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6話:地獄の喧騒と厄災

 翌日。ゴールデンウィーク前最後の学校。


 神崎の脅しに屈し、費用の掛からない神村と神崎のデートプランの立案(しかも俺が仲介役)とかいうミッションインポッシブルに頭を抱えていたら、とうとう昼休みを迎えてしまった。


 当然プランなど思いつくわけがなく、それどころか肝心の神村に声を掛けることすら忘れていた俺。それに気づいてさっき神村を探したんだが、どこぞに消えやがって見つかりやしない。


 ……陽キャの癖にステルス使いとか生意気な。ぼっちの特権まで奪うな。


 そんでもって一旦神村の捜索を諦めた俺は教室に戻り、いつも通り弁当を片手に部室へと向かおうとした……の、だが。



 「べ、弁当、忘れた……」



 そういうわけで俺は今、不承不承ながら食堂に向かっている。


 西階段で位置エネルギーを減らしていくにつれ、そのエネルギーを補うが如く生徒数と耳障りな騒音は増えていく。「ほぉ、これが力学的エネルギー保存則ってやつか……」とか間抜けなことを考えながら食堂に一歩足を踏み入れる。


 「………………」


 踏み入れて、バカみたいな生徒の数とアホみたいな喧騒に思わず唖然としてしまった。形成された無数のコロニー同士が競ってでもいるかのように、彼ら彼女らは声量を張り合っている。


 ……チッ、マジでうっせぇなこいつら。飯食う時くらい静かにしろよ。


 いっそのこと物理的に静かにさせてやろっかな。


 と、心中ぼやいたとて、弁当を忘れてきてしまった以上、ここで昼を済ませなければならないことに変わりはない。


 ……仕方ないが泣き寝入りを決めてやろう。


 食堂にはあまり来たことはないが、食堂での注文方法は心得ている。


 列に並んで注文し、料理が出てきたらお金を払う。特に小難しいことはない。


 食堂をザッと見渡し、定食を求める長蛇の列を発見。そのまま合流する。


 流れに身を任せたままゆっくり進むと、やがて《注文口》と書かれたプレートが垂れ下がった場所に辿り着いた。


 「へいらっしゃいお兄ちゃん! ご注文は?」


 注文口で構えるのは、やたら元気なおばちゃんだ。どうやらここで注文するらしい。


 メニュー表には牛丼や鶏天丼をはじめとした丼ものから、唐揚げ定食や回鍋肉といった定番の定食、さらには学生の味方のカレーなど、意外にも豊富なラインナップを揃えていた。


 どれも味はそれなりなんだろうが……3日前のこともあって全部美味そうに見えるぞ。


 「……じゃあこれでお願いします」


 少々悩んだ末、俺は450円の唐揚げカレーを注文した。写真に映っていた唐揚げになんとなく食欲をそそられてしまったことが決め手だ。それ以外は特にない。


 注文を終えてからお盆を手に取り、受取口のある左へとスライド。その間、お代を準備するべく俺はポケットから財布を取り出す。


 確か値段は450円だから……あー、小銭ないな。英世でいっか。


 「はいお待ちどう! 唐揚げカレーや」


 1分も掛からないうちに、お目当ての唐揚げカレーが登場した。


 ここでお金を払うらしいので、カレーを持ってきた中年の髭を生え揃えた男に英世を渡す。


 ……そして手元に返ってきたのが。


 「お釣りが50円! 毎度ありぃ〜」


 ……おいヒゲ、計算もできないのか。500円玉が足りねぇぞ。


 反論しそうになってグッと堪える。


 もしかしたら500円の存在を忘れている可能性もなくはない。頭ごなしに乱暴な言葉を投げるのはさすがに失礼だ。


 柔らかい言葉に噛み砕いて、俺はヒゲに問いただす。


 「えーっと、すみません。お釣り、足りないんですけど?」


 「足りんくはないぞ少年。50円や」


 ……んだとおいヒゲ。マジで引き算もできねぇのか? 義務教育やり直してこいよ。


 「いやいや、お釣りが500円足りないじゃないですか」


 イライラを抑えつつ、五歳児にでも分かるような説明を施す。


 「唐揚げカレーって450円ですよね? で、僕が今出したのは1000円です。1000円から450円を引いたらお釣りは550円で──」


 「ほんで醤油ラーメンの大盛りが500円やからお釣りは50円やないか」


 「……はい? 醤油ラーメンの大盛り?」


 いつの間にそんなオプションがついていたのか。


 「いやいや、僕頼んでないですけど」


 もちろん頼んだ記憶などない。第一俺にはカレーとラーメンを同時に平らげる胃袋はない。


 しかしそのヒゲはキッパリと。


 「でも少年の彼女さんっちゅー女の子が頼んでおったぞ? 後ろの彼氏さんの奢りやからっちゅーて」


 「……はい? 彼女?」


 「ほらっ、あそこの女の子や」


 キョトンとする俺を見て、ヒゲは食堂の一箇所を指差す。


 ヒゲが指差す方向に視線を動かすと、醤油ラーメンを配膳台に乗せている巨乳少女にヒットした。俺とヒゲの会話が耳に入ったからか、調味料が置いてある机の前で巨乳少女はピタリと固まっている。ゆっくりとこちらに向けてきた顔は、もちろん俺の知らない顔だ。


 「あの子、君の彼女やろ?」


 「違いますね。断じて」


 つーか誰だよあいつ。見たこともないぞあんな女。


 「まぁでも、漢っちゅーのは女の子にお節介焼いてなんぼや。今回は見逃してやりぃ」


 「は、はぁ……」


 このヒゲ……テキトーなこと言いやがって。


 ……だがまぁいい。ここで向けるべき怒りのベクトルはヒゲではなくあの巨乳女だ。


 ここは俺が先に払って、後であいつからしっかりきっちりがっつりがっぽりじゃんぜり取り立てることにしよう。


 ……しかしなんだあの女は。


 俺はもう1度さっきの女の方に目をやる。


 

 「………………(きゃりーん☆)」




 ……あの女、絶対許さん。

最後までお読みいただきありがとうございました!


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