プロローグ①
あの日見た光景を忘れることは出来ないだろう。
薬草を取りに行くため森に入った。
普段より動物を見かけない、ほんの少しの違和感があったものの私は森の奥へ進んだ。
その違和感の正体は一刻も経たないうちに姿を現した。
荒れた森の中、恐怖の象徴たる竜と相対する少年。
恐怖で足が竦み、近くの木に身を隠すことが精一杯だった。
逃げるべき。そう思って逃げ出そうとしても足が思う通りに動かない。
あの少年は殺される。その次は私だ。竜の鼻は私の臭いに気づいているだろう。
そんな時、少年がこちらを見てのんびりとした口調で話しかけてきた。
「そこの君、もう少し離れていなさい!じゃないと僕の魔法に巻き込まれてしまうよ!」
「あ、足が、う、動かないんです!」
「それは大変だね、なら防御魔法を掛けてあげるから安心して」
そう言うと少年は目にも止まらぬ速度で結印。
強い力を感じる、それでいて暖かく私を包み込んでくれる魔法が発動した。
竜は少年が魔法を発動した隙を見計らい、口から少年よりも大きな火球を吐き出した。
彼が火球に飲み込まれる瞬間、目を閉じてしまった。
だから分からなかった。火球に飲み込まれる瞬間、彼が何をしたのか。
目を開けた時、少年の顔が私を覗き込む。
少年の背後には頭がなくなり、無数の切り傷がある竜の姿あった。