身内
「感じは少し違うけど、王都の商会の人が泊まっていた部屋の隣に泊まってた」
と、モカはモズの後押しに言葉にする。
「モカの記憶が正しければ、あの後第3団隊と第1団隊が調べているはずだが……」
と、実の兄 モズは渋顔で答えた。
「モカは、王都の商会の顔を覚えているのか?」
と、ソルトはモカに詰め寄ると、モズはモカを庇う。
「ソルト、あまりモカに手荒なことをしないでくれ。元々はオレがモカを巻き込んだ。当時の話なら第1団隊のキニルさんに供述したし、口止めされている」
と、ソルトとモカの間でモズが頭を下げる。
「モズ、口止めされているのは起こったことであって、今モカが思い出したことがあるなら報告すべきことだよな」
と、ダットは冷静に告げた。
「そうだな、モカの話でモズの知らないことがあるなら報告した方がいい。
僕も兄さんもモカの話は一通り聞いたけど、ジャスパード国の泊まり客の話は無かったと思う」
と、ソルトは落ち着き話を振る。
「モカ、ロッティナさんの話していた人は見たことがある人かい?」
と、ダットはノーマン医院の前で合った、看護婦のロッティナさんとジャスパード語で話していた旅装束の男性の事を聞く。
「いいえ、合ったことが無い人よ。でも目元がロッティナさんに良く似ていてた」
と、モカはさっき見たばかりの男性の顔に覚えが無いと答えた。
「じゃあ、モカが覚えているのは?」
と、現場を知っているダットが追加で問うと、
「義兄さんは馬車から降りてきた人は見なかったの?」
と、反対にモカに聞かれる。
「……ふむ~ん、オレはモカを荷台に座れるようにしてそのまま馬を走らせたからな……見たのは御者台の青年とその青年が声を掛けた男性で、馬車に人が乗っていたのか乗っていないのか分からないな……」
と、ダットはノーマン医院に着いた時と、モカを乗せて帰る時を思い出しなから答える。
「それに……悪いがオレは顔は覚えていない。服装や体格とか話声に気を取られて、次に見かけても分かるとは思えないな……」
と、ダットは正直に状況は言えるが、顔の判別は出来ないと続けて伝えた。
「じゃぁ、モカが見たと言っているのは、馬車から降りてきた人だと言っているのか?」
と、モズが問うと、
「馬車から降りた人は確かに、あの商会の人達と話していた。部屋は二階だったけど、窓側に居たから見えたし、私が他のお客さんを案内していた時に、商会の人達の部屋から出てきたもの」
と、モカは確信があるのか、まっすぐにソルトに向かって言っている。
「それは、ただ隣の部屋だったということだよな。一緒に行動していた訳では無いんだろう? 隣の部屋同士で文句を言ったり仲良くなったりは良く有ることだ」
と、宿屋の客問題はそれなりに知っているモズが言ってくる。
「モカ、その商会の隣に泊まっていた人達の事は事情を聞きに来た警護団隊の人には言ったのか?」
と、ソルトはモカに聞くと、モカは首を傾げた。
「聞かれてないのに? 言うの?」
「「あっ!」」
と、ソルトとモズはそうかという風に声を出す。
「お客の事を聞かれもしなければ、俺たちはわざわざ答えない。厳密に秘密にすることではないが、言って回ったりはしないから隠すつもりは無くても聞かれない限り言わないよな」
と、モズはモカに確認を取れば頷いて返事にした。
「でも、この宿に泊まってたなら、何処の誰だかとか宿帳に書くよな。宿帳は警護団隊も調べたはずたし……」
と、ソルトは大したことでも無いかと興味が薄れた素振りをする。
「モカは馬車から降りた人だけ、覚えているのは?」
と、ダットは興味が薄れたソルトを寂しそうに見ているモカに追加で聞くと、
「えっ? あ……はっきり覚えているのは馬車から降りてきた人だけど、多分御者台に乗っていた人も私は見たことがあるの……でも……泊まりのお客さんでは無くて、違う場所だったか……はっきりどこでと言えないけど……何処だろう……」
と、モカもモズも当時を思い出そうと、真剣に悩む。
「オレはモカのいうジャスパード国の客に覚えがないんだよな、商会の人達に協力してくれる人を紹介してくれと言われて、アギルを紹介したんだから、多分宿屋の仕事をモカに押し付けて外に出てたんだろうな……オレは浮かれてて騙された事にも気が付かないで、モカや両親にも他の兄弟も巻き込んで…………さ」
と、当時をしっかり思い出して落ち込んでいくモズを見て、
「アギルがモズを許したのなら、もういい。ソルト、一様アギルに報告するか?」
と、ダットはソルトに振ると、
「今はアギル兄ちゃんは、領主様の準備の手伝いでそれどころじゃ無いよ。
その男達は領土を出たのなら、直ぐに報告してもどうにも成らないし、時間が開けばモカやモズにも、今回の切っ掛けで他にも思い出す事もあるかもだしね。
もし、モカが見た男達がアギル兄ちゃんに罪を着せたもの達なら、向こうもモカを見たんだろう?」
と、ソルトはモカに視線を合わす。
「あっ!! どうなんだモカ!! 向こうはモカに気が付いたのか?」
と、モズは必死に問うが、モカは下を向いたまま言葉にする。
「多分、御者台の人は私に気が付いた。私から気になったというよりは、向こうの視線が気になったから、顔を見たんだよ」
「トキニル叔父さんが来てたの?」
と、ルナーは母親のロッティナに食事の用意をしながら問うと、
「ええ、王都でスキールの手続きが終わって、一緒に来ていたマーガル商会の仕事を終えるのを待っていたそうよ」
と、コップに水を入れながら娘のルナーに説明をする。
「私も叔父さんに会いたかった」
「そうね、あまり時間が無さそうだったのと、あなたは夜勤明けで寝ていたでしょう。
ベテランの2人が、急に夜勤が出来なくなってルナーに担当して貰っているけど、慣れるまではちゃんと休まないと」
と、看護婦長で夫のディービスが居なければノーマン医院を任されている。
「若いから大丈夫よ。お母さん」
「ええ、知ってるわ。私も若かった時もあるのだから無理出来ることも、経験済みよ。
でもね、寝とけば良かったと後悔したこともあるから」
と、笑いながら娘に忠告するが、ルナーはまだ寝る間も無く看護してきた経験が無い。
ノーマン医院は、医師にも看護婦にも体調を維持出来る勤務体制にしている。
義父 グローの考えの元、夫の医師ディービスは医療従事者が心も身体も健康であるべきと指導している。
「えっとね、それは、先輩方からも言われているけどね、たまにしか会えない叔父さんに会いたかっただけ」
と、テーブルに食事を並べながらルナーは言う。
「トキニルはこれからもカーディナル王国に来るって言っていたから、無理に起こさなかったのよ」
と、娘が作った食事に手を付ける。
「なんだ、トキニル叔父さんもタニロ伯父さんも会えるなら、今度でもいいわ」
と、機嫌を持ち直してロッティナの前に座り、一緒に食事にした。
「ルナーはサッチの旦那さんに会ったことが有るのよね」
「ええ、お母さんもお父さんも留守にしていたから、タニロ伯父さんに紹介してもらった。
でもサッチ姉さんは、王宮勤めだったのに商会の人と出会いがあったんだね。義従姉兄のアキバ兄さんの商会は、何でも仕入れしているんだって、探しているものがあれば頼っていいよって言われたわ」
と、ルナーは伯父に紹介された時の話をする。
「ルナー、例え身内であれ親しくしていても話の内容は気を付けてね」
と、ロッティナが言えば、
「話の内容? 勿論、患者さんの話はしないし、しても伯父さんには関係が無いから分からないよ」
と、ルナーは職業意識の事を言われ納得が出来ない。
「ダーニーズウッド家から、苦情が出たわ。ノーマン医院の看護婦の噂話が、不審者を招き入れたと」
「えっ?! 私?」
「あなただけではないけれど、真っ先に疑われるのは誰だと思うの?」
「…………」
「私の信用と信頼は義父様とディービスに寄って得られた貴重な財産。ダーニーズウッド家が、この地を治められていての平和であることは、外から見るタッパー家は良く知っている。
私も自分の実家や身内を疑いたくはないけれど、正直に話すと兄とトキニル以外は信用していないわ」
「えっ?? 」
「だから、義姉さんもバールナに姪甥もね」
「伯母さんやギルやサッチに、スキールも?」




