大掃除
「ねぇ! ルカ。アイを少し私の部屋に移してくれない?」
と、メアリー様は部屋の中で筋肉維持体操をしているところにやって来て、藍の側で立っているルカに言ってくる。
「メアリー様? 何を急に言ってくるの?」
と、藍は先程まで側で筋肉維持体操な補助をしてくれていたメアリー様に問う。
「……誤魔化しても仕方ないから言うけど、アイの治療で悪臭がしていたのは、我慢するわ。悪臭よりもアイの方が大事だし必要だったのだから。
でもね! アイが歩けるようになってディービス達が短時間の散歩も許可したのなら、この部屋の改修と一斉の掃除をしたいのよ!」
と、メアリー様は仁王立ちで言ってくる。
……はぁはっはっ、ニンニクの匂いが掃除で消えるとは思えないけど……それに部屋を掃除してもなぁ……わたしから臭っているのにわたしから洗わないことには……
「ねぇ、メアリー様。部屋の臭いは掃除をしても取れません。私が臭いの元なのですから、メアリー様のお部屋に行けば、メアリー様のお部屋はここと同じになってしまいます」
と、藍は説明をすると、少し怯んだ顔をしたメアリー様だが、
「アイの部屋をここままにしておけないわよ。それにアイは嫌ではないの?」
と、心底心配顔で聞いてくる。
……あれ? 私が我慢していると思っているのよね……部屋もわたしも消臭脱臭となれば1人では無理だし、今無理するのは悪手だと認識している。
思わず寝着に薄手のガウンを掛けた自分を見下ろす。そして元凶である髪の毛を手に取ると確かにニンニク臭が強くなった。
わたしの身体はカリーナ様とメアリー様によって清潔に保ているのだ。主治医となったティベリ医師の診察時には全身隈無く観察されるが、ティベリ医師が驚く程ちゃんとした介護をされていた。
しかしながら、髪の毛だけは拭いても臭いは落ちないし、服薬し続けていた物の中に臭いの元も入っていたら体臭として出てくる。
そもそも1人で部屋の掃除や洗濯は出来ない。
「では、ご相談なのですがメアリー様協力してくれますか?」
と、息を整えて藍がメアリー様とルカに向かってお願いをしてみる。
ルカには部屋を整える事のお願いをする。
部屋の布製の物のカーテンや天蓋シーツの洗濯と医療関係のアルコールを一旦沸かした水で薄めて庭師のカロンさんが、使用しているだろう噴霧器で部屋の除菌消臭の塗布。
水で薄めている分揮発しにくいのを、布で拭き取り作業のお願い。
床は炭を粉にして灰と混ぜ合わせ床に撒き、撒き終えたところから掃き掃除すれば、部屋の換気と乾燥。
メアリー様には、わたしの湯浴みのお手伝いをお願いする。
長時間の湯浴みは体力の消耗と疲労になりかねない。
清潔と体温上昇、血液循環の向上が期待できるが、急な血圧の上がりは危険を伴う。
1人でゆっくりしたい気持ちはあるが、ここには蒸し風呂いわく蒸し室しかない。ほぼサウナと脱衣の場があるだけ。
……わたしは、湯船に浸かりたいし髪の毛を洗いスッキリさせたい。
臭い髪の毛を切りたいと言ったけど、メアリー様だけでなく周囲から反対されて、洗濯場を借りれることになったんだ。
メアリー様はわたしの提案に一切の反論もなく協力してくれる。
ルカの指示の元も布製の物を洗濯場で、三回に別けて洗濯されていく。
大物布製が一回、寝具廻りの物が一回と身の回り物が一回と、通常の作業の内容の洗濯が一回と三人で体制でするところを、3倍の9人で取りかかる。
洗濯がされている間に、アルコールや炭や灰の手配、カロンさんの作業場から噴霧器を借り、先に家具を外に出し塗装や白木専用の溶剤で拭き取り乾拭きと手分けする。
壁は布壁と腰板壁のツゥートンだ。布壁に薄まったアルコール液を目立たない場所で確かめて、変色しなければ均一に塗布していく。
布壁は目に沿って乾拭きしていく。腰板壁は家具と同じ手順だ。
床には窓を閉めたまま、脱臭と研磨的に炭と灰でおが屑を混ぜだものを撒き踏む。後は掃き取り集めたものは肥料にしてもらう。
窓を開けて換気と乾燥を促して、家具の配置で部屋は終わる。
湯浴みが問題なのは、ここでの入浴がないからで、水やお湯を使って拭き取りが日常なのだ。洗髪も粉状のものに少し水を足し練りあげたものを髪に付けて汚れや整髪剤を落としていく。
藍の世界では粉シャンプーになるが、藍の髪にはギシギシ感しかならない。
髪を纏めるのに整髪剤が使われる。整髪剤は油分が元で香料も入っているから油臭くはならないし、サラサラではないがシットリと髪を落ち着かせてはいる。
「アイ、洗濯場を借りきってどうするの?」
と、メアリー様は藍に付き添い聞いてくる。
メアリー様にお願いすることは、今日の分の洗濯が終われば、洗い場となっている二つのプールにお湯をいれてもらい入浴に付き合ってもらうことだ。
いつもの洗い場は、二つ並んだプールに一つは洗濯物を入れてお湯と塩を入れてつけ置きジャブジャブ洗いをするところである。
隣のプールに綺麗な水で濯ぎ、洗濯物は干場で水気を切って干される。
このプールは毎日交互に役目が変わる。濯ぎに使った水はそのまま残して次の洗濯物を入れてお湯と塩を入れてつけ置き洗いされる。
前の日につけ置きされたプールは、水は汚物洗いに使われる。
塩が入っているので、花の水やりには使用できないが、肥壺を洗うのには良いのだ。
今日の濯ぎ用のプールは熱湯を入れてもらい、人肌より少し高めの湯加減にしてもらう。もう一つのプールは水と熱湯を加減してもらい少しぬるめの湯加減にしてもらう。
メアリー様にお願いしたことは、洗濯場の貸切許可と付き添いに、シャンプーとリンスの制作依頼だ。
シャンプーはここの粉状の物に水ではなく卵白で練り上げていく。
リンスは整髪剤を少しお湯で解き、柑橘類の皮と果汁を絞り入れてかき混ぜるて作る。
昔のやり方をアレンジしているが、近いものは出来る筈。
洗濯場の用意が出来たところで、藍とメアリー様にお手伝いに2人の侍女が付いた。
素っ裸で入りたいが、入浴事態がない場所で裸で入りたいとは言えなかった。下着を着けず寝着だけでプールに入る。
プールには、踏み台がお湯の中に入れてあり腰を下ろして湯船に浸かれるように考えた。
「メアリー様、どうして私のする事に反対も文句も仰らないのですか?」
と、藍は久しぶりの入浴に浮かれたまま、付き添いでプールに同じ様に入っているメアリー様に問う。
「アイだからよ」
「えっ!っと? それは、私がする事に文句は無いと?」
「そうね。何をするのか今だによく分かっていないけれど、アイがしたいことでしょう? 協力すると言ったでしょう」
と、何時ものように素直な言い方はしないで言ってくる。
「ありがとうございます。本当に嬉しいです。でも私を信じていただけるのはありがたいのですが、私はメアリー様に何もしておりません。反対に説教的な事を言ってますよ」
と、藍は初対面から考えてもよくしてもらえる訳が分からなかった。
「そうよね。初めはアイの事を誤解と先入観で悪いように思っていたの。
でも、私もダーニーズウッド家の人間よ。人を見かけで判断してはいけないと、教えられてきたからね」
と、メアリー様は慣れない湯船に浸かりながら、藍が溺れないように手を繋いだままで答える。
「メアリー様、今から洗いっこをします。手伝って下さいね」
と、藍はタオルで首もとからメアリー様をゆっくり撫で洗いをしていく。
藍がしたことをメアリー様は同じ様に藍にしていき、身体と髪を洗っていく。
こっちのプールは人には見せれない事になっているが、侍女の2人には残りのシャンプーとリンスを使うことを許してプールの掃除をお願いした。
もう一つのプールは、藍には物足りないが湯船で身体と洗髪もしたので濯ぎの意味がある。
メアリー様はご自分の身体と髪通りに驚きながらも、藍から目を離すことなく入浴を終えたのだ。
藍とメアリー様の身支度に、2人の侍女は大変そうではあるが、後のお湯と掃除をお願いすれば、外で待ってくれている侍女長 メグさんが、藍の部屋が整うまでの時間をメアリー様の部屋で休めるようにしてくれていた。
……湯上がりのお水が、美味しい!!
メアリー様も美味しそうにお水を飲んでいるなぁ。
「メアリー様、私からの悪臭は無くなりましたか?」
と、本題の臭いチェックをしてもらう。
悪臭騒動からの大掃除に、入浴は藍の提案だけど、途中から忘れていたのだろう。メアリー様の慌てて飲みかけのコップを置いて近付いて来る。
「とってもいい匂い、それに黒髪が綺麗ね」




