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遠く離れた未来の果てで、  作者: 豆狸
知識の国編 2章 女神と死神
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第11話 とある少女の物語 後編

「この知識の牢獄に出口は無い。

私はこの酷く広く、しかし牢屋のような閉鎖された空間に何年も何年も閉じ込められている。衣食は必要としない。寝る必要も無い。ここでは知識が食事であり、それが全てである。


ここは知識のたまり場で、過去の全てが記録されている。そして、その全てを閲覧する権利があなたには与えられている。きっとあなたも知識を渇望したものだろう。どうかその乾きを何年、何百年と保つ努力をして欲しい。私はもう限界が近い。人は人と人との間にいてこそ人間なのであり、孤独というのはどうも人間というものの何かを欠落させてしまう。


過去を知ったが代わりに未来を失った。こんなことならと悔やむ日々が続いている。


ここからは抜け出せない。世界を知れるが世界に干渉できない。


次のページをめくる


この10年、ここから出る方法を探してあらゆる書籍を探した。ここにあるのは過去の英智。しかしながら前例にないことは記録など存在しない。ここから抜け出す方法をいくら調べたとて、誰も出られないとあう事実だけが記録として残っていた。


それでもまだやり残したことがある。学びを止めれば空腹になるやがては飢餓で死に至るやもしれない。死を選択するか、人とも分からない知識を貪るなにかとして生きながらえるか、もはや時間の感覚はない。ただ、現実に起こっている出来事は時に新聞。時に書籍として情報が得られる。私に身寄りはほほ無く、失踪事件として話題に上がってそれっきりだ。最近気づいたことがひとつある。10年経ってやっと気づくのはバカバカしいことだが、鏡がなかったのだからしようがない。

鏡の前に何が映ったと思う?


それは、自分だ。

そう。紛れもない最後に見た自分。


腹は減らない時点で気づくべきだったが、ここは歳を取らない。


髭も生えないしここに来たままの状態で10年経過している。ここで一生を終える覚悟でいたがもしかすると一生終わることがなくここにただ存在し続けることになるかもしれない。


次の日記はそれから数日後であった。


わたしは夢を見た。唯一の家族である娘に出会った。彼女は大きくなっていた。歳は15は過ぎた頃だろう。一目でわかったよ。母に似たくせっ毛の美人さんになっていた。思わず泣き崩れてしまった。ここでは知識がほんの形で蓄積されている。書籍として現存するものはすぐに見つかるが、個人の記憶に関して探すのは困難である。私の娘も私が失踪した後に親戚に引き取られていたことは当時の新聞で把握出来ていた。しかし、今どこで何をしているのかといった情報はずっと探していたが見つけることは出来ていなかった。そんな矢先、夢で彼女とであった。お互いにお互いを、認識して言葉を交わす。わたしはお前の病を治すため知識を追い求め、結果この牢獄に閉じ込められてしまった。


彼女の病は彼の研究資料を引き継いだ謎の人物によって解決し、無事生きながらえたこと。しかし、延命でしかないこと。


失踪した場所、時間。近況報告もおざなりに互いの現状を話す。そして、一通りの話が落ち着いたところで目が覚めた。あれは夢だったのだろうか。ここに来てはじめて夢を見た。いや、眠りについたというのが正しいかもしれない。


それから5年後


夢を見たあの日から5年。娘は元気にしているだろうか。同じ夢を見ることは無かった。夢を見た事すら忘れかけていたある日、地元の新聞の片隅にコラムを見つけた。娘のものだ。


そこに書かれているのは父への手紙であった。


「夢を見たこと。その記憶を頼りに独自に調査していること。周りはバカにするけど、わたしはまだお父さんが生きてるって信じてるということ。」


要約するとこうだった。歓喜に胸を踊らせると共に彼女の貴重な人生を費やせてしまったことへの罪悪感に胸の穴が空いたようであった。


そして5年後、ここからは違う色の上質なペンと紙で続きが記載されていた。


わたしは今、王宮にいる。

あの地獄のような20年もいまや懐かしさすら覚える程だ。事の顛末を記そうと思う。ただし多くは語るまい。知識は命であり、金であるからだ。今後わたしと同じ運命を辿るものよ。一つだけここから抜け出す方法だけここに記載する。


それは、現世のお主を誰がが見つけることだ。


最後に、私は現世に戻った。

最愛の娘は出会い頭に若さに驚いていたが、お父さんより年上にならなくて良かったと幸せそうに笑いかけてくれていた。それだけで私の全ては救われたのだ。そしてここからは彼女のための人生である。私の手に入った知識を使い、娘を民を救い国を救い、そして私は一国の王としてここにいる。


知識は命だ。そして金だ。知識には正しい価値をつけ適切な保管と公開が必要である。私と同じ過ちがどうか起きないことを祈り、ここに知識を主軸とした知識の国家の設立を宣言する。」


本をそっと閉じる。


結局のところ、ここからは自分自身では抜け出せないということは理解した。彼は10年以上ここで生活していたが、何かしらの助けあって無事元の国へと帰ることが出来たということであった。ここに来た目的は知識でありそれは予定通りである。未来のことなど今考えても仕方がない。とりあえず手近なところにある本から静かに読み始めた。本をめくるかすれた音と静寂の同居した空間から遠ざかるように意識が遠ざかる。


その後も彼女の獄中生活の断片を目にしたが、語るのはまた別の機会としよう。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


目を覚ました。長い夢を見ていた気がする。


朝か夕方かうっすらとしたあかりが部屋を照らしている。洒落たホテルの一室にも見えるが物の配置が明らかに病室である。モダンな家具で寝泊まりすることなんて今まで無く、昔家族旅行に行った旅行でビジネスホテルに泊まったこととしか比較は出来なかった。


手の痛みを感じ、目をやると注射の後。頭の処理が追いつかない。周囲には誰もおらず、しかし誰かが頻繁に訪れたのかゴミ箱は埋まっており、棚 の上には私物のようなものが大量に置かれていた。机の上においてある置き手紙に気づき手に取る。


その瞬間、先日の出来事が走馬灯のように蘇る。なぜ、自分はこの手紙をあるはずのない手で掴んでいるのか?そもそもここは現実なのか?寝起きで鈍っていた思考は思い出したようにめぐり始める。手紙開く。

そこには一言、日本語で「落ち着くのじゃ」とだけ書いてあった。深呼吸をする。


「落ち着いたかの?」


耳元で突然声がした。


すまぬすまぬ、驚かせるつもりしか無かったがのと言いながら彼女は座っていた椅子を横に着けた。死角に座って様子を見ていたらしい。


どうやら彼女から輸血を受けて一命を取り留めたらしい。そして切り離された腕も縫合したら引っ付いたとの事であった。どうやら襲ってきた死神の仲間が”とある”治療をしたとの事だった。輸血を受けたことで、とある問題も消えたことで、もう襲われる心配はなくなったと言うことらしい。


現状把握をしたところで、先程見た夢の話をする。彼女は少し驚いた表情を浮かべた後に、「なるど、図書館で起きたこと自体は明確には覚えていないということじゃな?」少し声をうわ振らせながら問う。実際ダイジェストで少し様子は垣間見えたが、ここで言うほどでもないだろう。


「その”黒髪”の彼女が戻ってきた時は見ておらんのか?」


確かに、そこについては見た記憶が無い。もしかして、もう少し眠っていたら見れたかもしれないがこればかりはどうにもならない。


「あの...申し訳ない。勝手に人の過去を覗き見してしまったようで...。」


「やはり気づいておったか。ということは、こちらから説明する必要は無いかの。」


「髪の色こそ違うがあれは、明らかに貴方だった。そして、その反応。間違いは無いのでしょう?」


「うむぅ。直接”見た”のじゃから、これ以上隠すことは何もないの。裸を晒すよりも丸裸にされた気分じゃ」


図書館に閉じ込められること100年。彼女は牢獄から抜け出した。ただし、これは現世での時間であり、時計のない牢獄において時間の感覚は麻痺していた。時折、新聞を見つけては現実の時間がいつかを確認していたため、おおよその時期は分かっていたという。


100年と聞くと長いが人が1人の一生分と考えると、図書館の全ての本を読み終えることはなかったという。

元々妾は物覚えがいい方ではなかったからの。そう言いつつ、読んだ本の内容は凡そ覚えているらしかった。


「もう今日は遅い。医師も、協力者も夜明けまではここに来ぬ。色々と聞きたいことはあるじゃろうが、何から説明したらよいかの?」


「そうですね、情報量が多すぎて頭が回らないですね...」


「まぁ、こうして生きておるのじゃからお主が起きるまでのこちらの話はゆっくりとしようかの。そうじゃな、まずはお主のみた夢の顛末を先に話してしまおうかの。まずは頭を整理する準備として聞き流してもらっても構わぬぞ。」


妾がこの牢獄を抜け出せたのは1人の少女のおかげでな。「目覚めて早々ですまぬが」と前置きしつつ、事の顛末を話し始めた。



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