第5話 Fall with ovel
「なっ!?」
突如現れた探索機は真っ直ぐこちらに向かってくる。
「エマージェンシー!未確認物体が急速接近!緊急回避に移るょ!ベルトを締めて待機してね(> <)!」
焦ったような喋り口調のAI(ovel)は、バタバタと動いている。どうすれば良いか、ぐるぐると回転する思考を遮るようにアナウンスが続く。
「衝突するょ!衝撃に備えてね!」
直後、擦る形で脱出艦と探査機が衝突した。その勢いで、ヒノキ・ツツジの機体とは逆方面に機体が飛ばされる。
衝撃に眉をひそめ、歯を食いしばる。
背筋が凍る。
脱出艦もいくらか操縦はできるらしいが、AIが制御出来ない以上、素人には手も足も出ない。それでも何とか出来ないかと激しい揺れの合間で試行錯誤を繰り返す。
(まだこんなところで死ぬ訳には行かないっ!)
今まで感じてきた事の無い絶望感と高揚感。
こんなところで終わる訳にはいかない。
足元にあった操作マニュアルに隈なく目を通す。
モニタに機体の破損箇所が表示されており、AIによる制御が出来ない部分が表示された。
機体の傾き制御に損傷がある。
手動で操作できる機能は生きており、マニュアルをみながら対処。
制御を間違えて機体を大きく揺らしつつも調整を続けた。
それから数分、出来そうなことは一通り終えた結果、揺れは少し緩やかになった。
とはいえ状況としては何も変わっていない。順路を外れ、前に進んでいるのかすらよく分からない。できることはやった。ここからはAIに任せることしか出来ない。
(ついてない人生だったとはつくづく思うが、まさかこんなことになるとは...。)
流れに身を任せる形で揺れが収まるのを待った。一息ついた束の間、艦内に再びアラートが響き渡る。
「次がくるよ!再度衝撃に備えてね!」
息をつくのも束の間。
衝突の際に分裂した機械の破片がこちらに飛んで来るのが肉眼でも確認できた。空気抵抗が無い分、無駄なく無慈悲にこちらへ向かってくる。
(衝突する!)
覚悟を決めてベルトをつかみ衝撃に備え、ギュッと目をつぶる。いよいよ次にぶつかれば期待の破損が耐えられるのか分からない。強い衝撃にそなえ、今か今かと待つ。
待つ。
待つ。
しかし、
その時が訪れることは無かった。
目を開けると近づいていたはずの破片は歪んで長く変形し、こちらには近づくどころか遠ざかって行くのが見て取れた。
(なんだこれは?空間が歪んでるのか?それとも夢でも見てるのか?)
刹那、船内は激しい揺れに包まれた。
衝突の際とはまた違う小刻みな揺れに頭が揺さぶられる。まるで体と人格を分離されるような感覚に息もできずされるがまま。
しばらくすると揺れが落ち着いてきた。が、思考がまとまらない。何がなにやら分からないままに呆けていると、周りにあった様々なものは湾曲し、消え失せ、気がつくと月と地球の中間地点に船が移動していた。
(............)
(助かったのか?ヒノキさんと、ツツジさんは?)
(............)
その答えは出ないまま船は地球を黙々と目指した。
「進路を確保したょ!地球まであと3日で到着予定!バイタル安定。現状、地球への着陸は予定通りだょ♪」
画面上の妖精AI(ovel)は平常運転にもどり、ゆったりと画面の上をフヨフヨしていた。
「ふぅ」と、過去一番の安堵のため息を漏らした。
(何はともあれ、生きている…)
悩んでも心配しても仕方ない。きっと2人も無事だろうと思うことにして、あとは地球に着陸するのをひたすらに待った。
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3日後、予定通り船は大気圏に突入した。
「大気圏に突入したょ!近隣の海に着水する予定だから衝撃に備えてね!機体が発熱するから、周りにはなるべく触れないようにね!」
もう聞き慣れてしまったアナウンスと共に機体の周りは火の壁に覆われた。その後、地表が見えたところで妖精AI(ovel)がアラートを発信し始めた。
「大変だょ!海が無くなってる!このままでは地面に不時着することになるょ!緊急着陸モード。エアー逆噴射を着陸直前に行うょ!」
座っている位置からは落下先を見て取れなかったが、目の前の小さなモニタには砂漠のような更地が確認できた。
「衝撃に備えてね!衝突を間逃れない場合は緊急退避、つまり強制的に椅子ごと外に射出するょ!パラシュートが着いてるからタイミングを見てレバーを引いてね。私は自動的に椅子の横にある指輪型の通信機に移動するから忘れずに身につけてね!」
(これか?)
箱のような形の入れ物にすっぽり収まった指輪を身につけた。
「...ッテ ... ミニ...ミミニ...」
すると、指輪から微かな声が聞こえた。
指輪を耳に近づけると、やっと明確な音声が聞き取れた。
「耳に近づけてね♪聞こえたら指輪に話しかけてね!」
「聞こえてる」
「りょうかぁーい♡早速だけど緊急脱出するしかなくなったゃったから、数カウント後に席ごと射出されるよ!ベルトを閉めて、パラシュートバーの位置を確認してね!」
「確認完了。いつでもどうぞ。」
「カウントダウンを始めるょ!3・(2・1・…ゼロ♡ゼロ♡ゼロ♡)」
何か言っていた気もするが、指輪をはめた手は椅子の腕置きを強く握っていたため気にする間もなく、勢い良く発射された椅子は激しい衝撃と共に宙を舞う。激しい風圧の中なんとかパラシュートを開くことで安定性を保つことに成功した。それと同時に、真っ逆さまに機体は墜落した。
こればかりはAIが居ないと、機体と運命共同体になっていただろう。今生きているという実感はあれど、素直に喜べも笑えもしなかった。