第65話
「ごめんね2人とも。大急ぎで解決法見つけるよ!2人も忙しいだろうし、またこっちからの連絡ってことじゃダメかな?」
この視聴覚室にいるメンバーの中で怒り心頭の2人を相手に波を荒立てずに済むのは椛くらいなものだ。目論見通り、普段明るく元気な椛が申し訳なさそうに頭を下げる様子に2人は面食らっている。
今回の事例、最も悪いのは眼鏡少年であり、その上に当たる実行委員長にも少なからず責任がある。だが、椛には一切の非はない。それにもかかわらず、椛が謝罪をするという行動に意味があるのだ。普段から人当たりが良く周囲を気に掛ける優しい性格の美少女、しかも当事者ではない……そんな存在の謝罪はそれだけで相手の罪悪感を煽るからだ。同時に潜在意識の中で校内屈指の有名人かつ人気者へきつく当たれないという抵抗が生まれる。
これらは怒りを冷ます対処療法として効果的だ。
「日暮はそう言うけどよ、こっちだって広場確保できる前提で色々計画組んでるんだ。万が一ダメってなったら困るんだよ」
「うちもなんだけど。機材運ぶのだって一苦労なんだけど」
「本当にごめん!」
よし、少し冷静さが戻った今なら……
「じゃあ、2人とも今予定している展示内容とか、広さとか、やるうえでの希望があったらこの紙に書いてくれないか?できるだけ沿えるように必要なら教員にも掛け合うよ」
僕はそう言って2人にコピー用紙とボールペンをそれぞれ差し出す。教員まで掛け合う、なんてのは今のところ予定していないが、この2人からすればそれを確認することはできない。あくまで決定を知るだけだ。騙すようで悪いが教員の概念だけ借りるとしよう。
2人は互いに視線を交わした後、不満そうにペンと紙を受け取った。
部活動代表生が去ってから少したった頃。
「大変だったみたいだね?」
「いいや。こっちこそ悪いな、忙しいとこ呼び戻して」
「あっちは急ぎじゃないからいいよぉ。それに、これに関しては確認できてなかった私の落ち度でもあるからねー。はぁ」
仕事から戻ってきた相生はため息をつき、そのまま実行委員長へと視線を向けた。
「あのね、委員長」
「な、なんだ」
「組織の長っていうのは最悪お飾りでもいいんだよぉ。でもさ、いざという時に責任を取れない、判断も下せないってのはさ、違うじゃん?それすらできないってのはダメだと私思うんだよ。かっこ悪いとか、そう言う次元じゃないよ」
「うっ」
相生、静かに切れる。お飾り言っちゃってるし、仕事量など少なからず不満があったんだろうことが沸々と溢れているのを感じる。傍目に見てても相生と三橋の仕事量が多くて負担ひどかったし。
「で、もともとこんな大事なことミスしたのが良くないよね?真面目に一生懸命やってたならまだ情状酌量の余地はあったけど、ねぇ……」
「ひぃ!ご、ごめんなさいごめんなさい!」
「謝らなくていいよぉ。でもさ、こっちまで情報来てないのはおかしいじゃん?報連相が大事だよって私言わなかったかな?もしかして言い忘れてた?だったらごめんね、私が悪いや」
「ち、違うんです!俺が悪いんです!俺のせいなんですぅ!」
まあ、遊んだ結果のミスならこうなるわなあ。というか相生の怒り方怖……怒らせんとこ。
相生による説教はしばらく続き、そのまま日ごろの勤務態度に関して他のやらかし予備軍にも余波が届く。ストレスで相生の血管とか切れないか心配だ。
説教風景を横目に僕は近くの壁に背を預けた。そこに椛もとことことついてくる。
「何してるの?」
「ん?さっき貰った希望を見直してるんだ。具体的な対策案を出さないとだろ」
そう言うと椛は一緒にうーん、と少し考え込む。
従来の実行委員のやり方に倣うなら先に申請してきた科学部を正式に認可し、吹奏楽部に頭を下げるという流れになるだろう。だが、先ほどの女子生徒の気性を見て納得してくれるとは思えない。そもそもこちらのミスなのだからそこを言われる強く出れないのが現実だ。一度受理してしまっている以上、一方的に吹奏楽部にNOを突きつけるのは筋が通らない。
「1日で展示交代するとか?」
「ま、それが無難だよな。ただ機材の移動とかがなあ」
今回揉めていたのは科学部と吹奏楽部。科学部の方は所謂テレビや動画サイトなどで見られる大掛かりな実験パフォーマンスを行う予定だったみたいで、中には化学の先生が同伴していないと扱えない薬品などもあるらしい。対する吹奏楽部はそもそも人数が多く、スピーカーや楽器、演奏台などの配置や移動が結構大変らしい。吹奏楽部、男手少ないから移動とか嫌がるのが目に見えている。実際負担だろうし。
人手自体は実行委員とかボランティアを募って助っ人を送るという対応ができなくもないが、問題はそこではないだろう。
そもそも広場を希望する理由はなんだ?科学部も吹奏楽部もそれぞれ普段の部活をしている場所でやれば移動の手間なくて済む。スペースが広いから、というのはもちろんあるだろうが、それだけが理由ならさっき「じゃあ他の場所用意して」と一言でも言えばよい。向こう側の譲歩に対してこちらが強く出れないことは分かっていたはずだ。だがその手の話は一切なかった。ということは最大の理由はやはり人通り、目立つかどうかだと考えるのが自然。
「椛」
「なぁに?」
「ちょっと頼まれて欲しいことがあるんだが良いか?」




