第41話 見方が変われば味方ばかりだった
アルフィーに初めて会った時、彼が何も教育を受けていなかった理由。
それはもしかしたら、将来的に俺とアルフィーの対立を避けるためかもしれない。継母は俺とアルフィーを争わせないように配慮したのではないだろうか?
しかも初めてあった時も、アルフィーの身なりは粗末だったが、自分はある程度質の良い物を身に着けていた。これはこの屋敷に入った時に女主人としてこの屋敷で働く者たちが不安に思わないようにだろう。
その後も継母は商人を呼んで買い物をしていたようだった。
『社交界のバラ』と呼ばれて、様々な女性に服装などのアドバイスをしていた母の後にノルン伯爵家の社交を請け負うことになったのだ。
そのプレシャーは半端じゃないだろう。
俺は父を見ながら言った。
「……では私が隣国に行くのは丁度いい。私はあなたの子ではないのなら、ノルン伯爵家を継ぐ理由はない」
アルの方が能力を見て領主に相応しいと思っていたが、血筋としても現ノルン伯爵の血を継ぐ物なのだ。正当な後継者だ。
すると父が怖い顔で言った。
「何を言っている? このノルン伯爵家は元々はレベッカの実家だ。レベッカの血を受け継ぐレオナルドこそふさわしい。それに……確かに血は繋がらなくとも、私はお前の父だと思っている」
嬉しさと情けなさと己の無知さが混ざり合って心がぐちゃぐちゃだ。
そんなぐちゃぐちゃな心は泣くことでしかバランスを保てそうになかった。
――ああ、以前の俺はなぜあんなにも頑なに、父や継母とアルフィーを拒んだのか?
なぜ、父の言葉を聞こうともしなかったのか?
なぜ……周りを見て声を聞かなかったのか?
なぜ……人を大切にしなかったのか……?
なぜ……
なぜ……
なぜ!!
後悔と過去への自分の短絡さを目の前にして俺は、泣くことしかできなかった。
「これ以上……俺を……泣かせないで下さい」
俺が途切れ途切れに声を上げると、父が立ち上がり俺の肩に手を置いた。
「レオナルド。私の息子よ、ノルン伯爵家は元よりお前のものだ。だからどうか……自分の存在が邪魔だ、などという理由で隣国に行くのは止めてくれ」
父は再び手紙を見てある一点を指さした。
――ノルン伯爵殿へ
この度、レオナルド・ノルン殿に費用は全額友好国ケルパトス国の大公家が負担する特別留学の話が来ている。大公家は、レオナルド殿を将来的にもらい受けたいと言っている。
もしもこの話を受けるのであれば、次男アルフィー・ノルン殿に領主教育を行うことを推奨す。
グルシア国王家――
「この留学を受ければ、あちらの国で生きることになる」
「ええ」
父はさらに俺を見ながら言った。
「レオナルド。私は、お前を後継者だと思っている。もしも、隣国に留学したいと思うのであれば、何も今でなくとも構わないのではないか? 蜜の花の利益で十分に自費留学だって可能だ。今回の件を断っても機会を失うわけではない」
「私は……ここにいてもいいのでしょうか?」
気が付くとあたたかく大きな腕の中にいた。
「当たり前だ!!」
そう、俺は父に抱きしめられていた。
10歳の俺の身体は大きな父の腕の中にすっぽりと収まってしまった。
トクトクと規則的に聞こえる心臓の音が……信じられないほど、心地よかったのだった。
「いずれ隣国で学びたいことが見つかるかもしれませんが……今は、この国で研鑽を積みます。どうぞ、父上、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
「ああ。任せておけ」
そして俺は、留学をせずにこの国で……父の元で学ぶことに決めたのだった。
+++
父の部屋を出るとアルフィーが俺を見つけて顔を上げた。
どうやら話が終わるまでここで待ってたようだった。
「おかえりなさい!! パーティーはどうでした?」
俺はアルに「ただいま。とても充実していた」と答えた後に言った。
「アル。もしも彼女さえよければ、マリーさんに会えないかな?」
するとアルが目を大きく開けて声を上げた。
「え? 母上に会うのですか? 兄さんが!?」
「ああ……ぜひ」
俺はこれまで継母のマリーさんを避けてきた。
でも、彼女は何も悪くない。むしろ母に協力してくれた……恩人だ。
「ま、ま、待って下さい、すぐに伝えます!!」
アルは転がるように部屋を出るとすぐに、『いつでも来てほしい』との返事を伝えてくれた。
俺はアルと一緒にマリーさんの部屋を訪れると、マリーさんはいつかみた無表情で、これまたちぐはぐな服で迎えてくれた。
「レオナルド様、このようなところにようこそ」
俺は謝罪しようと思っていた。でもいざ本人を目の前にするとどうしても口が動かない。
俺は拳に力を入れて動揺しているのを悟られないように言った。
「実は今度、陛下にお会いすることになりました」
俺は、留学を断るために陛下にお会いすることを伝えると、マリーさんは目だけ大きく開けて表情を変えずに言った。
「そ、それは……素晴らしいですね」
「そちらにマリーさんも同席して頂くことになりました。俺の《《保護者》》ですので……」
するとマリーさんの大きな声を上げた。
「え゛!! でも……保護者って……レオナルド様!!」
そして、マリーさんが驚いた後に嬉しそうに笑いながら大きな声を出した途端に、顔の白い粉がよれて顔にヒビが入った。
俺はそんなマリーさんを見て内心『やっぱり……化粧苦手なんだ』と思った。
俺はマリーさんを見ながら尋ねた。
「マリーさん。差し出がましいとは思いますが……俺にあなたに似合う服を選ばせてもらえませんか? 化粧品も……」
断られても仕方ないと思った。
ところが、マリーさんはヒビの入った顔でそれはそれは嬉しそうに笑った。
「ええ?! レオナルド様が!? ぜひお願いします!!」
「はい」
こうして俺はマリーさんと出掛けることにしたのだった。




