第38話 あなたの望む杖は? 金、銀、それとも……?
「よし、レオ!! 会場に戻ろう!!」
キャリー様の瞳から目を逸らせずにいると、ノア様が大きな声を上げた。
俺は突然のことにびくっと肩を上げた後に、ノア様たちの方を見て姿勢を正して返事をした。
「はい!!」
エリザベス様に話があると言われて会場の端まで来たが、今はアレク殿下の誕生パーティーの最中だ。いつまでもここにいるわけにもいかない。
話が終われば、会場に戻る必要がある。
(緊張するが、再びパーティー会場に戻ろう……何も起こりませんように!!)
祈るような気持ちでノア様たちを見ていると、ノア様が声を上げた。
「レオ~~じゃあ、会場でね~~ふっふふん~~♪」
「え? ノア様……?」
ノア様は、俺を見ながら目を三日月のようにして笑うと、上機嫌に俺たちから離れて行った。
てっきり一緒に会場に戻るのだろうと思っていたので、唖然としてしまった。すると今度はリアム様が口を開いた。
「ふっ、ではレオ。会場でな!!」
「リアム様も……?」
リアム様も楽しそうに目を細めると、会場に戻って行った。
エリザベス様とキャリー様と共に残された俺は、どうすればいいのかわからずにリアム様の背中を見送っていた。
俺が戸惑っているとエリザベス様が俺に向かって手を差し出した。
「さぁ。レオ、私たちも《《ゆっくりと》》会場に戻ります。ふふふ、《《ゆっくりと》》ね。手をお貸しなさい」
「は、はい!!」
反射的にエリザベス様の手を取ると、キャリー様が声を上げた。
「なぜレオ様の手を取るのですか?」
不満そうに声を上げるキャリー様に向かって、エリザベス様は慌てて言った。
「殿方の手を借りた方が歩きやすいからレオに手を借りているだけよ。いわば杖のようなものよ!! 他意はないわ!!」
(なるほど!! 俺は杖に選ばれたのか……)
キャリー様は俺の手をじっと見た。
俺はしばらく考えて言った。
「もしかして、キャリー様も歩きにくいのですか?」
キャリー様は目を泳がせた後に小さく頷いた。
俺は反対側の手をキャリー様の前に差し出した。
「どうぞ」
キャリー様は顔を赤くした後に「ありがとうございます」と言って俺の手を取った。するとエリザベス様が何かを呟いた。
「(……いつもドレスで走り回ってるくせに……)」
俺はエリザベス様とキャリー様のお二人の杖となり会場に戻ることになった。
正直に言ってかなり恐れ多い……
俺がエリザベス様とキャリー様に手を添えていると、エリザベス様が俺を見ながら言った。
「レオ、いい? これからアレクの誕生パーティーが終わるまで……何があっても私の側を離れることを禁じます。いい? 何があってもよ!?」
別に離れるつもりはなかったが、そこまで言われると緊張してしまう。
俺は「はい」と答えた。
こうして俺たちは再び会場を目指したのだった。
◇
会場に戻った途端、男性たちから、俺に対してまるで針のような鋭い視線が突き刺さるのを感じた。
不審・詮索・疑念……
負の感情を含んだ視線は本当に刺さるように痛い。
さらにひそひそと話声も聞こえる。
『エリザベス様とキャリー様を連れて……一体誰だ?』
『あのお二人をお連れして……誰だ?』
(結構、声をひそめていても本人に聞こえるんだな……覚えておこう。それにしても……)
わかっていたことだが、俺の認知度はかなり低い。
今となっては、先ほど俺にわざと飲み物をかけた令嬢が俺を知っていたのが奇跡に思えた。
俺の認知度が低いのは当たり前だとしても……というより、エリザベス様とキャリー様の注目度が高すぎるのでは??
キャリー様は、クラン侯爵家のご令嬢だが……そういえば、エリザベス様は?
不思議に思っていると、エリザベス様が小声で呟いた。
「(見つけたわ……あそこね……随分と派手に注目を浴びているわね……)」
エリザベス様の声はあまりにも小さくて聞こえなかったが、視線の先に令嬢が大勢固まっていた。
(何だ!?)
「あちらにお兄様たちがいらっしゃったわ」
キャリー様の言葉で、ようやく令嬢の方々の奥にノア様とリアム様がいらっしゃっるのが見えた。そしてあいさつが終わったのか、本日の主役であるアレク殿下までいらしゃる。
(ああ、ノア様やリアム様、それにアレク殿下もいらっしゃったのか……通りで令嬢が多く集まっているはずだ……)
将来性抜群の三人が揃っているのだ。三人を目当てに集まった令嬢の人数がかなり多い。
むしろこのパーティーに招待されている俺たち世代のご令嬢は、全ては集まっているのではないか、と思えるほどだ。
(エリザベス様とキャリー様が注目されていたのは、他のご令嬢が皆、アレク殿下たちのところに行っていたからかもしれないな……)
俺は先ほどの視線の意味を悟って目を細めた。
だが、ここまで囲まれているとと、すでに羨ましいとも思わなくなるから不思議だ。
むしろ――絶対に近づきたくはない!!
そんな風に思っていると、アレク殿下たちの側にいる令嬢たちの中に先ほど俺に飲み物をかけた令嬢たちがいた。
(うわ~~、俺、この先には行かない方がいいよな……)
俺はエリザベス様に向かって言った。
「あの……エリザベス様……ノア様やリアム様の元に行かれるのであれば、俺は行かない方がいいのではないでしょうか?」
やんわりと先ほどの令嬢と接触する危険性があるので断ると、エリザベス様は俺を見ながら言った。
「レオ、今日は決して私の側を離れないと約束……したわよね?」
じっと見つめられて俺はたじろぎながら答えた。
「は、はい」
確かに約束した。
俺はすでに、アレク殿下に『おめでとう』と言うというこのパーティーでの役目を終えた。だからこの後は、エリザベス様とキャリー様の杖として過ごそうと思っていた。
エリザベス様はもしかして、先ほどの令嬢とのやり取りは忘れてしまわれたのだろうか?
高貴な人ともなれば、あのくらいのトラブルはなかったことと同じかもしれない。
助けを求めるようにキャリー様を見れば、キャリー様も「お兄様たちの側にいれば安心ですわ」と言った。
「……わかりました」
もう、覚悟を決めるしかない。
俺は何も問題が起きませんようにと祈りながら、アレク殿下、ノア様と、リアム様の元に向かったのだった。




