【実験環境】
対象区画:
研究棟E-2 地下準備室(通称:旧保管庫)
•ドアロック:電子式テンキー(暗証番号変更済)
•入退室履歴:電子記録あり
•監視カメラ:2基設置(録画機能オン)
実験時間:
午後15:00〜15:30
被験者への通知:
「アキトはしばらく“誰にも言っていない場所”で資料整理しています」
という内容の曖昧な連絡のみ送信。具体的な場所名・建物名は一切伝えていない。
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【実験経過】
15:03:
アキト、準備室に入室。
施錠・セキュリティ確認完了。
室内にて記録作業開始。
15:07:
携帯に通知。「今、会いに行ってもいいですか?」というミサキからのメッセージ。
返信せず。
15:11:
ドアの外に足音。
※この時点で電子ロックに解除記録なし。
15:12:
監視カメラ映像:
ドア前の廊下に、突如ミサキの姿が映る。
「映る」というより“フレームに突然出現”に近い。
移動経路・前段階の足取りは映っていない。
15:13:
録画上、誰もテンキーに触れていないにも関わらず、
“カチッ”というドアのロック解除音が鳴る。
15:14:
扉が開き、ミサキが入室。
「やっと見つけた」と微笑みながら、何の違和感もない様子で席の隣に腰を下ろす。
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【アキト個人記録:15:19 手書きメモ(後に報告書へ転記)】
無理だ。
俺、確かに鍵かけたよな?
通知もなかった。足音もなかった。
扉のセキュリティも通ってない。
カメラの映像は“フレームの間に出現した”ようにしか見えない。
彼女はずっと笑っていた。
「会えるの、わかってたよ」って……。
なんだよそれ。
なんで、わかってたんだよ。
気づかれないようにドアを録音したら、“何も触れてない”のに、音だけ鳴ってる。
空気が変わるような感じすらした。
これ、本当に“研究”で済むのか?
この現象は……人間のものなのか?
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【研究者所感】
被験者の空間侵入能力は、すでに常識外の領域に達している。
これはもはや“監視をすり抜けた”レベルではない。
接触を回避する手段が存在しない可能性が高い。
ミサキ本人は終始穏やかだが、言動の節々に“距離”に対する異常な執着が見られる。
「アキトさんとは、いつでもどこでも会えるよね」
という発言の真意が、冗談に聞こえない。
次回は彼女から離れてみる。
自宅以外の宿泊施設での調査を検討。
できれば、誰にも行先を伝えずに。
本報告書は以上。
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――次回記録予定:実験003「第三者を交えた距離測定と存在認知試験」