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遠く離れた未来の果てで、  作者: 豆狸
知識の国編 2章 女神と死神
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第7話 旅の始まり

これは1人の青年「彼方 遥」の長い旅の物語。

時には国を、時には世界を、時には1人のニンゲンを中心とした様々な騒動に巻き込まれていく。


生きる意味。その答えを探す物語。

その答えを形にする物語である。

少し高くなった砂丘の上。ここは風上に位置することもあり、近づく足音に直前まで気がつかなかった。ふと足音を感じ目を開けると、月明かりに照らされたひとりの女性がこちらを見下ろしていた。


「やぁ、やっとみつけたぞ」


彼女はそういうと、「ふむぅ」と小声で唸りつつ宇宙船に手を触れる。船体を一瞥した後、そのすぐ横で虚ろな目をした遥と目が合う。


「生きておるか?お主は誰じゃ?」

「…ぁ……ゴホッ」


今日はほとんど会話も水分補給もなかったせいか、声が掠れる。


「ほれ、これを飲むのじゃ。なに、毒では無い。」


そう言うと彼女は手に持った容器に口をつけ、水を含んだ。


「の?」


差し出されたウイスキーのボトルのような容器を受け取り、中の水を飲んだ。謎のサボテンの水分をすする生活がここ数日続いていたため、まとまった飲み物は久しぶりであった。

ただの水がこれほど美味しいと思えたのは初めてかもしれない。


「ゴホッ...ありがとうございます。助かりました。」


落ち着いたところで彼女を改めて一瞥する。

夜の闇の中、月明かりのスポットに照らされたように銀色煌めく長い髪。深紅の瞳。赤ぶちメガネに透き通って凛とした声。白のワンピースに胸元に花の形の飾りと、華美では無い程度のフリルや細かな刺繍が施されている。ワンピースと表現したが白ロリータファッションをカジュアルにしたような見た目と言った方がイメージがつくかもしれない。月明かりに照らされて服越しにうっすらと見えるスラリとした体型。顔立ち肌色は日本人風ではあるが、見方によっては外国人にも見える。言動の印象が先行してしまい変なバイアスがかかっていたが見た目だけの印象は薄幸の美女という感じである。白一色だが、第一印象を色で例えるならば何故か黒だった。

年齢は自分とそう変わらないくらい。風の音に紛れて近付くまで気づかなかったが、1度存在を認識してしまうと目が離せない存在感を放っている。


貰った水を半分ほど飲んだところで、ようやく意識がハッキリとしてきた。


「落ち着いてきたようじゃな。さぁて、いくつか聞きたいことはあるが、まずはお主は何者だ?空から遺物かが降ってきたと聞いて飛んできたらもぬけの殻。煙を見つけて来てみたがまさか人がおるとはのぉ。この機械を動かしたのはお主じゃろ?」


「はい、あの、自分はただの旅行客です。名前は遥。彼方遥と言います。あなたは?」


「ふむ…名乗る前にまずはお主の素性を詳しく教えて貰えるかの。なに、後で聞いた分はきっちり答える故。」


「月面旅行から戻る際に事故に巻き込まれてしまって、砂漠のど真ん中に不時着したようです。それにしても、言葉が通じる方で良かった。ここはどこでしょうか?」


「月へ旅行?冗談ならもっとまともな嘘をつくべきじゃぞ?あと、こちらへの質問は先程も申した通り後じゃ。まずはお主が何者かを見極めてから楽しくおしゃべりしようではないか。生憎、妾は笑えない冗談が嫌いでの。返答次第では敵として対峙することになるぞ。」


「確かに月面旅行は非公式で行われていたみたいだったので、怪しまれるのも無理ないことですが事実です。そうですね、月から持ち帰った砂が船に積んであります。それを鑑定すれば嘘でないことは分かるでしょう?見ての通りの一般人で、明日の食事に困窮している無一文ですよ。ゴホッ。」


ふんっと鼻を鳴らしながら、ボソッと「全部飲むとよい」と言いつつ容器を渡しながら話を続けた。


「で、月の砂だと?そもそもどうやって月へ行った?」


「JATAから、有人ロケットで月に行ったんですよ。ツアーと聞いて行ってみたら酷い目に合いましたが...。」


「JATA…有人ロケットを動かすエネルギーや資材、技術者はどうやって調達したのだ?」


考えるように彼女は目を瞑る。


「そちらこそ何を言ってるんですか?宇宙開発真っ只中じゃないですか?テレビも新聞もネットだって宇宙の話で持ち切りだったし日本人なら知らないわけないですよ。」


住所を言っても伝わらず、日本の地理には全く精通していない様子でしばし平行線な会話が続いた。


「そもそもあなたの話している言葉は日本語でしょ?ここだってどこかの国に所属してるはずです。最初に質問しましたが、ここはどこなんですか?自分の話せる限りはお話したつもりです。」


「そうじゃな。その質問には答えてやろう。ここは、砂漠だ。どこの国にも属さぬし、そもそも国に属する必要性が無いのだ。」


淡々とした口調で話を続けた。


「お主の話に嘘偽りが無いことは直感では伝わっておる。じゃが、内容が伴っておらぬ。現時点において日本という島国は存在しない。それははっきり言える。知っているものは極僅かな事柄ゆえ、敢えて話題から外していたのだが、この世界には島国は存在しない。大陸は全て地続きになっておる。お主の言う国は存在するはずがないというのが正しいじゃろう。」


ここまでの話を総合するに全容が見えてきた気がするのぉ。と言いながら言葉を続ける。


「今話している言語は確かにお主の言う日本語と共通しているようじゃが、それはここが日本だからではない。この地域にはそもそも今話している言語しか存在しないのだよ。言語という概念は持ち合わせているが、1つしか存在しないものに種類の区別は不要だろう?」


どういうことだ?微妙に話が噛み合わないぞ...。


「ここは日本語を使っている別の国であることは分かりました。そもそも日本にこんな本格的な砂漠はないはずですし…。しかし、自分の知っている地理があなたの言うそれと違う。ここがどこにも属さない砂漠というなら1番近くにある国はどこですか?」


「ここに1番近い国は力の国。アルクトゥルス。近いと言ってもここから2日はかかるがの。お主が宇宙から来たというならば、そこで何かあったのでは無いか?」


知らない国であったためこの話は保留にしつつ、今までの出来事をかいつまんで説明した。月から地球への帰還時に探査機と事故を起こしたこと、その後何故か地球の近くにいたこと。海だったはずの着地点が砂漠であったこと。そしてここ数日の出来事。


「なるほど、概ね理解はした。」


「今は情報が少なすぎます。会ったばかりでこんな事を相談するのも申し訳ないのですが、人の住んでいる場所まで案内してもらうことは出来ますか?先程の口ぶりからして、他の人にも言葉は通じるようですし。」


「そうじゃな。まぁ、つまるところがお主は国籍不明で帰る場所はおろか働き口すらない迷子さんということだな?より細かいことは追追聞かせてもらおう。衣食住困っているのであれば街までの案内とは言わず、そうだな。うちで働いてはみないか?」


言葉の意図を探っていると少し間を置いて更に続けた。


「ちょうど秘書を探してていてな。なに永久雇用と言う訳では無い。お主の家が分かれば帰れば良い。それまで、わざわざ職探しをするくらいなら私が直接雇用してやろうというわけだ。」


「それは願ったり叶ったりですが、こんな今日見知った他人をなぜです?」


「...まぁ、色々だ。」


「理由は追追聞かせてください。有難く働かせて頂きます。ところで、どうやって移動するんですか?見たところ車は無いし、宇宙船はこの通り動きません。」


「案ずるな。これらは後日別の者に運び出させよう。ここに来るものなど滅多に無い上に持ち運べるようなものはおらんじゃろう。移動手段だったか、そうじゃのう…。ここからは徒歩で2日じゃ。」


日本語なのに細かいところで意思疎通がはかれない。前提がなにか根本的なものが違うような強烈な違和感。自分は一体どこに墜落してしまったのか。混乱している間に会話の中でに何かを悟った彼女はそうそうに話を切りあげた。そして、彼女の住む街へと案内されることとなった。


「まずはここから1番近い国、砂漠の入口にあたる力の国「アークトゥルス」に向かう。目的地である知識の国「スピカ」への中継地点じゃな。妾は別の手段でここまで来たが、生憎2人の移動はできんでな。そうと決まれば早速出立とするかの。」


深夜。月明かりの下、ふたつの足跡が続く。


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