方針
「待て!お待ち下さいカリーナ様。でしたら私達はアイを診ることは出来ないと思います」
と、ティベリ医師は告げる。
「あら? どうして? 今まではディービスとグローがアイを診ていたのよ。ねっ!」
と、娘のメアリー様とルカに問う。
メアリー様は、ルカと見合わせて頷き返事をする。
「私達はアイがシアン国王陛下の私設?…… 文官になるとは聞いておりません」
と、ティベリ医師は戸惑ったまま聞いてくる。
「義兄様、シアン陛下はそのところは何とお考えなのでしょうか?」
「いや、シアン陛下はグローが紹介の医師で良いと仰っていたぞ。ノーマン医院が信頼している医師にアイを任せると。
その場合は、グローの紹介では医師は不在で後継者も不在だったが、ディービスがティベリ医師とアルバン医師を指名したのなら、2人がアイを診るのに問題は無いだろう」
と、ダートル様は答える。
「しかし、王宮医師達が何と言われますか……」
と、アルバン医師も不安気に呟く。
「シアン陛下の意向が、ダーニーズウッド家での庇護であるなら、王宮医師達には私から根回ししておく。アイが王宮に上がるのはまだ先でも有るし、それぐらいの時間なら陛下と相談も出来る」
と、シアン国王陛下侍従長 ガルソール様は仰る。
「いつ? その様な話しになっていたのですか? アイのことはミカエル様からはダーニーズウッド家の庇護者だとしか聞いておりません」
と、ティベリ医師は恨めしそうな顔で言ってくる。
「実際に僕もつい最近だよ。ロビンもカリーナも定例会議で王都に来てからだと言っていたから」
と、ダートル様が言えば、カリーナ様は何も言わずにニッコリとした表情を作った。
「私はダーニーズウッド辺境伯領地を離れる前でしょうか?」
と、メアリー様は藍に確認するが、藍の顔色が悪くなっている事に気付く。
各々が藍の立ち姿を見ているのに、凄く変化しているのではなくて、徐々に陰を差すような微々たる変化。
…… ルカが立ち位置を変えている。やっぱり藍の体調が……何も動いてないのに?
「皆様、申し訳ございませんが、診察を先に進めて頂けませんか? ご相談内容は後程でお願いします」
と、ルカが藍の後ろから声を掛ける。
その声に一番に反応したのは、初対面から藍に疑いの目を向けていたダミアン医師だった。
「すみません。僕が要らぬ疑いを向けたので時間を掛けてしまいました。
ティベリ先生、アルバン先生。僕もディービス先生から指名を受けています。診察記録には目を通しましたが、俄に信じられずご指導して頂けますか」
と、ダミアン医師は藍の側に来て言ってきた。
「そうね、そうしましょう」
と、ティベリ医師は診察鞄を持ち直し、アルバン医師と藍の側に行き、ベット奥への移動する。
「メアリー、 ルカの先の発言はどういう事だ?」
と、ダートル様はカリーナ様に生けた花の説明をしているところに来て問う。
「伯父様、アイについてはルカに従った方が良いですわよ」
「何か合ったのか?」
「多分、あのままアイを立たせていたら体調を崩していたのでしょう。私も声を掛けようかと思っていたらルカが、先に動いたので」
と、メアリー様は答えた。
「うぅ、分からぬ。メアリーは分かるのか?」
「何となくですが、ハッキリ分かれば注意が出来るのですが、今みたいに微妙な変化はまだルカには叶いません」
と、メアリー様は天蓋カーテン先で診察中の藍を思う。
「それ程あの侍従は優秀なのですか?」
と、バースト様と話をされていたガルソール様が声を掛けてきた。
「ルカは優秀ですよ。私はルカの小さい時しか知りませんが……」
と、ダートル様は誤魔化し気味に答えた。
「義兄様は、ルカの父親を見て優秀だと言っているのでしょう? ルカと父親のアートムはダーニーズウッド家の警備警護の要です。
お義父様やシアン陛下も信頼しております」
と、カリーナ様は説明された。
「シアン陛下は、あの者にアイの侍従と警護に付けると仰っていたが、アイは気にならぬのか? そもそも若い女性に付けるのなら、父親の方では無いのか?」
と、ガルソール様は納得されていないようだ。
「ルカの父親は領土に必要な人物です。その片腕がルカですが、シアン陛下の依頼でアイに付けたと聞いています」
と、メアリー様は答えた。
「ガルソール様、アイへの探りは侍従のルカにも及ぶのですか? ルカはダーニーズウッド家の侍従ですよ」
と、カリーナ様は自信ありげに答える。
「カリーナ、陛下はガルソール様を止めたりなさらなかったよ。
ロビンとアイの事で接見した時は、シアン陛下の側近達とリック宰相殿下も同席されていたらな」
と、ダートル様はその時の状況を説明する。
「ダートル殿、アイの護衛は近衛に任せては?」
「ガルソール様、今王宮には女性の王族がいないので近衛にも女性騎士はいないのでは?
それとも、後のダニエル王太子のお妃様の為にと、お考えですか? 」
と、ダートル様は内部事情を打ち明ける。
「いや、そうではない。それを考えるのは私ではなく宰相殿下であって、王太子殿下の側近達の役目だ。
近衛にも女性騎士はいるのだが、何せ貴族籍の女性騎士となるといないが、それではこれからは困るのだ」
と、ガルソール様は正直に仰る。
「ガルソール様は、お考えがあるのですか? アイの事ですと私共だけでは判断は出来かねますが」
と、カリーナ様も一考有りとガルソール様に問う。
「ダーニーズウッド家では、アイを守る事に長けてはいるであろうが、王宮となればそうはいかぬ。侍従だと護衛だと言えど一人では隙を付くのは容易い。
任務として王宮内は近衛にアイに付けても問題は無いと思うが。シアン国王陛下にアイが付くのなら陛下を守る側近と近衛は付く。その時の護衛に女性騎士も付ける様に提案するが、どう思う?」
と、ガルソール様は考えを告げる。
「確かにな、シアン陛下の側にいる間は、アイも安全であるのなら、ルカにも時間は出来るだろうな。
問題はアイの体調変化だが……私は全く分からなかったぞ」
と、ダートル様は苦慮気味に言葉にする。
「ダーニーズウッド辺境伯夫人、検討の余地ありで話を進めても良いかな」
と、ガルソール様の確認が入る。
「ガルソール様の独断で進めるのではなく、シアン陛下の意向がダーニーズウッド家の方向性であるのなら従います」
と、カリーナ様は答えた。
「私はシアン国王陛下に仕える者だ。後少し陛下にお心に憂い無くお過ごしいただきたいと願っている。
シアン陛下が私設文官を持つと仰った時は、何とも痛惜な思いもしたが、シアン陛下の吐露された心情を聞けば波乱万丈であった身の上に屈せず真っ直ぐな御気性。
知己の恩人の孫であるアイを側で守ると決意されたのなら、私はそれに従いましょう」
と、ガルソール様はダーニーズウッド家の3人に告げた。
天蓋のカーテンがルカによって引き開けられると、3人の医師は其々複雑な顔で出てくる。
ただ1人ルカだけはいつも通りの表情で、診察がされたベット後を整えて、藍に付き添っているが、藍の不調が取り繕った顔で隠されているのが分かる。
「お待たせ致しました。ダートル様、アイが明日のアカデミーへの登院は無理だと判断致しました」
と、ティベリ医師は答えた。
「ティベリ先生、アイの体調の詳細は教えて頂けますか?」
と、カリーナ様の指摘に、ティベリ医師は頷きカリーナ様に報告しに近付こうとすると、
「待った! アイを預かる僕も詳細は知りたいよ」
と、ダートル様も声に出す。
「シアン陛下にお伝えしたいのだが……」
と、ガルソール様も詳細を知りたいと仰る。
溜め息を付いたティベリ医師は、カリーナ様とダートル様にガルソール様を囲んで話す体にすれば、何故かバースト様も入ろうと為さる。
「今日の診察で、アイの強心剤の副作用は落ち着いたと判断出来ました。味覚障害に臭気障害の回復に、不整脈等の異常はありません。アイの自己報告も尿の褐色も落ち着いたようです。体臭異常も無くなったことは、皆さんもお分かりになりますよね。浮腫はあるものの別の要因であることを申告されましたので、明日から三日程はアイの不調にお付き合いして下さい」
と、ティベリ医師は説明とお願いをされた。
「ティベリ先生? 改善されたのか不調に陥っているのか? よく分からないのだが……」
と、ダートル様の疑問は男性陣で、カリーナ様は理解された。
「アイは、薬の副作用で月の障りが来ました。ルカの話ではアイは動けなくなるそうなので、グロー先生の処方を参考に緩和する薬を処方する予定です。これが明日から登院が無理だと言った理由です」




