誘導
「いいですよ」
と、藍の簡単な返事でカリーナ様だけでなく、側にいたルカも驚いてる。
「えぇ〰️〰️っ? アイ! 何お母様の口車に乗っているの!」
と、メアリー様が止めに入ってきた。
「元々、私は身体を動かしてする仕事をしたくても出来ませんでした。
出来ても1日の内数時間程度で、周りの理解や協力無しではまともに働いている人に迷惑にしかなりません」
と、藍は学生の時のアルバイト三時間でも理解ある店長と結衣さんとかが居なければ続けられなかった。
……身内雇用の神社巫女でも、勝手知ったる親族の協力で働く場を与えられていたに過ぎない。一般的な社会ではあまりにも非力で邪魔にしかならないけど、知識を出して動いてくれる人が居るなら出来る事も在るはず。
「アイは働くこと嫌いじゃないでしょう?」
「そうですね。倒れることを考えないで済むのなら、思い切り身体を動かして働いてみたいと思います」
と、藍は自虐的な意味を込めて答える。
「そうでしょう! アイは私と組みましょう」
「……カリーナ様とは、嫌です」
「「「えぇ?」」」
「組むのなら……ダートル様でしょうか?」
「な、な、な、なんで? お義兄様なの?」
「能力と言うよりは、カリーナ様だと派手になりそうなのと、私が表に出ないといけなくなりそうなのが、嫌です。
ダートル様はお願いしたことだけに、注視して護って貰えそうなとこ?」
「……………………何となく、分かる気がするわ」
と、メアリー様が長い沈黙の後、藍に同意する。
「派手にしなければ良いってこと? アイの希望は」
と、カリーナ様が不服顔で言ってくる。
「いえ、商売をするならカリーナ様ですよ。色々な案を出してきて起動に乗せるのも早いと思います。
しかし、細く長く必要な人に必要な物だけを提供して周りの負担にならないようにするのなら、ダートル様だと思ったのです。
それでいくと、ダートル様の次はダニー様でしょうか? その次がミカエル様が向いているように思います」
と、藍は思案しながら答える。
カリーナ様は、驚きながらも藍が上げていく人選を読み解き問う。
「それは、アイの頭の中にもう仕上がっている展開があるのよね」
と、カリーナ様が諦めたような表情で聞いてくる。
「領地でシアン陛下に返済を提案された時に初めに思い付いた仮想ですが、その時はミカエル様を候補に上げて想像していました。
でも、ミカエル様の仕事の量や性格を考えると提案は口に出せなくて、没にしたのですがまさか、カリーナ様に提案されるとは思いませんでした」
と、藍は正直な感想を述べる。
「筆頭にダートル伯父様が出るのはどうして? 伯父様もお忙しい立場だと思うけど?」
と、メアリー様は戸惑う周りを代表して問う。
「私の個人的な感想ですよ。これから違ってくるかも知れませんが、ダートル様は諦め上手な感じがするのです。
研究者だからでしょうか? 分析して予測して挑戦して駄目なもの駄目だと切り替えが出来るのではないでしょうか?
ただ、分析途中や挑戦せずに流したことは引きずるような気がします」
と、藍が説明すればルクールさんを始め、ダーニーズウッド家の者は悩みだす。
……不敬だよね。最近しか知らないわたしよりも、ダーニーズウッド家の方達は長く係わっておられるのに。
「アイがいう諦め上手とは、何を指して言っているの?」
と、カリーナ様は指摘を試みる。
「気を悪くしないで欲しいのですが、何事にでもです。人、物、感情、時間など自分だけではどうにもならないことはありますよね。
どうにもならないことでも人は努力をします。
足掻きます。思考して何とかしようと動きます。
見極める早さと気持ちの大きさが、各々違うのです。
例えば、私と商売を始めます。皆さんの目標は商売繁盛で係わる者達の幸せだとします。しかし私が帰れる目処が付いたから、手を引きますねと、言い出したら?
カリーナ様、メアリー様、ケビン様はどう動きますか?」
と、藍はカリーナ様とメアリー様に向けて問う。
「ど、ど、どうなんてその場にならないと分からないわよ!」
と、メアリー様は直ぐに答えた。
「…………」
「そうですよね。その時が来ないと分かりません」
と、藍は来てもいないことを決めつけているわけではないことを述べた。
「確かに、アイが言いたいことは可能性の話なのね。強く反対なり抵抗がありそうな人と、弱く反対なり認めそうな人……って!」
と、カリーナ様が眉尻を下げて答える。
「カリーナ様と商売をするならこの場所で、止まる人であるべきです。
いつ居なくなるか分からないような、不確かな状態では気持ちが落ち着かないはずです。それが私の存在です」
と、藍は説明をする。
……わたしの存在理由は、ここの人達には分からないし説明のしようがない。バグでしかない者は何時か消えないと……
「でも、アイが止めても止まらないのが、私のお母様よ」
と、メアリー様が急に言ってくる。
……あっ! だから、どうにもならないことがあるってっば!! わたしが止めても説明しても止まらないのでしょう
「流石、私の娘。アイが帰るというのなら、帰るまででいいわ。
アイが帰りたく無くなるように持っていけば良いのよね」
と、カリーナ様が言い出した。
「カリーナ様は領地で事業をなさっているのでしょう?
私と組まなくても、娘のメアリー様となされば良いのでは?」
と、藍は不思議に思い問う。
「メアリーは、私と似ているのよ。思考も好む物も同じ傾向であるなら、二人も要らないわ。
同じ道を行くのも良いけど、無い物ねだりになる方が勉強になるでしょう」
と、カリーナ様は娘のメアリー様に向けて答える。
「それでしたら、メアリー様と私でも良いのでは? そのまま利権はメアリー様に残るようにすれば、私が居なくなっても継続出来る仕組みにする方がいいですよね」
と、藍はカリーナ様の誘導に進む事にした。
「そうよね。私がアイの前に立てば、アイは目立つ事もなく一緒に事業が出来るわ!
領地に帰らないといけないお母様とでは、連絡もままならないし、王都にいる私となら常に相談も出来ますもの。
なんなら、そこにダートル伯父様も巻き込めば良いのでは?」
と、メアリー様は提案する。
机上で頬杖をしたまま笑っているカリーナ様は、娘のメアリー様の誘導が思惑通りになって楽しそうだ。
返済を抱えている藍が、ディービス達が驚く知識を持ちながら表に出ないこと、意欲があっても体調変化を気にしないといけない身体。
周りからの惜しみ無い援助を持ちつつ活かすつもりが無い藍に、無理矢理でも行動に移す切っ掛けをカリーナ様は、ご自身を出しにメアリー様の今後も思案されての芝居を打たれた。
……メアリー様の献身的な処は、カリーナ様と同じ愛情深い。
失敗や行いの拙さを認める事が出来る素直さは、メアリー様の長所。
流石は領主夫人である、娘の性格と私を巻き込む事の重要性を理解して、話を誘導していくなんて。
「メアリー様、わたしは人使いが荒いですよ。
御存知の通り、わたしが無理をすれば倒れます。シアン陛下の文官として王宮に上がればメアリー様に比重が傾きます。
ご理解されての発言ですか?
私は、最後までお付き合い出来なくても一緒に商いを携わると仰いますか?」
と、藍はメアリー様に確認と覚悟を問う。
「私はアイを護るって言ったわよ。お父様だけでなくお母様やお祖父様お祖母様に頼るのではなく、私がアイを護るの」
と、メアリー様は答えた。
「……体術は私の方が……強いのですが……」
と、藍が呟けば、
「そうですね。短時間でしたら……お強いですね」
と、藍の側でルカは答える。
「……違うでしょ!! それとは……」
と、カリーナ様も呆れ顔で呟く。
……わかってますよ




