認識 2
「ですから、私はシアン王子の命令に大人しくしておりませんでしたと、申しております」
と、ガルソール殿は答えた。
「シアン王子とは? 義父上の事か?」
「はい。シアン国王陛下が即位されるまでは、陛下の異母姉上様や姪姫様にそれこそ隣国ジャスパード国へと第5王子として諸外国巡りを当時の国王陛下に命じられて、訪問されておりました」
と、ガルソール殿は答える。
「義父上はガルソールに大人しくしておれと命じてはおらなかったのであろう」
「いえ、来賓として迎え入れられた時に皆が見ている前で仰いますよ。
この国の方々にご迷惑をかけること無く大人しくしておれと王子が仰れば、それは王子の側から離れて情報を探れと言う合図でしたから、付いて行く側近は相手の国から咎められるまで奔放に動いておりました」
と、ガルソール殿は答える。
「いや、待て。義父上は前もって訪問した国を探るために側近達に命じていたのか?」
「当然です。それがシアン王子の役割でしたから」
と、ガルソール殿は宰相殿下に視線を向ける。
「私は当時の国王陛下の側近ではありましたが、代替わりにて詳しい事は存じ上げませんが、シアン王子が外遊より戻られし時は一時期文官達が忙しく動いておりました」
と、当時は国王陛下側近の一人でしかなかったリック宰相殿下は仰る。
「文官達の仕事は、シアン王子の話を記録することから始まり、側近達の行動を聞き取り纏める事ですから人数分の話をまとめる作業は時間が掛かっておりましたが、持ち帰った情報は後世に必要で貴重な材料と成っております」
と、ガルソール殿は答える。
「ガルソールは諸外国を義父上と一緒に廻りながらその国を探っていたと言うのか?」
「はい。友好で有ろうと無かろうと姻戚関係の国でもすることは同じです」
と、ガルソール殿の話しにダニエル殿下は絶句された。
「…………探るとは?」
「私がしてきたことは、侍従の仕事ですから城の内部の見取り図の作成と、城の大きさ構造の把握、誰がどの部屋を使っているのかは当然ですが、城で働いている人間やその数その関係性も探れるところは探ります」
と、ガルソール殿の話しはダニエル殿下だけでなく宰相殿下も驚愕されている。
「それを持ち帰るのが、そなたらの任務なのか?」
「持ち帰ると言えるのか分かりませんが覚えるのです。何かに書いて持ち帰ることは出来ませんから、必死に覚えて報告するのですよ」
と、ガルソール殿は当たり前のように答えた。
「義父上は側近にその任を背負わせて、ご自分はどうされていたのか?」
と、ダニエル殿下は呟かれる。
「誤解の無いように申し上げますが、シアン陛下当時王子は私がしたような城の構造や内部の仕様を覚えるだけでなく、城の外を視察と言っては地理を覚えて護衛として付くその国の者に会話で誘導して話を聞き出されていたのは、ご自分の異母姉上様や姪姫様に叔母様をいざと言う時にはお助けするための情報として為されていただけです。
異母兄上国王陛下の命だけでなく、救出するための情報だと仰り、命を護るためにはご自身を裏切ることも推奨されていました」
と、ガルソール殿の言葉にもはや廻りは、驚愕を通り過ぎているようだ。
「ダートル? そなたは知っておる話なのか?」
と、ダニエル殿下の問いかけに、
「私の父はシアン国王陛下の側近でした。一緒に諸外国を廻り危ない目にも有ったと聞き及んでおりますし、シアン陛下からも昔話としてお話下さいました。
シアン陛下の記憶力は大変優れておられ、側近達の分担を一人で担っておられたと文官達はシアン陛下の出立から帰還まで記録の多さに側近達は補助でしか無かったと伺いました」
と、ガルソール殿を気にしながらダートルは答える。
「いや、本当にその通りだ。私の記憶は細部には長けているが、全体の記録は足下にも及びません」
と、ガルソール殿は答えた。
「シアン国王陛下やガルソール殿と我が父がした体験は私はしておりませんが、ジャスパード国王子殿下はどうであれ、その周りに付く者達はカーディナル王国に入れるのであれば情報は人の記憶に残ります。
見るな見せるなと指示しても限度は必ず有るものです、ダニエル殿下」
と、ダートルは伝える。
「「…………」」
長考されるダニエル殿下を宰相殿下は、ガルソール殿やダートル殿が危惧して出向いてくれたことを理解し黙って様子を見ている。
「もしかして、2人は私の浅慮を危惧したということか?」
と、ダニエル殿下の問いかけに、
「ダニエル殿下は、勿論宰相殿下も外遊の経験はございませんでしたので、来賓というご本人の意思とは別に思惑が下層に有ることをお知らせしたかったのです」
「ダートル殿はご自分の父からシアン陛下から話しに聞いていても体験はしておりません。
シアン陛下はダートル殿の接見に私を補佐として付けたのは、体験してきた本人の言葉が必要であると判断されての事です」
と、ガルソール殿は言う。
「義父上は、私が浅慮であるからと心配されたと言うことか……」
と、ダニエル殿下の呟きに、
「ダニエル殿下、それは違いますよ。シアン国王陛下の長く平穏に近い政治の末に、情報と情報の扱いに緩みが出てきたのです」
と、ダートルは答えた。
「ダートル殿? どう言うことか?」
と、宰相殿下の問いに、
「宰相殿下、私が今アカデミーで臨時の教師をしていることは御存知ですよね」
と、ダートルが確認を取れば、宰相殿下は頷き返事にされた。
「私が担っております学習は、復習学ですが貴族科に一般からの平民にも不得意な科目の補習に成ります。
その学習の中に地理が苦手としている者達に教えを施していたら、地図の話しに成りました。学徒の一人にその地図の制作者と意図を教えてほしいと言われました」
「地図の制作者と作成意図とな!」
と、ガルソール殿は驚き言葉に出た。
「はい。地図は情報だと、学習に使用してもその情報の管理はいつ何処で習うのかと」
「情報の扱いはアカデミーに上がるまでもなく親や周りから習うであろう? ましてや貴族科では真っ先に習う筈だが?」
と、ダニエル殿下の仰りように、
「習った筈のお二人が、情報の扱いが甘かった様に思いますが……」
と、ガルソール殿が間髪入れず言葉にすれば、ダニエル殿下と宰相殿下は黙した。
「私もその学徒に問われるまで、情報の扱いに疑問を持ったことが無いのです。
自分が話す内容にどれだけの情報が入っているのか? 関係の無い話で相手はどれだけの情報を得られるのか? 情報漏洩の重罪さを理解しているようで、理解していなかったことに改めて驚愕致しました」
と、ダートルが言ったことでダニエル殿下と宰相殿下は理解した。
「ダートルは、王宮の者達の認識を疑えと言っておるのか?」
と、ダニエル殿下の問いかけに、ダートルは頷き答える。
「恐れながら、その事に気が付いて真っ先に思い出したのが研究所に届いたダニエル殿下の訪問依頼書です。
研究所の研究員達の認識を確かめたところ、貴族籍の方に問われたら、機密事項であれ話すだろうと言うのです。情報漏洩よりも不敬扱いで罰っされる方が怖いと言うのです」
と、ダートルが答えた。
「それが先ほどのダートル殿が言った責任の有無か」
と、宰相殿下が理解する。
「情報漏洩は王族といえ、大罪に処罰されてきた事です。研究員が罰を受けるとしてもそれを言わせたのが誰かになると、認識の違いで事は大きく変わってしまいます」
「…………その通りだな」
と、ダニエル殿下は答えた。
「今、アカデミー学院でも情報の扱いの認識を確認しておりますが、明らかに誤認しているか甘い判断に陥っております。
辛うじて医療科と淑女科は教師の常々の教育に認識をしておりますが、他人事に感じており自分に降り掛かって来ることを想像出来てはおりませんでした」
と、ダートルの報告に宰相殿下は、悄然としダニエル殿下に至っては愕然とされている。




