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遠く離れた未来の果てで、  作者: 豆狸
知識の国編 3章 フールプルーフ゜
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第15話 気楽な二人旅

洞窟を抜けると広大な湖が広がっていた。

向こう岸が見えず、海と言われても疑わない程の大きさである。


「さてじゃ。直線距離でここからあと2日じゃな。船で移動したいところではあるが、先ほどお主も見てきたとおり、水中生物には巨大で獰猛なものも多い。そもそもこの辺りは人も住んでおらんし、人工物も殆どないはずじゃ。」


洞窟の中のしおらしさは何処吹く風。元の調子に戻ったらしい。大きく背伸びをして「それにしても、広いのぉ」と呟き、ほら行くぞ!と駆け出した。

意外と子供っぽい一面もあるようで新鮮である。

これが本来の素顔なのかもしれない。

話し方こそ年上のそれだが、見た目は同い年。

むしろ幼い顔立ちゆえに年下にも見える。


アリスのあとを追い、水辺に着く。

洞窟の雰囲気とは違い綺麗な砂浜に、透き通った水。光に煌めく白い服の美女。流石に足を水につけたりはしていないが、ここだけ切りとってみたらバカンスそのものである。

ここにパラソルと椅子と冷たい飲み物があればと思うほどに良い雰囲気である。


「それで、ここからどう移動するんだ?」


「情緒に欠けるのぉ。お主。モテぬぞ。」


「痛いところをつかないでくれ。別にこの景色を見てなんとも思わないわけではない。むしろ、パラソルの下でのんびりと読書でもしたいところだ。」


「そうじゃろ、そうじゃろ」


「ただ寝不足も相まって正直頭が回ってない。食料はまだあるが、少し休憩を挟みたい」


「それもそうじゃな。ではほれ、そこで少し休むかの。」


アリスの指す先には小屋が立っていた。

人工物が全くない中で、その一角だけが異質。明らかに最近作ったようなくっきりとした赤い屋根。白い壁の小屋が立っていた。いや、よく目を凝らすと小屋と言うよりも丸っこい。というか、小屋ではない。「巨大なキノコ」が正しい気がする風貌の何かがそこにあった。


「あぁ、あれは野生のキノコじゃ。中は空洞になっておって寝床にはちょうどいいぞ。」


近づく。


背丈は5mはあろう巨体で、二階建ての小屋くらいの大きさはあった。1階と2階くらいの位置にそれぞれ大きな穴が空いており、1階部分は2人が入っても十分なスペースがあった。

マシュマロのような弾力のきのこの床と壁。中は思ったより綺麗で少ない陽の光が、真っ白な部屋の中で十分に反射しているようで明るい。何も無いがどこでも寝れそうな温度と弾力があった。

アリスが言うには、浜辺によく生えてくる巨大なキノコで、一定周期で種を外に飛ばすタイミングでこの穴が空くらしい。生き物は基本的に近づかないらしいが、理由は詳しくは判明してないそうだ。

成分的にはヒトに害は無いらしいが、他の生物にとっては忌避する匂いやマナが含まれているのかもしれない。


寝ずに歩き続けた疲れもあり、ひとまずここで休憩を取ることにした。


「今更かもしれないが、男と二人でこう、狭いところで寝泊まりというのは大丈夫なのか?」


「今更じゃな。まぁ、お主に組み伏せられることもないじゃろうしの。」


それはそうだと小さな部屋の隅にある突起に腰かける。少し悲しい事実である。


広い平部屋だが、ところどころ突起があり簡易的なベッドや椅子程度には使えそうである。まさに自然の家と言ったところだろう。


「これ、閉じ込められたりしないよな…」


「なに、入口は数週間かけて閉じてまた次の種を作る。この様子じゃとまだ穴が空いたばかりじゃろうから問題ない。」


残りのサンドイッチをつまんで2人は短い睡眠をとった。


何か夢を見たようなきもするし、仄かな甘い匂いが鼻を掠めた気もしたが、はっきり目が覚めた時にはキノコの部屋に1人だあった。


病院のベッドどころか今までで1番いい寝心地と言っても過言ではない。疲れた体を起こすと、外でアリスがなにやら作業をしていた。


「これは、船か?」


「まぁ、船と言えば船じゃな。」


さっきまで寝ていたキノコの家の頭の部分。その一部が見事に切り取られ10人くらいは余裕で乗れそうなサイズのボートが用意されていた。


部屋を出た瞬間に黒い手と尻尾をしまい込んだところが見えたので、寝ている隙にこれを作ったのだろう。


「もしかして見ておったか?」


「あぁ、いや。一瞬だけ。」


「まぁ、お主はなんとなくは観ておるし、自分で秘匿すべきと言っておきながらじゃが、妾の恩恵について少し話そうかの。」


「いいのか?」


「話ついでというか、言い忘れたと思ってな。まぁ特別じゃよ。他のものは知らん。」


彼女の恩恵。それは龍にまつわるもので系統としては珍しい部類らしい。端的に言えば姿を黒龍に変えられる。全身を龍にすることもできるらしいが、反動が凄まじく一度も完全に変化はしたことは無い。そもそも彼女の生い立ちに対して必要な能力だと本人が思っておらず、基本的には今回のように”ちょっとした”ことにしか使ってこなかったらしい。


固く鋭い鱗に鉤爪。強靱な尻尾。頑張れば火を吐くこともできるらしいが日常で使うことは無い。

戦闘することに特化した能力であることは間違いない。空も飛べるらしいが体力を使うし、反動があって無闇には使わないとの事。

砂漠に行く際にはこの翼で飛んできたが、到着した場所には何も無く、疲れた体を一休みさせて、さらにあちらこちら探し回った結果が、あの出会いの場面に繋がるという話らしい。

ふたりでは飛べないし、そもそも死神との戦闘で力を使いすぎたので体の末端の変化までしか今は出来ないらしい。


断片的には話の内容は夢で見た記憶もあるが、本人が重要視していなかったせいか、当時の夢の中で鮮明にはこの恩恵について記憶にない。改めて説明してもらって朧気な記憶のピースが噛み合った気がする。


「まぁ、ざっくり言うとこんなところじゃな。」


「実際に見てきているが、にわかには信じられないというか、ここは地球なんだよな…。世界の理が違いすぎると言うか、たしかに言葉も通じるし、見た目はほぼ同じ人間。しかも、考え方や価値観自体も理解できる範疇。ここは単なる外国でないことは理解というか体験?経験?している。しかし、宇宙から数日離れただけで、現状につながる経緯が理解できない。別の世界に来たということなんだろうか…。」


「まぁ、なんじゃ。なんとなく妾は予想が着いておるが、その話をしてもこの場で結論は出ないじゃろう。ひとつ言える事とすると、お主は今この時、この時代、あるいはこの世界に存在し生きておるということじゃ。」


「その予想とやらは教えてくれないのか。」


「必要な場面であれば伝えるが、現状はあまり意味が無い想像だからのぉ。今は秘密じゃ。」


「ふむ…。まぁ、話を戻そうか。それで、このキノコの船で湖を渡るのか?」


「その通りじゃな。」


「この湖にも例の怪物みたいな生き物がいると言ってなかったか?」


「その通りじゃな。まぁ、安心せい。このキノコ船であれば襲われることはない。話したであろう?何故かこのキノコに生き物は近づかないと。これは水上でも同じじゃ。しかも、このキノコ浮力が凄まじく、恐らく手製のオールがあれば真っ直ぐ進んでゆくはずじゃ。」


「なかなか都合がいいキノコだな…。」


「まぁ細かく話せば長くなるが、元は人工物なんじゃよ。故に人には害がない。それが自生し、自ら環境に適用した結果が今なのじゃ。この世界は想像しうる限りの事象は起こりえる。淘汰されるものも多いが、こうしていつかの誰かが考え、作られたものがそこかしこに残っておる。」

「特に、まぁ、この話も追々するがマナの干渉帯と言われるこの辺りでは人よりも植物や原生生物に大きな変化が現れる。彼らは思考など出来ないはずじゃが、その遺伝子に組み込まれた過去の記憶。その中でも種の存続に秀でたものに近い形で形態変化するものも少なくは無い。先程見た洞窟の主。あれも、そのひとつなのじゃろうな。」


「まるで、SFだな。SFで伝わるのか?」


「あぁ、空想科学であろう。」


「日本語がないと言っていたが英語も伝わるのはどういう理屈なんだ?話は脱線するが…。」


「まぁ時間はあるからのぉ。いまさら3つまでとは言うまいよ。夢で見たかもしれぬが、今の知識の国スピカ。その創設者は、牢獄から抜け出した記録上1番最初の人物じゃな。今から200年ほど前になる。そこまで歴史はないじゃろ?」

「それまでは周辺諸国は戦争。あるいは小競り合いを続けたおった。文明を破壊し、文化を破壊し、その繰り返しじゃ。高い技術も、貴重な記録も暴力の前には無意味。当時は今ほど砂漠化は深刻化しておらず国も国との行き来もできておった。類似はしていても言葉も違う。文化も違う。国内外関係なく貧富や教養の差も大きい。力こそ全て。そのような世界に対して、牢獄から抜け出した彼はふたつの施策を取った。」

「ひとつは単純。国と国の間の線引きを物理的に変えたのじゃ。多少強引ではあったが、とある方法でそれを実現。隣国である今で言うアークトゥルス。昨日までおったところじゃが、かの国に滅ぼされかけていたところから身を守ることに成功した。」

「次に行った事は厳しい情報統制と、教本の全国民への配布じゃ。ここに、知識の国で文化的に生活するための情報はある程度記載されておった。もちろん、今でも使われておる。」

「また、様々な物の生産方法を秘匿し、物の理に関する教養は重要知識とした。結果、国民の知識水準の平均は飛躍的に向上。職業ごとに最低限の情報を開示することで、知識の分割による仕事の専門性が向上。仕事に困る層も大幅に減少した。裏では知識そのものを金銭と同等かそれ以上に扱うようになり、それが定着してきたのが100年前。並行して諸国へも教本の提供と和解を行い現在という訳じゃな。」


コホン。咳払いをひとつして進める。


「あーつまりじゃ。教本に書いてある表現としては共用語として説明はあるが大部分の語源などは伏せられておる。言葉の意味の理解。そして、ある程度の解釈まではできるが、その語源を理解していない者が多いことは事実じゃ。サイエンス・フィクションという言葉がどういう意味かまでは分かるが、何故そう言われているのか?まではそれこそ文学者くらいしか情報を知りえない。それも、高齢者の更に一部のみのはずじゃ。つまり、元を辿れば日本語という言葉を知るものもおるかもしれぬが、広く知られてはいない一般には存在しない言語ということになる。」


まぁ、100年生きているものや、口伝で知っているものもおろうがの。と言いながら船を作る作業に戻った。再び尻尾を生やして船をブンブン削っている。


「なるほど、そういうものと教えられたらそういうものと理解するし、詳しく知りたい分野はその職業を目指せば分かるシステムってことだな。」


「平たく言うとそうじゃな。」


次にアリスは手頃な木を尻尾で両断しオールのような形に一瞬で整形した。非常に便利そうである。


「さて、では行こう。と言いたいところじゃが、この前の反省も踏まえて、その、何か意見はあるかの?」


「正直、この船が沈まないかが不安ではあるが、歩いて渡れる距離遠も思えない。なるようになるだろう。オールを。」


朝食にキノコの一部を焼いたものを食べ、船に乗り込んだ。ここまでくると、このキノコ、土管工も驚きの便利さである。


ここからは少しハイライトで説明すると、道中、見たことの無い巨大生物や危険生物に出くわした。船の下を巨大なエイのような、巨大な陸のような物が通り過ぎ、近くで飛び跳ねた巨大なサメを、さらに大きな甲骨魚が捕食。デボン紀にタイムスリップしたと言われても疑わないような光景である。知りうる限りの見た目だけであれば、ダンクルオステウスである。


水飛沫や高波に晒されたが、このキノコ思ったよりも安定しているしアリスの言った通り冒頭のエイ以外は近くまでは生き物が寄り付かなかった。


半日経過後、向こう岸になんとか到着したが、アリスの知識が無ければ今頃はどんな最期を遂げていはうたか想像に容易かった。知識は金であり命であると痛感せざるを得ない。というのがこの旅で得た教訓である。


船酔いでふらつく頭をおさえ、砂場に足を着く。

景色は先程と異なり、人工物がチラホラ見受けられる。例のキノコも群生しているようだ。

廃れた昔は人気のビーチと言ったところか。人の気配は無く壊れた家のような残骸。網のようなもの。壊れかけのボートが無造作に散らばっていた。


「さて、ここで一休みして、明日で到着じゃろう」


日はまだ高いが、ここからは泊まれる場所がないらしい。穴の空いたキノコを探して野宿し、最後の移動日が訪れた。


「さて、ここからは廃屋を半日。その後、ちょっとした街を抜けるのにさらに半日弱じゃ。」


「湖は兎も角として、ここはなぜ廃墟になっているんだ?」


「あぁ、強引な方法で国と国を線引したと言ったじゃろ。しかし、そうじゃな…。それは今後の話に関わってくる。いまはまだじゃ。」


「ふむ…そうか」


廃墟と言っても建物の半数は砂に埋もれ、砂漠になりかけていた。普通にビルのようなものや、電信柱。鉄コン筋クリートで作られた無機質な建物まである。

近代的な建物が並び、まるでデストピアでも見ているようである。東京市街地が半分砂に埋もれたという表現がマッチしている。


「もっとこう、廃村的なものをイメージしていたんだが建物は意外と近代的というか、話の割に普通というか。もっと原始的な建物が多いような勝手な想像をしていた。」


「あながち間違っておらんかもしれんな。実際、国の半分は農村で残りの半分が知識を司る学術都市として栄えておる。この辺りにあるような建物もあるにはあるが、ごく一部じゃ。」


「なんというか、この光景だけ見ると未来というか、終末世界にでも来ててしまったみたいだな。」


見覚えのあるビルや電信柱のようなものが砂から半分身を出している。異世界と言うにはあまりにも現実的で、夢みたいな光景である。正直なところ不気味さが強い。


「この辺りは湖と知識の国との堺。お主の堕ちてきた場所に近い。ゆえにほれ、見覚えがあるじゃろ?」


例のサボテンがそこかしこに生えていた。


そこから半日歩くと、人の姿が見えてきた。先程の元市街地廃墟とは違い、モダンで白と黒に統一された不気味な街が広がっていた。


「ここから知識の国、スピカじゃ。国自体は当時の名残で高い壁の中が本拠地。この辺りは実験施設とでも言うか、そういう奴らの住処じゃな。」


行き交う人々は白衣を来ており見た目が明らかにマッドサイエンティックである。こちらをジロリと舐めまわすように見るものもいれば、足早に隠れるもの。人ではあるだろうが人間性に欠けた印象の通行人しかいない。身長も様々。人のようで腕や足の本数が違ったり、ギリギリ人のような見た目の割合が10である。


「あまり気にするな。何もしてこないと言うことは、良くも悪くも興味が無いということじゃ。しかしながら、もう少し物珍しそうにするかと思ったんじゃがのぉ。」


と、カラカラ笑いながら先に進む。


「不気味と言うと失礼かもしれないが、息が詰まるな」


「この辺りは特殊じゃからな。悪い奴らではないと思うが、今も昔もこんな感じじゃ。王の命令で知識の本を管理するための仕組みなんかもここで研究しておる。おっと、ここからは迂闊なことは言えんかった。」


アリスの態度でここが知識の国であることを再認識した。


あと少しで門じゃぞ。


そこから10分程度歩くと何やら大きな建造物が見えてきた。


巨大な門と言うより高い壁。どこぞの巨大な教会を連想させる繊細で荘厳な装飾。入口というより、巨大な建物である。


「いや、この規模は想像していなかった…」


「こういうのは見た目が肝心じゃからな。」


入国審査などは無く人すらいない。

中もよく分からない幾何学な模様の装飾や、どこか数学的な展示がひたすら続く長い一本道。

程々に明るく展示品が変わらなければ一本道を繰り返しループしているような感覚に陥る。


出口付近、このまま灯りを抜けるのかと思いきや、出口が見えたところで立ち止まった。


「ここじゃ」


変哲もない壁をよく見ると、小さな鍵穴が1つ。

服のポケットから鍵を取り出す。


鍵を開けると、壁だと思っていた場所には扉が出現した。これも何かの力なのか。

それにしても、現れた扉は豪華な装飾である。


扉を開く。

すると、綺麗に整理された庭が現れた。


おっと、そうじゃった。とアリスが続ける。

「ひとつ、お主、いや、は、遥。妾は今後、そう呼ばせてもらう。その、妾の事は以前にも言ったがリィと呼んでくれ。周りがなんと妾のことを呼ぼうともな。」


「あぁ、気恥しさと、そもそも、二人が多かったからな…。わかった。その、り、リィ。これからよろしく頼む。あらためて。」


ニッコリとした美少女スマイルで扉をくぐって言った。



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