認識 1
「リック? 急な義父上の呼び出しとは何だったのだ?」
と、王太子ダニエル殿下は、机の上に有る書類を見ながら王宮殿の国王の間から戻って来た宰相職で実の祖父であるリック殿下に問う。
「あっ、はい。シアン国王陛下のご用事では有りませんでした。実はダニエル殿下に接見依頼でした」
と、リック宰相殿下は困惑気味に答える。
「何故? リックが呼び出されるのだ。義父上の指示が有ったと言うことか?」
「はい」
「何だ? 珍しいなリックが困惑しておる。私は何か不備な対応をしたのか?」
と、心当たりが無いダニエル殿下は思案される。
「いえ、接見の依頼者が意外でしたので、何事かと思いまして」
「むっ? 義父上の指示なのだろう?」
「はい、シアン国王陛下侍従長のガルソール殿とカーディナル王国研究所所長のダートル殿の二名です」
と、宰相殿下は報告をしてダニエル殿下の侍従トミールに聞こえるように伝える。
「ふむ、確かに珍しい取り合わせだな。義父上は2人の接見を許可してリックを呼び出す程の事か? 朝のご挨拶には予定に入っていなかったが。
で、日時は?」
「出来れば直ぐにでもと……」
「はぁ! 直ぐとな……義父上に先に接見が有ったのか?」
「いえ、私がシアン陛下に呼び出されてお側に行きましたが、ダートル殿はこれから登城するらしいのです」
と、宰相殿下は答える。
「はぁ? ダートルは義父上の依頼で登城するのか?」
「それが……ダートル殿が依頼をして陛下が許可され補助にガルソール殿が付くらしいのです」
「ふむぅ、今までこんな接見は無かったと思うが……ましてや義父上の侍従長が仮にでも付くとは?」
「そうですね。シアン陛下は前からダニエル殿下の采配に口を出す方では有りません。私が付いているからと結果報告は問われますが、お任せに成っておりました」
と、宰相殿下の方が苦慮される。
「兎に角、場は設けるダートルが登城したら知らせよ」
と、王太子ダニエル殿下は周りの側近達に伝える。
「王太子ダニエル殿下。
誠に性急な接見依頼を、賜りまして至極厚くお礼を申し上げます。
カーディナル王国研究所所長を拝命しております、ダートル · ダーニーズウッド辺境伯でございます。
シアン国王陛下と侍従長 ガルソール様にご相談にとご連絡致しましたところ、直接ダニエル殿下にお目通りのお手配を賜りました。
シアン国王陛下の判断にてガルソール様の帯同を許可されましたので、お許し下さい」
と、ダートルは王太子ダニエル殿下の前に膝を付き挨拶をしている。
挨拶をしているダートルの側には、シアン国王陛下の侍従長 ガルソールが立っている。
宰相殿下はまず、ガルソール殿に視線を向けてダートルの方に向き直ると、
「して、どういうことなのだ? 早急に接見する問題が起こったのか? 王太子ダニエル殿下宛の接見に全くこちらには思い付かないておるのだが…………」
と、挨拶の終わりに宰相殿下は問い、そのままガルソール殿にも視線を向ける。
「幾つか、確認とお願いがございまして、王太子ダニエル殿下と宰相殿下。
時間がございませんでしたので早急と致しましたところ、ガルソール様のお手配が思いがけずに速やかに進みました」
と、ダートルは説明をする。
……ガルソール殿とはアイを通じての交流のお陰で、シアン陛下宛に接見依頼をだせば、ガルソール様から直ぐに返事が返ってきた。
危惧する内容の為相談依頼であったが、ダニエル殿下の事であると大まかな内容を綴れば、直ぐの登城せよとのこと。
「ダートルが確認とは研究所の事で良いのか?」
と、ダニエル殿下の問いかけに宰相殿下も納得されて黙された。
「はい。王太子ダニエル殿下の署名入りでの研究所の隣国ジャスパード国王子殿下との訪問依頼の件に付いてです」
「ふむ、セントール王子は王宮内の施設を一緒に案内を頼まれておるが、勝手に王宮内を回れては困ると他の側近達にも言われたからな」
と、ダニエル殿下は宰相殿下をチラリと見て答えれば、
「その判断には問題はございませんが、研究所内を御見せるのは何処まででしょうか?」
「何処までとは?」
「研究所には私がおります第二研究室が有りますが、こちらは極秘扱いに成っております。第一研究室で有っても決して大っぴらにしても良いものではありませんが、研究室の廊下だけを見て回れるのですか?」
「……ふむ、それは面白いのか?」
「研究員は第二研究室は各個人の部屋を与えてそこでの必要な人材を入れて研究にあたっております。
第一で有っても人数は大勢に成りますが、仕切りに成っていますので勝手に隣の研究を覗いたりもしません。
その研究室を訪問されて、見るだけで終わって頂けるのですか?」
「それは、近付いて見ることや問うても出来ぬと言うことか?」
と、宰相殿下が問う。
「勿論側に近付いてもらう訳にはいけませんね。
機密事項で他国にお見せ出来ませんので、ご理解の程よろしくお願い奉ります」
「訪問時だけ、他の事をすれば良いではないか?」
「例えば、なんでしょうか?」
「…………それはダートルが考えれば良いであろう」
「訪問される前後を違うことをしていれば、不自然だと思いますが?
研究員達は日頃研究に関することしかしておりませんのに、違う事を指示しても出来ません。あからさまに違うことを指示していると分かってしまいますが」
「では、支障の無い程度の事をされれば良いではないか!」
「支障の無い程度の事でしたら指示出来ますが、ダニエル殿下はセントール王子の行動に諌めて頂けるのですね」
「諌める? 何故に?」
「私共の研究所には、貴族籍の者も平民もおります。前もって秘密事項だと言い聞かせていても、貴族が問えば答えるしか無いのですが? そちらの拒否権はお咎めは無いでよろしいですね」
「……黙して答えぬと、客人に対しても?」
「国益に関わる事ですので、私は研究所と研究員を護る立場ですので、与えられた権限を用いましても答えぬとも良いと指示致します」
「では、研究所に行っても面白く無いと言えば良いか?」
「はい」
「それでも行きたいと言われたら、連れて行くぞ」
「はい。それはダニエル殿下の采配にお任せに致します。
唯、誰一人としてお相手は出来かねますので、予めお伝え下さい」
と、ダートル所長は答える。
「もう少し融通しても良いのでは?」
と、ダニエル殿下は不満げに告げる。
「…………情報漏洩はどなたが責任を負うのでしょうか?」
と、ダートルがダニエル殿下と宰相殿下に向けて問うと
「情報漏洩は、言いすぎだぞダートル」
と、ダニエル殿下は返答してきた。
「…………」
「ダニエル殿下は、失礼ながら研究所が王宮内の施設だとご理解されておりますか?
ご理解されておられるのなら、訪問視察とを許可されるとは思いもしませんでした。
他の施設は王城外なのですよ」
と、ダートルは宰相殿下に視線を持って行く。
「ダニエル殿下、ダートル殿が言っていることは正しいと存じます」
と、急に宰相殿下が王太子殿下を諌める。
「えっ? そなたも賛成したではないか?」
「はい。ダニエル殿下はセントール王子の希望や楽しみにされていることを叶えようと準備されて手続きをされてきました。
然れど、ダートル殿が言っていることは研究所の長として尤もな権限の中で、殿下にお伝えしておりますよ」
と、宰相殿下は理解したようだ。
「接待を任されておるのは、私だぞ。
相手の希望に寄り添うのは迎える側である。
何故に協力出来ぬと申すのか? 機密事項だけ隠せばいいだけの事。私と一緒に回れば勝手な事は為さりはしないだろう?」
と、ダニエル殿下は不服気に答えた。
「為さりはしないだろうは、ダニエル殿下の期待で有り、セントール王子の側近はどう動くかは分かりません」
と、ダートルが伝えた。
「心配しなくても王子の命が有れば、側近達も大人しく付いて来る」
と、話しは終わりだとダニエル殿下は言いきった。
「私は、大人しく付いておりませんでしたよ」
と、黙って一言も発していなかったガルソール殿が言う。
「はぁ? ガルソール? 何を言っておる?」
と、ダニエル殿下はダートル殿の隣に立っているカーディナル王国シアン国王陛下侍従長に問う。




