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第64話

うちの高校の文化祭は2日間に分けて実施される。初日に公共ホールでオープニングから実行委員長挨拶などいくつかのプログラムを終えた後、そのままクラスや部活動展示が行われ、生徒は各々自由に学内を見て回ることが可能だ。


 展示内容はクラスや部活それぞれの色が出て多岐に渡るが、いずれもその展示を行うスペースというのが必要になる。自分たちの教室をそのまま使うという形であれば何も問題はないのだが、話はそう単純でもない。例えば大型アトラクションの作成を行うクラスからは「もっと広い特別教室を使いたい」と要望が来るし、料理研究会はお菓子の実演販売などを実施したいから調理室・家庭科室を使いたいと希望する。他にも誘致する一部の飲食屋台などもあり、それらの配置場所も考慮しなければならない。これらを「ご自由にどうぞ」などと丸投げしては羽目を外したハロウィンの様に混沌を極めるおそれがあるわけで、当然統括する組織が必要になる。ここで僕たち文化祭実行委員の出番というわけだ。生徒たちから展示内容と展示希望場所の届け出を受理し、スペースの管理などを行うこの業務は文化祭の根幹をなすものの一つとも言えるだろう。


「こっちが先に申請したんだろ!そっちが諦めろよ!」


「あんたらみたいな根暗の集まりの展示よりこっちの方が見栄え言いに決まってるでしょ?そんなことも分かんないの?」


 そして、その途中で起こる生徒同士の揉め事の仲裁も遺憾ながら職務のうちだ。


「今来たんだけど、どういう状況?」


「あ、匠君。えっとね」


 放課後、視聴覚室に入るや否や起きていた論争の詳細を椛に尋ねる。なんでも、校門入ってすぐの広場での展示権の帰属についてのトラブルらしい。この広場はうちの高校に来訪する人の大多数が通る場所であり、言うまでもなく目立つ場所なため毎年展示希望の競争率が激しい場所だと聞いている。確か過去の文化祭実行委員は、同一場所に別組織が展示希望を出した場合、早い者勝ちでそのエリアの展示権を確保するという対応を行っていたはずだ。


「その、例の子が記録を間違っていたみたいで」


「重複して確保してしまったが故のトラブル、と」


 例の子というのは数日前に聞いたタイプライター持ち込み螺子外れ生徒のこと。あの日はその場に駆けつけた三橋の働きによって一応丸く収めたのだが、この現状から見るに問題は彼のふざけた行動だけに留まらず後の仕事まで尾を引いていたということになる。


 スマホでなんでもできてしまうこのご時世。それに慣れきった人間がよく調べもせず「なんとなくかっこいいから」という理由でアナログアイテムに手を出したところで使いこなすことなどできるはずもない。「俺かっこいい」と自分に酔いしれている間に、ものの見事にダブルブッキング成立というわけである。クビにしろそんな奴。


「そのやらかした生徒は?」


「あの子」


 椛の指さす方向に視線を向けると、恐らく申請者であろう生徒の間で泣きそうになっている眼鏡の男子生徒を確認。確か、視聴覚室に初めて入室したときに敵キャラ幹部会議ごっこしてた内の1人で、自己紹介の時に眼鏡を何回も触りかっこつけてた子である。今はその時の雰囲気が微塵も感じられない。


 これは流石にまずいと思ったのか実行委員長がフォローに入るが……


「ま、まあ。2人ともそう怒るでない」


「うるさい。大体そっちのミスが原因でしょ。こいつがダメなら委員長のあんたが責任取りなさいよ」


「そ、そんなこと言われてもだな」


 効果はいま一つのようだ。フォローするどころか、少し口調のきついギャル系女子生徒の詰め寄りに委員長はたじたじになる始末。管理不行き届きと言えばその通りなので彼に文句を言う権利はないが。


「どうしよう匠君」


「うーん」


 こういうトラブルが起きた時、下々で勝手に行動せず上司の判断を待つのが適切だ。だが、その上司に当たる実行委員長がこれでは話にならない。となると、業務全般を把握している相生、三橋あたりの判断を仰ぎたいところだが、この2人は今別件で席を外している。


 今考えうる最悪のケースは、ここにいる面々で下手な対処をして他の業務まで余波が広がること。


 すこし思案した僕は部屋の隅にいるメジェドを手招きする。応じたメジェドは相変わらずの等速直線運動でこちらにやってきた。


「相生が職員室にいるはずだ。現状を知らせて、伝言もしくはこちらに来るようにってくれ。心労かけて悪いなとも」


 三橋は現在学外で打ち合わせなのでコンタクトを取るならこちらだ。僕の言葉にメジェドはコクリと頷き、視聴覚室をすぅーっと音1つ立てることなく出て行った。言わなかったけど職員室では流石に脱ぐよな、あのシーツ。まさかあのまま突入しないよな?多分大丈夫だ、うん。


 あとはとりあえずこの場を鎮静化させる。問題の先送りは褒められたことではないが、この場で無計画で対処するよりはマシだ。


「椛、ちょっと」


「え?ひゃっ」


 椛に耳打ちする。せっかくコミュ力カンストキャラがいるのだ、ここは力を借りて切り抜けよう。僕の提案に少々驚いたのか顔を少し染めて息を乱した椛だったが、すぐに生徒2人と委員長の間に入っていった。

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