巫女衣装
「ルカ。アイはどうだ?」
と、客室の部屋に入れば、藍を抱えているルカに問う。
「そろそろ覚醒すると思います」
と、馬車から降りる時に顔色を見たルカが答える。
「どうしようか? あまり長く今寝ると夜に寝れなくないか? このまま寝かしておくか?」
「出来たら食事を取って欲しいので、声を掛けましょう」
と、ルカが判断すると、藍の閉じている眼球が動く。ベットまで来ていたルカがソファーに移動する。
四人の掛けのソファーに藍を横たえれば、毛布で巻き込まれた手足が自由になった。トキニルに言われた様に外出着のドレスから室内着に着替えていたせいもあるのだろう。
随分顔色が良くなった。
藍の覚醒まで部屋を整えていた、ミカエル様とルカの気配で目が覚める。
……すっきっり起きれた! ……あれ? 何処?
「目が覚めたかっぅ」
と、ミカエル様の安堵顔で言われ、
「気分はどう?」
と、ルカに問われ、
「あれ? すっきっり……です」
と、周りを見回す。
「それなら良かったな」
と、ミカエル様が仰り、何やらでテーブルに書類が置いてある。
不思議そうに見ていると、
「アイが目が覚めるまで、色々ある手続きや報告書に目を通すつもりだったんだが、アイが目が覚めたなら少し話がある」
と、ミカエル様が教えてくれた。
「お話をされるなら、お茶の用意をしますね」
と、ルカが部屋を出ると直ぐに戻ってきた。
「ミカエル様。ウルーナミ副隊長が取り次いで欲しいと、いらしております」
と、ルカが報告してきた。
「ウルーナミが? 分かった会おう」
と、ミカエル様が返事をすれば、部屋に入ってきた青年は深緑髪色をした、警護団隊服が様になっている。
……あっ! 目が合った。隊服が似合っている。ルッツさん位かな?……お邪魔かなぁ?
「どうした? 急な報告でもあるのか?」
「…………………………」
「ミカエル様、私は続き部屋に行ってましょうか?」
と、運ばれる時に使用されていた毛布を畳んで持つと、
「まだ、説明が途中だからこのままで良いよ。アイは少し待ってて。
で、ウルーナミ何か聞きたいのか?」
と、ミカエル様が青年に問う。
「……あ! はい。実は4の2の月半ばに出した早馬の報告書の件なんですが……こちらに報告書がないもので確認をとりましたところ、領主邸で預かりになっていると、ご存知有りませんか?」
と、青年がミカエル様に答える。
「すまん! こちらに着いたら渡すつもりだった。言ってくれて助かった。忘れるとこだったよ。控えはこちらで持っているから隊員達の報告書は僕が預かっていた。悪かったな連絡が遅くなった。隊員達は責は無いよ」
と、ミカエル様が謝る。
「私も今日の……報告書を出さなければいけないのですが……」
と、青年は言って
……わたしと目が合うが、何?……
「ウルーナミは、忖度する必要は無いよ。報告書はちゃんとすればいい。
憶測や詮索な事をしなければ良いだけだ」
と、ミカエル様が青年に笑顔で言っている。
テーブルの上に広がった書類の中から、青年に報告書を手渡し、ルカがお茶を入れて部屋に戻って来ると、わたしとのお話になる。
「ミカエル様。アカデミーには巫女衣装で通えば良いのですね」
と、藍が問う。
「そうなんだが、アイが外国人だと分かるようにするためには、他に何か方法はあるか?」
と、ミカエル様は馬車の中でシアン国王陛下に提案されたことを問う。
「私がはっきり外国人であるような姿が良いと、シアン国王陛下はお考えなのですね」
と、藍も理解する。下手に隠すより始めに出してしまえば後が楽になる。
「アイが着てきた衣装は1着しかないだろう。だからダーニーズウッド家別邸に仕立屋を呼ぼうと思っているんだ」
と、ミカエル様が言うと、
「待ってください。仕立屋さんでなくて生地問屋でいいです」
と、藍が慌てて答えた。
「えっ?」「なんで?」
と、ミカエル様とルカが一緒に声に出す。
「えっ?、なんでって借金が増えるじゃないですかーーーー」
と、藍は答えた。
……簡単に借金を増やさないで欲しい。巫女衣装擬きなら見本があるから、わたしでも縫える。これから日本と同じ様な季節になるなら、尚更だ…………
「ちょっと待って。アイが衣装を作る気か?」
と、ミカエル様が聞いてくる。
「勿論そのつもりですが? 私が着てきた巫女衣装は誰も知らないでしょう? だったらそれらしく見えたら良いのでは? 全く同じ物で無くても誰も気付きませんよ。シアン国王陛下以外は」
と、藍は自信たっぷりに答える。
「アイ。体調が戻ってきて元気になってくれるのは嬉しいが、直ぐに出来るものなのか? 無理してまた体調が悪くなるなら、お金を掛けても仕立屋に頼んだ方が良くないか?」
と、尤もな事をミカエル様が仰る。
「私もミカエル様と同じです。アイが器用に物を縫うのは知っていますが、馬車酔いをしたのはこの前の無理の疲れが残っていたからじゃないですか?」
と、ルカが突っ込む。
……また、ルカが鋭い。乗り物酔いは元々する方ではあるが、寝不足や疲れが原因でもある。生理で貧血もそうだが、慣れない経血当てに不安で寝不足でもある。痛み止めの服用は効くまでに時間がかかるし頻繁には、使用出来ない……
対して用意をすることもないと思っていたのに、二月でもわたし用に誂えたドレスや普段着に寝着や下着類。何やら増えている。
結局出発までバタバタと遅くまでかかって用意したことはルカには、バレている……
「1着はあるし、別邸では普段着を着用すれば良いでしょう? ゆっくり縫ってけば手が混んでないのよあの衣装は」
と、藍は説明する。
「初めての場所で、ミカエル様と私しか面識がないお館で、アイは体調を崩さないんですね。メアリー様達もいらっしゃいますが、お相手なさりながら大丈夫なんですね!」
と、ルカが確認してくる。
……ひぇー! ルカが司化しているよ! 体調崩すのが確定してるの? わたしとの付き合いまだ二月なのに?……
「と、言うことは、仕立屋とグローに紹介された医師も手配しないといけないな」
と、ミカエル様が言ってくる。
……待って! 何! 何! どっちかにして!……
「待って下さい。お館に着いたらちゃんと休みます。仕立屋さんを呼んで下さい」
と、藍はミカエル様とルカによって、言いくめられる。
……ミカエル様もルカもわたしの扱いに慣れすぎでしょう。でも……確かに王都での生活に慣れるまで無理は出来ない。
多分どの世界でも医療費って高いよね……健康が一番安上がりなんだとわたしは、知っている。
ましてやダーニーズウッド領主邸に馴染むまで大変だった。始めからだよね……
「アイ、不安にさせたのなら悪かった。アイの金銭感覚がちゃんとしていることは、悪いことじゃない。
ただ何事にも始まりには経費は付きものだ。お金より健康だ。アイは健康よりもお金を選ぶのか?」
と、ミカエル様が聞いてきた。
……健康のありがたさを一番知っているのは、わたしだ。
健康ってわたしには遠いな。
普通に息がしたいなぁ。
体力がないから直ぐに酸欠になる。
酸欠は苦しいなぁ。
吸っても肺に入らない。
吸うのも体力使うから身体が軋む。
異世界に来て初めてちゃんと息が出来ていると感じたんだ。
よく生きてたなぁ。これは、ダメだ…………
「本当は、勝手に進めても良かったんだ。しかしシアン陛下がアイに確認してからにして欲しいと仰って」
と、馬車の中での話をしだす。
「それって……私がとんでもない事をしでかすかもと危惧してですか?」
と、聞けば、
「アイ、素直に受け取ろうか……多分それもあるな」
と、ミカエル様が認める。
「では、アイはどうするつもりだった?」
と、ルカが聞いてくる。
「えっ? 別にアカデミーの制服があるなら着ていくけど、無いなら普通に外出着で行くわよ。礼儀でしょう? 先生方に会うなら」
と、藍は答えたが、
……本当にきっちりするなら、着物なんだよ。日本の民族衣裳は。
あっ! それで巫女衣装か!
お祖父様なりに考えて言ってくれている。……なるほど確認をしてからね。
「ミカエル様、ルカ。仕立屋さんは少し待って。先生方に会ってお話してからでも良い?」
「えっ? どうした?」
「初日は、巫女衣装でご挨拶するわ。先生方の意見を聞いてからでも良くない?
私が外国人だと分かった上で、巫女衣装の方が良いと判断されるか、こちらの衣装に合わせるか相談したい。
もしかしたら仕立屋さんに無理を言うかも知れないけど、巫女衣装が直ぐに必要無いのならゆっくり自分で縫えるし、必要ならお金がかかっても作って貰うようにするから」
と、藍が提案する。