来客 2
急な来客に恙無く落ち着いて接客事をしてくれる、ダーニーズウッド家の使用人さん達が凄い。
四方辺境伯の三方が揃っていることに、メアリー様は目が泳いでいるけれど、現辺境伯夫人であるカリーナ様は、含みを入れた笑顔を浮かべて様子を見ている。
……カリーナ様は、絶対に面白がっている! メアリー様は社交界に参加されていても、年代がロビン様より上の方達のお相手をすることは、今の段階ではない筈。
でも、シアン陛下とは小さい時から会っているのよね?
「この場は、私へのご訪問でよろしいのですか?」
と、藍は相手をするのが自分なのかを、確認する。
「そう、固くならないで欲しい。ロビン殿とダートル殿がタツミ アイの相談をしに来た時には、信じがたい事だと思ったが……成る程……ふぅむ」
と、ガルソール様は言葉を切る。そしてルカに視線を向ける。
藍はガルソール様の視線が自分を通り過ぎて後ろに居るルカに向いていることに気が付くが、構わずに問う。
「信じがたいというのは、どの事に対してでしょうか?」
と、藍がガルソール様の次の言葉を待たずに声を掛けたことに、メアリー様の身体が固くなる。
ガルソール様は藍に目を合わせて口を開きかけたが、ダートル様に向き変えて、
「アイ、すまぬがロビン殿とダートル殿が言っておることの確認をしても良いか?」
と、言ってくる。
「ご確認が必要であれば、お答え致します。
しかし内容によっては私の認識と、シアン国王陛下やロビン様ダートル様のお考えが違ってもよろしいですか?」
と、藍は答えた。
「それは内容によっては、陛下と齟齬が有ると言うのか?」
「分かりません。私の国には ”親の心子知らず” という言葉があります。親は深い愛情で子供を育てているが、子供はそれが分からなくて、不平不満を言う。
その子供も親になれば同じ事が起きるのですが、その立場にならなくては分からない事も有りますから、シアン陛下と私にも齟齬が有るかもしれません」
と、藍はシアン陛下の思惑と自分の考えが一致しないかも知れないと答えた。
「ほぅ~~、成る程。その例えを言ってきたと言うことは、これまでも齟齬が有ったというのだな」
「そのままの通りです。私を心配してくださるのは有り難いのですが、私の周りには護ってくれている方々が沢山いらっしゃいます。過保護に口や手を出さないで欲しいと思ってもおりました。
しかし、それでも陰からお力添えを頂いて要るのを感謝をしておりますが、素直に態度で表してはおりません」
と、藍はニッコリ笑顔を作り答える。
「シアン陛下の文官になることに対しては納得しておるのか?」
「シアン陛下からどの様に伝わっているのか分かりませんが、私を側に置く環境で憶測で男女間や性別で卑下されることをお望みではないこと、能力で側に置ける価値有るものとして認めてもらうことが文官職で有ったのです」
と、藍は説明する。ガルソール様だけでなくダートル様やカリーナ様までも驚いた顔で藍を見てくる。
「ダートル、君が文官見習いを付けて面倒を見ると言ったのはこの子だろう? その必要が無いように思うが……」
と、バースト様は黙って藍とガルソール様の話を聞いた感想を言ってくる。そのバースト様の反応にダートル様は苦笑される。
同じタイミングでカリーナ様もため息を付かれる。
「問題はそこではない。アイが文官職に能力が有り適していることは、アカデミーの試験で証明されている。
ただ、なぁ……体力が無いのだ。皆無的に」
と、ダートル様はアイの顔を覗き込む様に言う。
「皆無?」
と、バースト様は訳が分からないと、カリーナ様に視線を向ける。
「ふっふっ。義お兄様、皆無処か絶無でしてよ」
と、カリーナ様は追い討ちを掛けて答える。
……絶無と言いながら、わたしに掛け持ちで仕事をさせようといているのは、どちら様でしょうか
「…………そんな話は出ておったか?」
と、ガルソール様はダートル様に確認を取る。
「ガルソール様、出ておりましたが陛下は誤魔化してお伝えしていたように思います。
陛下は能力や容姿は上位貴族並みだと例えられて、体力は貴族以下だと仰いました」
「………………確かにその様に、ダートル殿も試験の時は体調を崩したと言っておったのは、その場だけの話では無いのか?」
と、ガルソール様は信じられないと藍を見る。
「申し訳ございません。体力は赤子並みだと思います。自分でも」
と、藍が呟く。
「しかし、陛下は……」
と、ガルソール様はルカに視線を向ける。
「アイが身の危険を感じた時には、ルカを盾に手を出しても構わないと許可を出しだと仰りました。
僕はアイが戦えることを見る機会が有りませんでしたが、ダーニーズウッド家の者は見ているようで、体術は強いそうです」
と、ダートル様は自分では真偽が分からないと答える。
「アイは、戦えます。物凄く強いです。短い時間であれば」
と、メアリー様はダートル様の言葉に被せて言ってくる。
「そなたが、アイに付く侍従で護衛なのか?」
と、不意にルカにガルソール様が問う。
「はい。ダーニーズウッド辺境伯領土で侍従をしておりますルカです。
領主ロビン様に命じられ、アイの侍従と護衛を担います」
と、ルカはそつなく答えた。
「…………そなたのご両親の出身を聞いても」
「父と私はダーニーズウッド辺境伯領地だと聞いておりますが、母はユールチドゲ侯爵領地の出身だと聞きました」
と、ルカが答えると、ガルソール様は納得顔をして頷かれた。
……ガルソール様は、ユールチドゲ侯爵家の系列だから、ルカが気になるのか?
「陛下から身に付けるように、渡された物はいかがした?」
と、ガルソール様は藍に尋ねるが、藍は心当たりがない。
「すみません、ガルソール様。その件はまだアイは知りません。ロビン様がお持ちで領土にミカエルとジャスパード国の王子の出迎えに付いております」
と、カリーナ様が説明された。
「はて、陛下との面会から領土に戻るまで時間があった筈だが?」
と、ガルソール様は不思議そうに問う。
「……あの、ロビン様は悪く有りません。シアン国王陛下の面会の後ロビン様から話が有ると伺いました。
その……多分ですが、そのお話がガルソール様の仰っておられるお話だったのでしょうか?」
と、藍は先程と違い申し訳なさそうな顔で言って、カリーナ様に視線を送る。
「はぁー、おそらくそうなのでしょう。
ガルソール様、ロビン様が王宮でシアン陛下と面会されて、これからのことをアイと相談をするとお聞きしてからアイは生死を彷徨いました。
ですので、ロビン様はアイが元気になったことを御存知無いのです。手紙には記しましたので今は領土で安堵しておりますでしょうが」
と、カリーナ様が藍が説明出来ないというより意識がない出来事を説明する。
「待て! 今生死を彷徨ったと言ったか?」
と、ガルソール様は、カリーナ様に確認する。バースト様はダートル様を睨み付けたまま藍に問う。
「生死を彷徨ったと言われているよ。何か飲まされたり怪我でも負わせれたりしたのかい?」
と、バースト様の視線が藍の頭から下に上下して探られている。
「ガルソール様はお忙しいでしょうが、午後からアイの主治医が診察に来ます。今日の診察で私の文官見習いとして動いても良いかと判断される予定ですが、陛下にご報告に御一緒されますか?」
と、ダートル様が急にガルソール様に提案された。
「陛下に報告するのなら確かな事をお知らせしたい。そのままの事をお伝えすれば心配なさるだろう。
ダーニーズウッド辺境伯夫人、構いませんか?」
と、ガルソール様はカリーナ様に許可を取る。
「アイの主治医をガルソール様にご紹介出来るのはシアン陛下にもご報告出来ますね」
と、カリーナ様が扉前に立っているルクールに視線を送る。
「アイ、可能ならば貴方の部屋を見せてもらえませんか?
シアン陛下から部屋を整えるのを仰せつかっていたのですが、まだ取りかかっておりません。アイの希望があれば取り入れますよ」
と、ガルソール様の急なお願いに、ダートル様が慌てた。
「嫌、それは駄目でしょう。ガルソール様」
と、ダートル様の拒否が入る。
「ダートル様? 私は構いませんが?」
「えっ?! 良いのか? あの部屋をお見せして!」
と、ダートル様が固まった。




