医師会館
「ナギ、ここから一番近い診療所が何処か分かるか?」
と、医師会館の馬車止めで待たせている侍従 ナギに問う。
「はい。分かります。ミカエル様街の診療所に行かれるのですか?」
と、不思議そうにナギが聞いてくる。
「あぁ、当てにしていた医師が不在なんだ。事務職の人間が診療所の医師が平民だが腕は良いと言っていたからそちらに頼むしかない」
と、ミカエル様も苦渋している。
「ミカエル様、街の診療所で直ぐに診て貰えるか分かりません。今こちらに向かっておられる白衣の方に相談されて対応出来る医師を、平民の医師では貴族家の診察に躊躇して説得するのに時間がかかります」
と、ナギは冷静にミカエル様に説明する。
ナギが振り向いた先アカデミーの方から、恰幅のいい医師が歩いて来るのが見えた。
……ナギの言っていることは理にかなっている。先程腕の良いと言う医師の事を聞いて同じ評価なら尚良い。
「ナギ、あの医師に聞いてくる。もう少し待っててくれ」
と、ミカエル様は馬車のステップから足を下ろして、此方に向かって来る白衣の男性に話しかける。
「あの、医師会館の医師の方ですか? ご相談があるのです」
と、ミカエル様が近付けば、男性の後ろから同年代の女性が顔を出してきた。
「アルバン、貴方太りすぎ。医師が太りすぎで病気に成りましたなんて、恥ずかしいわよ」
と、恰幅の良い男性医師の背中を叩いて、女性医師がアルバンと呼ばれた医師の横に並んだ。
チラッと医師会館に停めてある馬車を見て、
「急患ですか? 会館に医師が待機しておりますよ?」
と、女性医師は言ってくる。
「はい、事務職の人に聞きました。でもあまりお薦めできないと言われ、街の診療所の医師を紹介されたのですが、そちらの医師の方は初見でも大丈夫なのでしょうか?」
と、ミカエル様も紹介された医師が平民と身分で区別はしたくなく腕の確認をしたくて遠回しに聞く。
「貴方は? どう見てもお貴族様ですよね」
た、男性医師に問われた。
「ミカエル·ダーニーズウッド辺境伯です。グロー·ノーマンより紹介されたマギルバ医師を頼って来たのですが、当分会館を留守にされると聞きました。グローからはマギルバ医師の後継者に依頼するように言われたのですが、その方もお留守だと」
と、グローから診断記録の控えと紹介状を預かっている。
「あぁ、マギルバ先生にですか。王宮医師を引退されて医師会館には居られますが、御自身も高齢で静養に出られていますね」
と、男性医師は女性医師を見ながら説明してくる。
「アルバン、会館にいるのは誰?」
「ザートンだろう。事務職の人間が薦められないなんて言わせるのは。後は新人が数人だな」
「それで、街に出ている医師を紹介されたのね」
「僕が診ようか? ティベリは忙がしいだろう? 助手は会館にいる新人にさせればいいし」
と、男性医師が答えた。
「あの、ミカエル様。グロー先生に普段は診て貰っているのですか?」
と、女性医師は聞いてくる。
「いえ、いつもはディービスが診てくれています。グローも初見にはおりましたが、領土を離れる際に診断記録と紹介状を用意してくれたのはグローです」
と、ミカエル様は何処まで答えて良いか苦慮しながら伝える。
その様子を見て女性医師は、
「アルバン、二人で診ましょう。グロー先生とディービスが診ている患者なら、下手な者を紹介出来ないわ」
「ふん、それもそうか。じゃ診察用意をしょう。ミカエル様、患者は何処ですか?」
と、男性医師はミカエル様に問う。
「えっ?」
「医師会館の医師が会館で診るのと、往診をするのでは治療費が変わります。患者が馬車にいるのなら直ぐに診察しますよ」
と、女性医師は確認してくる。
「それでしたら、送迎はいたしますので直ぐに館の方に来て下さい。診察記録も館にあります」
と、ミカエル様は二人の医師の手を取り急き立てる。
「アルバン、貴方が動くより私の方が早いわ。診察用意をするから、アルバンは事務職員に往診する事を説明しておいて」
と、言ったら一足先に掛けて会館の中に入っていった。
「はいはい、わかった。ミカエル様私も説明しに行きます。少しお待ち下さい」
と、女性医師よりはゆっくりだが、急いで会館の中に入っていった。
「ミカエル様、どうなりましたか?」
と、御者台からナギが聞いてくる。
「あの、二人の医師が来てくれるそうだ。ディービスと世代は同じ位だから知り合いかも知れないな。
ナギ、往診をお願いしたから、後の送りは頼めるか」
と、ミカエル様が聞くと、
「分かりました。責任を持って私が致します」
と、ナギが返事をする。
「ナギでなくても良いよ。手配だけしてくれれば、今日はずっと御者をさせている」
と、ミカエル様が答えた。
二人の医師が往診用の鞄を各々に持ち馬車に乗り込む。男性医師と女性医師が並ぶと鞄とで狭くなり、ミカエル様は女性医師を隣に招いた。
「やっぱり、アルバンは痩せなさい。その年で肥満は危ないわ」
「そうだね。娘にも言われたよ」
「私は貴方の命のかかった治療なんかしたくはないわよ」
と、女性医師が手厳しく男性医師に言っている。
「今さらですが、お二人の素性を教えて頂けませんか?」
と、ミカエル様が二人の医師に問う。
「私はアルバン·ガイトーバリ伯爵で、出身はユールチードゲ侯爵領になります」
「私はティベリ·ベルーナルト伯爵で、出身はボドール辺境伯領になりますね。ミカエル様はダーニーズウッド辺境伯子息でいらっしゃいますよね」
と、女性医師は遠慮なしに聞いてくる。
「そうですね。今のところ私が後を継ぐ予定です。王都別邸ではあまり医師会館にお世話になることが無かったもので何も存じません」
と、ミカエル様が答えた。
「医師会館に用事が無いことが良いのです」
と、アルバン医師は答えた。
「それに、ミカエル様の方が爵位は上です。丁寧は会話は有りがたいですが、診察には必要有りません。初見患者の事をお聞きしても」
と、ティベリ医師は言ってくる。
「グローとディービスの診察記録と違っても良いのですか?」
「医師の見解と側にいる人の見解が参考になるのです」
と、アルバン医師も言う。
「そうですか。私で分かることは聞いてください」
「では、基本から男性ですか? 女性ですか?」
「23歳の女性です」
「ご出身は?」
「ニホンと言う外国です」
「……ニホン? アルバンは知ってる? 私は聞いたことが無いけど」
「いや、僕も知らない。風土病の知識が無いところか……でもディービスは診ているんだろ」
と、アルバン医師が言うとミカエル様は頷いて返事にする。
「罹患歴は分かりますか?」
「いえ、診察記録に有るかも知れませんが、本人は伝えていたと思います」
「診察記録を見ないと分からないか。女性で23歳。妊娠は?」
「……していないと思います」
「まぁ、此は男性のミカエル様に聞いても分かりませんね。最終月経を聞かないことには」
と、ティベリ医師は言ってくる。
「障りの事ですか? それなら4の3月の終わり頃だと思います」
「はぁ? ミカエル様は知っているんですね」
「いや、あの、本人が障りが重くて寝込んでおりましたので、薬をグローに調合してもらって大変だなぁと思っただけです」
と、ミカエル様は顔を赤めて答えている。
「まぁ、4の3月の終わりですか、お相手が要るのなら分かりませんね。微妙過ぎてお薬が難しいな患者さんが、正直に答えてくれないことには」
と、ティベリ医師は言ってくる。
……微妙て? お相手? いやいや無いだろう……
何か、誤解されてる? まぁ、良いか……
「今回の症状は?」
「それに関しては私は分かりません。内の執事がその者が倒れたからと知らせてきて、医師会館にマギルバ医師を迎えに行ったので、今回の症状は見ていないのです」
と、ミカエル様は答えた。
「では、今までディービスを呼んで診察した内容は外野からいいので教えて下さい」
「えっとですね。虚弱故の身体的疲労と冷え、精神的な疲労、脱水で倒れた後高熱を出したのが始めでしたね。その後は同じ事が度々有り、流石にその頃には此方も無理をする前に止めれる様になったので寝込む事が減りました……」
と、ミカエル様が答えたが、
「ちょっと待って下さい。倒れることが度々?」




