寂寞 1
「なんで、兄上まで一緒に馬車に乗っているのですか?」
と、弟 ロビン様は自分の向かいに寛ぎ気味に座っている兄 ダートルを見て聞く。
王宮に向かう時に帰りをどうするかを聞けば、研究所に寄るから帰路は別行動だと本人は言っていた。
「研究所に行かないと、バーストに怒られるかも知れないな」
と、惚けた答えが帰ってくる。
「私は構いませんが、兄上とゆっくり話をする時間を取れないですよ」
と、ロビン様は別邸に着いてからの段取りで頭が一杯に成っている。
「いいよ。僕はアイに合って打ち合わせをするから」
「駄目です。こちらの話が終わらないことには、アイとの会合は有りません」
「えっ? どうしてだい?」
「私がアイと話が有ります。それが終わるまではお待ちになることですね」
と、ロビン様は兄 ダートルの思惑を切る。
「いやいや、シアン陛下からアイを預かる許可を頂いたんだよ」
「それは、兄上が文官職の慣らしをすると言うことであって、アイの庇護者はシアン陛下であり庇護地はダーニーズウッド辺境伯地であるなら、私が責任者です。
私との会合が先に合っての事なら構いませんよ」
と、ロビン様は仰った。
「それは、すぐに終わることなのかい?」
「分かりません。私の話にアイが納得してアイが質問や相談がなければ早く終えれるでしょうが、今まで思ったよりも時間は掛かったように思います」
「日を改めた方が良かったと?」
「段取りを狂わしたのは兄上ですよ。それからシアン陛下でも有りますがね。
私も帰領しなければ長期領土を父上にお任せしている状態で、王都と領土に気を分けるにはいきません」
と、領主らしく兄 ダートルに伝える。
「分かった。ロビン達の話が終わった後で良いよ。館の使用人達には悪いけど荷物をまた部屋に入れて貰うことになりそうだね。
バーストが怒っている顔がちらつくよ」
「義兄さんを悪く言わないで下さい。兄上が迷惑をかけているのでしょうから、義兄さんが怒る事をする兄上が悪いのでしょう」
と、ロビン様は答える。
「…………うん、確かに」
「ねぇ、アイ! あのお菓子はいつなら有るの?」
と、巫女衣装をチクチクと縫っている側で、カリーナ様が聞いてくる。
「昨日ロビン様にお渡ししましたよ、カリーナ様」
「もう無いわよ」
「当分は作る予定は有りません。私のエナジーチャージ(低血糖回避食)分は有りますから。
カリーナ様や他の方には分かりやすいようにお菓子だと説明しましたが、私の行動機能停止予防の為のものです。お茶請け用では無いのです」
と、藍はロビン様に預けたカリーナ様分のキャラメルが無事にお気に召したことは有り難いが、次いつ作るのかは決まっていない。
「そうだけど、私はロビン様と一緒に領土に帰るのよ。次にアイがキャラメルを作る時には居ないでしょ」
「そもそも、甘味は他にもございますよ。試作品が上手く作れたのでお裾分けしましたが、菓子職人や料理人が作った方が美味しく出来ますよ」
と、藍はカリーナ様がわたしのキャラメルに固執していることに不思議に思った。
……いくら私の記憶で美味しいお菓子に成ったとしても、こちらのお菓子も美味しいのに……
持ち歩くこと、いつ必要になるかわからないから日持ちすることを考えてキャラメルにした。こちらの飴でも問題は無いけれど……一粒が高い。
贅沢品になるのだろう、庶民的に有るのはドライフルーツになる。それもオレンジピールの様な砂糖がまぶしてあると庶民では手が届かない。
「そうかも知れないわね……」
と、カリーナ様は認めていらっしゃる様だ。
「多分ですが、ロビン様もダートル様も私が作ったキャラメルを御存知のようでしたよ」
と、昨日試作品をお持ちして試食の際に感じたことを難しい襟付けの手元から目を離さないで言ってみた。
しつけ糸を縫い込まないように針を落としていく。
「……あら、そうなの」
と、カリーナ様の声は普通だが、声調に違和感が有る。
「………………はぁーー、何か思う事が有るのですか? 気になって針を指に刺しそうです」
と、一旦糸から針を抜き取り針山にしまう。
「フッフッツ。アイは優しいのですね」
と、声だけ聞くとカリーナ様は笑っていらっしゃると思うが、表情は強張った笑顔になっている。
「今さらですが、ロビン様に何か不安が有るのですか? 他の者では分からなくても夫婦なら分かることもありますでしょうし」
と、藍は無理に聞き出すつもりはないが、わたしのキャラメルが原因で有るなら少しは責任を感じてしまう。
「アイ、此は秘密よ。誰にも言わないでね」
と、カリーナ様に念を押されて、仕方なく頷いて返事にした。
「ロビン様は、寝言がうるさいのよ」
「…………はぁい?」
「普段はあまり仰らないのだけど、心配事や怒りを我慢なさったり、寝る前に考え事をされたことや無意識に出るのだと思うの」
「…………そうなんですね」
……何? ロビン様は寝言で暴露しちゃうタイプ?
「ロビン様は気付いて無いと思うけど……全部が理解出来る言葉でないのだけど、繋ぎ合わせると私も理解できる事はたまに有るの」
と、困った感じにカリーナ様は仰った。
……聞いてはいけないことを聞いてしまった感じ?
「何か、カリーナ様が気に掛ける様な寝言が有ったのですか?」
と、藍は少し心配になって聞いてみる。
……ロビン様はストレスで睡眠障害になって無いと良いけど、わたしが原因で?
「何故か? 謝っておられるのよ」
「謝って?」
「アイのきゃらめるがどうとか、すまんとか……クリネ……とか、守るには……とか」
と、カリーナ様はどうやら全部は聞き取れなかったようだが、気になるところだけ言ってくる。
「私が関係有ると思うのですね、カリーナ様は。
ロビン様にお聞きになれば宜しいのに、寝言で言っていたけど心配事が有るのかと」
と、藍はロビン様は言えることなら言っているだろうし、聞かせたく無いなら聞かなかったことにしてくれと、仰るだろうと思う。
「寝言を盗み聞きしたようで……」
「何か昔を思い出す様な要因が有ったのでしょうか?」
と、藍は前妻の名前が出たことでカリーナ様が気にしていることは分かるが、今さらロビン様のお気持ちに疑い様はない筈。
「義兄さまと久しぶりにお会いした事も寝言の原因かも知れないわね」
と、カリーナ様は仰った。
「ミカエル様のお話では、ご兄弟仲が良いと伺っておりますよ」
「ええ、とっても仲は良いと思います。でもクリネ様をロビン様に紹介されたのは義兄様だとお聞きしたわ」
と、カリーナ様は答えた。
「…………一つお聞きしますね、カリーナ様。ダートル様の蜜飴を口にしたことは有りますか?」
「いいえ、私は無いわね。ミカエルや子供達は有るようだけど」
と、カリーナ様は思い出しながら答えてくれる。
「実は私はアカデミーで試験を受けさせて貰った日に、ダートル様に蜜飴を頂きました。体調を崩し掛けていたところでしたので、すごく助かりました。それが私のキャラメルを作るきっかけ成ったのです。
もしかすると、ダートル様は以前キャラメルに近い物を食されて模倣されたのではないでしょうか?」
「以前に? 義兄さまとロビン様もと言うこと?」
「ご本人にお聞きしないでは、見当違いかも知れませんが、昔クリネ様にダートル様とロビン様はキャラメルに近い物を貰い食されたのでは……それならば昔を思い出して夢に出てきても可笑しくないでしょう?
久しぶりに合う兄弟と昔に記憶に残っている味覚に近いキャラメルを食した事で、寝言に成ったのではカリーナ様は納得されませんか?」
と、藍は憶測提案をしてみた。
……どうしても気になるなら、ロビン様に聞くしかないけど、ダートル様の方が根が深いと思えたけどね。だってダートル様に頂いた蜜飴でキャラメルをわたしは思い出して作ったのだから。
「アイの推測は多分近い事柄なのでしょうね」
と、カリーナ様が仰った。
「ロビン様は、寝言でカリーナ様の事を仰った事は無いのですか? 今までに」
と、藍は不思議に思ったことをお聞きした。
カリーナ様が沸点に達したように急に顔を赤くされて黙された。
……なんだ、寝言で口説かれた事があるのですね。それに……近い事を……お聞きになったのだ。




