第22話 乙女心は現在学習中……
「こちらです」
「ありがとう。レオ」
会場に案内すると、アレク殿下が嬉しそうに微笑んだ。
殿下とエリザベス様が席に着いたタイミングで、侍女長のエリーと侍女のアンリが素早くやってきて、お茶の希望を聞いていた。
アンリから説明を聞いた殿下が楽しそうに言った。
「へぇ~~。随分面白い茶葉を選んだね~~。特にカエラ地方のお茶が飲めるなんて嬉しいな……私はそれを」
アレク殿下が嬉々としてお茶を選んでいる姿に俺は嬉しくなった。
(よかった! 殿下が喜んで下さった。だが……さすがだな。私はこのような土地がこの国にあることさえも知らなかった……本当に以前の私は何も知らなかったのだな……)
私が少し考え事をしていると、ノア様が口を開いた。
「あ~~そっちかぁ~~アレクは絶対シャガード地方を選ぶと思ったのに~~」
「ふふふ。だから言っただろ?! 新し物好きなアレクはカエラ地方のお茶を選ぶと……」
口を尖らせるノア様と、嬉しそうに口角を上げるリアム様を見て、アレク殿下が声を上げた。
「そうか……リアムには読まれたのか……さすがだな、カエラ地方のお茶が最近出来がいいとは話には聞いていたが今まで飲む機会がなかったのだ」
アレク殿下の言葉に、リアムが言った。
「それはそうでしょうね……王宮にいたら、基本ロイヤルワラントの茶葉しか出て来ませんからね。こうしてお茶会などで飲むしか機会はないと思いますが……お茶会では皆、無難にロイヤルワラントの茶葉を選ぶ傾向がある。似たような物ばかりになりますから……」
実は俺たちもロイヤルワラントのお茶は検討したが、蜜の花に合うものがなかったのだ。今回のメインは蜜の花なので、そちらをメインに選んだが、それがどうやら功を奏したようだ。
「レオ、貴重な機会を感謝する」
「いえ、こちらこそ……そのように言っていただきありがとうございます」
アレク殿下の笑顔で場が一気に和んだ。
(ふふふ。皆様。楽しんで下さってよかった)
ほっとしていると、エリザベス様が不機嫌そうな声を上げた。
「ちょっと!! レオナルドと言ったかしら? そこのあなた、どの茶葉がわたくしに相応しいか選びなさい。わたくしのお茶を選ぶ栄誉を与えますわ!!」
すると一瞬でさっきまで和んでいた場が凍り付いたかと思うと、キャリー様がスッと音もなく席を立ってエリザベス様に近づいた。
そして怖い顔をしてエリザベス様に向かって口を開いた。
「エリザベス様……どういうつもりですの? レオ様を呼び捨てにするなんて!!」
(……え? そっち??)
私はてっきり茶葉のことかと思ったがそうではなく、どうやらキャリー様は私を呼び捨てにしたことが気にいらなかったようだった。
「あら? 誰かと思えば、お子様体型のキャリーじゃなくて??」
エリザベス様が「ふふん」と顎を上げると、キャリー様の額に青筋がたった。
(わっ! わっ!! これはどうすれば?? キャリー様は今の姿も充分可愛いと思うが……これは言わないほうがいい……のか?)
キャリー様は8歳のお子様なので、お子様体型なのは当たり前だ。
それなのに、エリザベス様はなぜそんな当たり前のことを言っているのかさっぱりわからなかったが、とてもじゃないが、口を出せそうな雰囲気ではなかったので黙っていた。
するとキャリー様が腰に手を当てながら言った。
「ふっ。エリザベス様。野菜が食べられない、あなたに言われたくはないですわ~~」
エリザベス様も立ち上がってキャリー様を睨みつけながら言った。
「もう、随分と食べられるようになったわよ!!」
(キャリー様はエリザベス様が野菜が嫌いなことを知っている程の仲? もしかして、本当は仲がよくてこれは女性特有のじゃれあいなのか? ああ、私には親しい女性の友人もいないのでわからない!!)
どうしたらいいのかと、オロオロしていると意外にも声を上げたのはリアム様だった。
「まぁ、まぁ、お2人共。落ち着いて下さい。ゆっくりお茶を飲んで、話をしましょう? ね?」
「リアム様がそう言われるなら……」
「仕方がありませんわね」
2人はおとなしく席に座った。
リアム様はほっとして、俺に向かって片目を閉じた。
俺は小さく頭を下げながら『ありがとうございます』と小声で言った。
そして、二人が座って落ち着くと、アレク殿下が困ったように言った。
「レオ? 悪いけどエリザベスのお茶を選んでくれる?」
「は、はい」
俺はエリザベス様の近くに行くと、できるだけゆっくりと話しかけた。
「お嬢様。甘い物はお好きですか?」
するとエリザベス様は顔を真っ赤にして、視線をそらせた後、小声で呟くように言った。
「……好き」
「わかりました。お待ち下さい」
私はエリーに指示を出した。
「インセロ地方の物を」
「はい」
そうしてようやくお茶も決まり、お茶会がスタートしたのだった。
+++
今回は人数も少ないので円卓にした。
席はお客様が好きにな場所に座れるように予め決めてはいなかったので、俺は開いている席に座った。
俺の隣は、右隣りがリアム様で、左隣りがキャリー様だった。
「(レオ、ご苦労様)」
座るとすぐにリアム様が片目をつぶりながら言った。
「(いえ。助けて頂いてありがとうございました)」
俺も再び小声でお礼を言った。
どうやらキャリー様は反対側に座っているノア様に「騒がないの」と注意されているようだし、ノア様の隣に座っているアレク殿下はエリザベス様に「大人しくすると約束しただろう?」と注意をしているらしく、キャリー様もエリザベス様もどこか不機嫌そうな顔をされていた。
(……大丈夫だろうか?)
そんな様子で始まったお茶会だが、料理長がお菓子のプレートを運んで来ると雰囲気が一転した。
今回のお菓子は1人ずつプレートを用意することにした。
そのプレートが目の前に置かれた途端、先程まであれほど不機嫌そうだったキャリー様とエリザベス様も瞳が輝き出した。
「わぁ~~小さなケーキがたくさん?? 可愛い~~!!」
キャリー様が嬉しそうな声を上げた。
「本当!! いつもお腹がいっぱいであまり多くの種類のお菓子を食べられないけれど、小さくすれば色々食べられていいわ~~~」
エリザベス様も不遜な態度が吹き飛んで年相応の可愛い女の子ようにはしゃいでいた。
「なるほど!! 小さなお菓子か……それなら皆、話の合間にお菓子を手に取ろうと思うかもしれないな……」
ノア様がプレートに並べられた小さなお菓子を見ながら真剣な顔をした。
「ああ。お菓子の種類ばかりを考えていたが、大きさを変えるのもいいな……」
アレク殿下が食い入るようにプレートを見ていた。
(よかった。皆様、楽しんで頂けたようだ)
実はこれはお菓子を相談している時に、『全部食べたくなりますよね~~』と言ったアルの言葉がヒントになっていた。
アルが全部は食べられないというので、俺と半分ずつ分けることにして気が付いた。
『初めから、これの半分の量……いや、もっと小さいケーキを出せばお客様は多くの種類のケーキやお菓子を食べることができるのではないだろうか?』
するとみんなが『それはいい』と賛成してくれたのだ。
笑顔の皆様の顔を見た俺は、アルと視線を合わせて微笑み合ったのだった。




