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第71話

 数か所の展示を後にし、靴を外履きに履き替えて歩く。


「そろそろお昼時だが、三橋、お腹は空いてるか?」


「いえ。先ほど2-Cでお茶菓子を頂いたこともあってあまり」


 思い返す2-Cの出来事。コンセプトカフェ(装飾や衣装がバラバラだったからノーコンカフェと言うのが適切だと思うが口には出さない)では飲食物、クッキーや紅茶などの茶菓子諸々を提供している。三橋はもともと少食であり、少し頂いただけで正午を迎えようという今でも腹の虫は静かに眠っているようだ。


「実は僕もあんまり。でもなんも食べないのはなぁ」


 僕もそれは同じことなのだが、お腹空いてないから抜いて良い、というのはあまり適切な考えではない。後になって中途半端な時間にお腹がすくという面倒なことになりかねないからだ。実際、今日は監査であちこち歩きまわる予定だし、何か口にしておいた方がいい。


「お」


「何か?」


「クレープとかどうだ?」


 何か手ごろなものはないかとあたりを見たところ、丁度視界の先にあったテントを指さして尋ねる。本校の文化祭は学生の出し物以外にも誘致のお店があり、焼き鳥だとか、クレープだとか、食べ歩きにもってこいな品を提供している。毎年好評で、今はお昼時というのも相まってそこそこの列だ。


「いいですね」


 先ほど2-Cで提供された品を食べていて思ったが、三橋は別に甘いものが苦手というわけでもないらしい。コーヒーとかをよく飲んでた印象があったのでもしかしてと思っていたが。


「買ってくるよ。何が良い?」


「ありがとうございます、一番お安いので大丈夫です」


 味ではなく価格で指定してくるのが何とも三橋らしいと思い軽く笑った後、僕は列まで駆けていく。回転率は悪くなく、5分もかからずに2人分のクレープを購入することができた。購入したクレープを両手に、きょろきょろと周囲を見渡せばベンチに腰かけている三橋を発見する。


「買ってきたぞ。チョコバナナとイチゴチョコ。どっちがいい?」


「ありがとうございます。安い方で」


「どっちも同じだ」


 なんかイチゴの方が高いイメージあったのだが、お値段は一緒。祭り価格でイチゴをお安くしているのか、それともバナナの方を割高にしているのかは深く考えないことにした。


「では、イチゴを」


 ほーん、イチゴか。可愛いとこあるじゃん。あ、バナナ選んだら可愛くないってことはない。なんかほら、イチゴの方が女子って感じするだけで。今こんなこと言ったらジェンダーどうこうですぐ張り付け火付けで処刑されるから言わんけど。あと、どっち選ぶか興味があったから同じ値段のを買ってきたというのも言わない。


「なんですかその顔」


 だが顔には出ていたらしい。気を付けよう。


 イチゴクレープを渡そうと手を伸ばすと、すかさず三橋が財布を手に切り出した。


「おいくらでした?」


 ここで「いいよ、奢り」と言ったところで絶対に首を縦に振らないのが三橋。僕は素直に値段を提示し、三橋にクレープを渡してから現金を受け取った。こういうきっかりかっちりしている性格、人それぞれ受け取り方は違うと思うが僕は結構好ましく思っている。


「世良町君」


「ん?」


「食べる前に写真を撮っておきましょう」


 実行委員の見回りは僕たち以外にもおり、全員がペアで行動している。かつ、各ペアに学校支給のタブレットが配布されており、そのタブレットで文化祭の様子を撮影するようになっているのだ。撮った写真は精査されたのち、学校運営の公式SNSやホームページに投稿されるほか、希望する生徒には文化祭終了後にデータを配布することになっている。


「僕、顔出しは事務所からNG出ててさ」


「寝言は寝て言ってください。あと世良町君の顔なんかいりませんよ。クレープの宣伝です」


「あ、そすか」


 そういうとこだぞ、好ましくないの。顔なんかいらないは強火ワードにも程がある。確かにそんな大層な面ではないけども。


「こっちに手、寄せてください」


「はいはい」


 三橋の左手、そして僕の右手がそれぞれ近づく。三橋は右手でタブレットを構えると両手がうまい具合に画角に収まったところでパシャっと一枚。画面には2種のクレープとパッと見て男女と分かる手がそれぞれ片方ずつ収まっている。


「悪くないのではありませんか」


「そう、だな」


 自分の写真の出来栄えに「ふふん」と満足そうに胸を張る三橋。なんかこの写真、凄いあれを……いわゆる「匂わせ」とやらを内包してる気がするのだがそれは良いのだろうか。これも言わないけど。というか、三橋は何とも思ってなさそうなのに、こういうの気にすると僕が自意識過剰みたいだな。ま、多分SNS掲載用に採用もされないだろうからいいか。


 写真撮影も終えたところでお互いクレープを口に運ぶ。


 おお、文化祭でお呼びしたにしては、生地はもっちりだしクリームもしっかり口内で溶ける。バナナも変に傷んでる物とかじゃない。うん、美味しい。誘致にあたってそのお店の文化祭等への出店履歴をSNSなどを用いて調べ、問題ないと判断したうえでお呼びした甲斐があった。調べてくれた椛をはじめとする面々、ありがとう。


 ちらりと横を見ると、食べながら小さく頷く三橋の姿。だが表情があまり変わらないのでクレープ食べておいしいかどうか評価してる批評家みたいになってる。……似合うな、三橋に批評家の職業。辛口コメントとかで話題になりそう。


「美味しいです」


 このクレープは合格の模様。


「良かった。辛口じゃなくて」


「クレープは甘いでしょう」


 ふふ、そりゃあそうだ。


「食べたらまた見回りか」


「ええ。途中で投票箱の中身も回収します」


「おっと、忘れてた」


 学内のあちこちに「一番良かった展示は?」と調査するアンケートの回収BOXを配置しており、見回りしながらそれを回収するのも僕達実行委員の仕事。一応、人気投票ということなので学内の生徒会選挙で用いる箱を拝借し、鍵をかけて不正ができない様にしている。鍵を持っているのは実行委員のみだ。


 午前中の印象だと2-Cはノーコンという点に目を瞑ればかなり人気が出そうだが、はてさて、1位を取るのはどのクラスだろうか。

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