警護第五団隊
「ミカエル様、到着が遅いので心配致しました」
と、第五団隊長ザエーカルが馬車の側に来て声をかける。
「すまなかったな。シアン国王陛下がお休みになる部屋は整っているのか?」
と、ミカエル様が隊長ザエーカルと隊員2人に問う。
「はい。王宮から侍従達がこちらに着きましたので整っているはずです。確認致しましょうか?」
と、ザエーカルが隊員達に目配せをする。
ザエーカル隊長はダーニーズウッド辺境伯領土内の子爵、ロットエアール子爵の次男である。ここ警護第五団隊は、王都と領境の1つユールチードゲ侯爵領土からの、行き来を警護管理する場所であり、領主邸の書簡や荷物はこの第五団隊関所を許可なく通過することは無い。
同じ領境を護る第四団隊はブーケンビート辺境伯領からの、警護管理に比べて規模が大きく関わっている団隊員人数も多い。
王都からの街道が、大河川シーガネ川に沿っているために、関所には宿場やお店が並びダーニーズウッド領内の街に次ぐ賑やかさがある。
ミカエル様が到着したところは、第五団隊舎の客室で馬車の手入れや馬の手配はここで補える。
客室にはシアン国王陛下だけが宿泊されるわけではなくて、他国の客人も警護を兼ねた宿泊施設になっている。一般の旅行者は関所近くの食堂を兼ねた宿屋に入っていく。
「シアン国王陛下、トルーガ様が客室でお待ちになっております」
と、ザエーカル隊長がシアン国王陛下の第二侍従が居ることを告げる。
「なに? トルーガが来ておる?」
と、シアン国王陛下が侍従長 ガルソールの息子 侍従 トルーガが態々迎えに来ている事が分からない。
「はい。朝他の方々とお着きに成りました。シアン国王陛下の部屋の整えはトルーガ様の指示にてされております」
と、ザエーカル隊長が説明する。
「そうか……ご苦労で合ったな。案内を頼むか」
と、シアン国王陛下はとぼとぼと護衛の騎士と客室へ案内される。
「では、ミカエル様のお部屋に案内させていただきます」
と、第五団隊副隊長 ウルーナミが告げる。ウルーナミ副隊長はザエーカルの弟 ロットエアール子爵 四男だ。
「ミカエル様の侍従は、ルカでよろしいのですか? 別邸から明日迎えに来るようですが」
と、ウルーナミ副隊長が聞いてくる。
「あぁ、ルカに頼んでいる。ウルーナミ、僕と入れ違い位に父上が、帰領されるはずだから、それまでに厩務員達に馬車と馬の管理を頼む」
と、ミカエル様がルカを伴って部屋に案内されるが、ウルーナミ副隊長はルカが気になって仕方がない。
「あの~~、ミカエル様。ルカが抱えているのは人ではございませんか?」
と、ウルーナミ副隊長が言いにくそうに聞いてくる。
「そうだが?」
と、ミカエル様は隠すこともなく答える。
「えっ! えっとですね。何故? ルカが抱えているのでしょうか?」
と、ウルーナミ副隊長は再度聞く。
「寝ているからだが?」
「寝ている? ……では、その者の部屋はどうされますか?」
「僕とルカと一緒で良いよ。ルカは続き部屋だろう?」
「そうです。いつものお部屋を整えました。私の勘違いでしたか。ルカが抱えている人が女性の様に見えましたから……あはっ」
「ウルーナミの勘違いじゃないよ。女性だから」
「えっ…………えっ?」
「分かっていると思うから、敢えて言わないが、これが面白可笑しく話に上がるとしたら、誰が言ったか分かることになるな。
領益にならないことを僕はしないし、ルカが従う訳がないだろう。ルカが従うことを考えれば分かることだ」
と、ミカエル様が言って、ウルーナミ副隊長に近付き隊襟を直す。
「はい!」
と、ブーツの踵をバシッと合わせたウルーナミ副隊長が返事する。
…………うゎ~~ぁ~~! どうする? ミカエル様が変だ~! どうする? どう……
「ウルーナミ、ミカエル様の案内は終わらせたのか?」
と、隊長で兄のザエーカルが、声を掛けてきた。
「あぁ~~はぃ!…………終えました……」
と、歯切れ悪く答えたが、
「何か有ったのか?」
「いぇ、ミカエル様は頗るお元気そうで成りよりでした。シアン国王陛下の方はいかがでしたか?」
と、反対に兄に問う。
「ふぅ~~ん。陛下付きのトルーガ様がいらしたことに驚かれていたな。侍従長 ガルソール様の指示らしいが」
「いつもより、ダーニーズウッド領に滞在が長かったからでは? 心配されたのでしょう」
と、ウルーナミが答えた。
「それもそうなんだが、陛下の雰囲気が変わったように感じたのだが、気のせいか?
この前のジャスパード国の書簡は、ウルーナミが第二団から引き継いで、王宮にお届けしたんだったな」
「はい。第一団からも書簡がありましたので、二部王宮にお届けしました。報告書にもあげております」
と、ウルーナミが答えて気付く。
……あっ! 今日の報告書……どうしたらいいんだ…………
「確かに、ウルーナミの報告書は合ったな。そう言えば、この前の早馬を出した団隊員の報告書がまだだが、誰が持っているだ?」
「この前の早馬と言えば、早朝のメアリー様達の事ですね」
「そうだ、何事もなかったと言え、三人の隊員が動いたんだ。報告が有るだろう?」
「それもそうですね。僕の方で調べて報告書を提出させます」
「三人揃わなくても提出させろ。記録に控えなければ記載漏れは責任者の責になるぞ」
と、第五団隊長 ザエーカルが副隊長のウルーナミに告げる。
責任者つまり兄である、第五団隊長 ザエーカルの責任が問われることになる。
「分かりました。直ぐに調べます」
と、ウルーナミが答える。
「あっ!ルディー」
と、茶髪の少女を見つけてウルーナミが呼び止める。
「はい。ウルーナミ副隊長、お呼びですか?」
と、第五団隊のバッチを付けたスカーフを巻いたルディーが答える。
「4の2の月半ばに、早馬を出しただろう? 三人誰だが分かるか?」
「メアリー様が早朝手続きせずに通過したときの事ですか?」
「それそれ!」
「あの~、それって問題になっているみたいですよ」
「どういうことだ?」
「実は、私も三人に報告書の提出をお願いしたところ、報告書はデーク、カリオン、マーズが各々ダーニーズウッド領主邸で、書き上げていたらしいのですが、なんでも元第一団隊長さんが退団後は、ダーニーズウッド邸にお勤めらしく提出前に確認をお願いしたら、預かりになったと言ってました」
「預かりに?」
「はい。三人とも同じ事を言っていたので嘘ではないと思います」
と、ルディーが答える。
「そうか、悪かった。ルディーの時間を取ってしまったな」
と、ウルーナミは誤り、ルディーとは別れたが、
……どうする? デーク、カリオン、マーズは報告書を書き上げている。
ただ、元第一団隊長と言えばキニルだよな。キニルが預かりで報告するならアートム……
ミカエル様に聞くか……預かりになっているのを第五団隊は知らないなら三人は、何も悪くない。ミカエル様がお持ちなら訳を言って何時になるかを報告しないと…………それに……
ウルーナミは先ほどミカエル様とルカを案内はした客室に足を向ける。
客室前に着くと丁度ルカが部屋から出てきた。
「ルカ!」
「ウルーナミ副隊長どうされました?」
「お休みのところ悪いが、ミカエル様に取り次いでもらえないか?」
「それは、構いませんが少し待っててもらえますか? 今お声を掛けてきます」
と、言ってルカが部屋に入る。
「ウルーナミ副隊長、ミカエル様がお会いになるそうです。どうぞ」
と、ルカに客室に誘導される。
「どうした? 急な報告でもあるのか?」
と、ミカエル様がソファーに腰を掛けて、テーブルには書類を広げて話している。女性と…………
「…………………………」
「ミカエル様、私は続き部屋に行ってましょうか?」
「まだ、説明が途中だからこのままで良いよ。アイは少し待ってて。
で、ウルーナミ何か聞きたいのか?」
と、ミカエル様に問われた。
「……あ! はい。実は4の2の月半ばに出した早馬の報告書の件なんですが……こちらに報告書がないもので確認をとりましたところ、領主邸で預かりになっていると、ご存知有りませんか?」
と、ウルーナミは何とか言いたい事が言えたが、目は女性へと行ってしまう。
ルカが抱えていた女性だ。分かるが、分かるが…………
「すまん! こちらに着いたら渡すつもりだった。言ってくれて助かった。忘れるとこだったよ。控えはこちらで持っているから隊員達の報告書は僕が預かっていた。悪かったな連絡が遅くなった。隊員達は責は無いよ」
と、ミカエル様が謝る。
「何か問題でも有りましたか?」
「いや、領主である父に娘の教育を考えてもらうための資料だよ。第五団隊には迷惑を掛けた報告でもあるし」
と、ミカエル様が仰る。
「私も今日の……報告書を出さなければいけないのですが……」
と、ウルーナミが女性の方に視線を動かし尋ねる。
「ウルーナミは、忖度する必要は無いよ。報告書はちゃんとすればいい。
憶測や詮索な事をしなければ良いだけだ」
と、ミカエル様に忠告された。