情報 3
「えっ?!……お祖父様の側近ですか?」
と、ロビン様はニックに視線を向けて問う。
「あぅ? 曾祖父様の側近?の女性?!」
と、ミカエル様は驚いているが、
「いえ、セガール様の側近は勿論男性ですよ」
と、執事のニックは答える。
「いくら、ダーニーズウッド辺境伯領土の貴族だとしても伯爵令嬢であるなら淑女科を卒業しておる。王宮勤めで王族の侍女はしても斥候など出来る筈はなかろう。噂話程度の探りはしても母上が許す筈がない」
と、カール様は答えた。
「そういえば、お一人いらっしゃいましたね。お義父様の側近に……子息とも令嬢とも……若子とも成人とも……何とお呼びすればいいのか悩んでしまう方が」
と、メリアーナ様は仰る。
「本人は気にしておったな。男性にしたら小柄で女性では少し背が高い。声の質がいつまでも高くて可愛らしいのを無理して低く話ておったが……」
と、カール様は懐かしく思い出しながら答えた。
「もしか……して、リズリー様の侍女の中に入っていたのですか?」
と、ミカエル様は驚愕の顔で問う。
「勿論だ、リズリー叔母上は御存知無かったが、侍女としてダーニーズウッド領地出身の他の令嬢の協力で王宮内に入っておった。最後までばれなかった筈だぞ。父上が呼び戻すまで」
と、カール様は仰り、
「肉質が固くなりましたが、声だけは高い質のままでしたね」
と、にっこり顔でニックも答える。
「肉質? 声質? それは、分からないものなのでしょうか? 協力者がいたとしてもジャスパード国からの、王妃付きの侍女もいた筈ですよね」
と、ロビン様は納得がいかない。
「どうしたのか本人が言わぬから分からぬが、疑われた時に裸にされたと言っていたが、切り抜けたようだしやり方が有るのか?」
と、カール様が聞いてくる。
「そんなやり方なんか知りませんよ!」
と、ミカエル様が言えば、
「ミカエルは知らないの? 昔から男色の殿方はいるでしょう?」
「…………」
「母上、ミカエルをからかうのはお止めください」
と、ロビン様がメリアーナ様を止める。
「今、急に思い出しました。身近でそんなことを平気で言ってました……」
と、ミカエル様は黙り込む。
「話が違う方向に言っていませんか? リズリー様に付いていた侍女がジャスパード国で婚姻をしてそのまま王妃付きでいられたのですね。
王族の近くにいないことには、お手付きにならないでしょう?」
と、ロビン様は呆れたように話を進める。
「外れてはおらぬが、ダーニーズウッド辺境伯領地出身侍女は、叔母上の薦めで国王の護衛騎士と縁ずいた。
向こうで家庭を持ったが産まれた子供は男子ばかりで、叔母上には付けられずロダント王子に付く騎士になったのだ。
その騎士の娘が国王となったロダント陛下の王妃の侍女となって、カルート王子の時にお手が付いたと聞いたぞ」
と、カール様が説明する。
「よく処分されませんでしたね」
と、ロビン様は感想を言うと、
「王妃である母親が止めたのだ。処分対象ではあったが産まれたのが男子だったからな。2代続きで1人王子だったのが幸いした。
正式な王子妃を迎えて男子が産まれなかった時の為に騎士の家で預かりになった。
カルート王子が即位して国王になれば、王妃を迎えたのがモネ様だったが、1人目2人目とも姫様で3人目が待望のセントール王子。
モネ様の執念を感じるな、公爵令嬢で王に嫁いだが、伯爵令嬢が愛妾で男子がいるならば」
と、カール様の説明が終わる。
「父上、そこまでの情報が得られているのは、どうしてなのですか? ジャスパード国の継承問題ですよ。
まだ、王族の身近に付いているものがおるのですか?」
と、ロビン様は宰相殿下から聞かされた情報より詳しく内密的な情報に心底驚いている。
「ふぅむ~ん、流石に父上や母上の情報網は絶えておる。此方から嫁いだが者も代替りで反対に取り込まれていると判断しているし、
ダーニーズウッド領地に縁が有ると言ってくるのは敢えて危険視しておる。
だから最近は途絶えていたのだ、ジャスパード国の情報は……が、現王の愛妾の話が漏れる筈がないだろう」
と、腕組をしたカール様は息子と孫に視線を合わせる。
「…………と、言うことは、愛妾側から? ですか?」
と、ロビン様は驚愕な顔で問う。
「それは、作為有る話ではないのですか?」
と、ミカエル様も疑う。
「愛妾とされている女性と現王の息子からではないのよ。その両親 祖父母からの情報になるわね」
と、メリアーナ様は答える。
「愛妾と息子は、両親と祖父母が国を裏切っていることを知らないのですか?」
と、ロビン様は問う。
「それは分からないわ。勘づいているのか、泳がせているのかなんて」
と、メリアーナ様は簡単に答える。
「だが、推測は出来る。王子だとしてもお手を付けて子を設けたのなら側に置く方法は有る。伯爵家で在ろうと王族の側近近く仕えている者ならば、上位の家に養子に入ればいいだけだ」
「あっ!」
「成る程、尤もな話ですね」
「正妃が無理でも愛妾のまま里に預けるなんて、現王が黙って周りに従っているのは可笑しいでしょう。
となれば、現王の意向で有るのよね」
と、メリアーナ様は仰る。
「…………その待遇に両親祖父母は憤っていると」
「分からぬな、会ってはおらぬし推測での話だ。
ただ、リズリー叔母上が健在中でそれまでの話は一致しておる。途絶えた期間はあるが辻褄は合う話でもある」
と、カール様は答えた。
「ダーニーズウッド家に直接連絡が来たのですか? 何故? 私が知らないのでしょうか?」
と、ロビン様は首を傾げる。
「他国の貴族から易々と連絡は来るわけがなかろう。ましてや四大辺境伯領主宛に……が、私もロビンも会っておるのだ」
と、カール様は答えた。
「はぁ??」
「それは、お祖父様と父上がジャスパード国に出向いた時……に、護衛騎士……ですね」
と、ミカエル様は気が付く。
「そうですね。我々にも側近が付きますが式典の時は控えに待機しておりました。ジャスパード国の騎士が式典の時は側にいましたね」
と、ロビン様も思い当たる。
「顔までは覚えておらぬが、護衛騎士同士で話もするであろうし、警備の打ち合わせもしたであろう。
此方からは何も指示しておらぬが、誼を繋いだ者がいたのだ」
と、カール様は種明かしをされた。
「初めから父上に縁付きたいと、企んでいたのでしょうか?」
と、ロビン様は思考する。
「隣国同士の手紙のやり取りでも、国境境の警護第2団隊に記録は残る。それは、あちらの方でも同じであろう。
親しくなった友情の手紙に見せかけて、細かく短い世間話に入れ込んでいたようだ」
と、カール様は説明する。
「その騎士が考えたことなのでしょうか?」
と、ミカエル様は疑問に問うと、
「その様なことを思い付くのは、騎士の妻でしょう。娘と孫を思い策を練ったのは母親で祖母だとすれば、心情は分からなくともないもの」
と、メリアーナ様は答える。
「ダーニーズウッド辺境伯領を通過して来賓される王子の思惑も、探りながらの接待になりますか」
と、うんざり気味のロビン様は告げる。
「まず、ジャスパード国の問題に巻き込まれない事だ」
と、カール様から提案され、
「しかしながら、セントール王子のお相手をするならば、ミカエルしかおりませんよ」
と、ロビン様は息子のミカエル様に視線を向ける。
「確かに、シアン陛下からもダニエル殿下の側近として自覚して欲しいと言われました。
ならば、僕が探なり制御するしかないですよね。
メアリーやアイを護るために頑張りましょうかぁ!」
と、ミカエル様は言葉にした。
「宰相殿下には、どこまでお話しすればいいのか…………
父上、また暫く留守をお願い致します」
と、ロビン様は前領主 カール様に頼む。
「任せておけ」
「当分、お休みがございませんね」
「ご指示有れば、動きます」
ダーニーズウッド家別邸では、談話室だけが外からも中からも物音ひとつしない。
ドア前を使用人が通りすぎても、聞き耳をたてたとしても、ドアが開けられない限り外に音は漏れることはない。




