想起
「ダーニーズウッド辺境伯からでも、直には困ります」
と、侍従長 ガルソールに割って入られる。
「そうですよね。確かにそれは理解しているのですが……」
と、ロビン様はシアン国王陛下に視線を送る。
「なんだ?」
「いえ、無理にお渡しする物ではありません。出来れば直に渡して欲しいと頼まれただけです」
と、紺色の小さい巾着をロビン様は掌にのせた状態でシアン国王陛下に見せる。
「その巾着はアイからか?」
と、シアン国王陛下はそのままロビンの掌から受け取ってしまう。それに慌てたのが侍従長と控えている他の侍従達だ。
……私は無理にお渡しするつもりは無かったが……
「侍従長、シアン陛下に渡った物はお菓子です。毒味が必要なら私がしますよ」
と、兄 ダートルが買って出る。
「何を言っている!ダートル。そなたの仕事では無いだろう。毒味は必要無いが私の側近の任を奪うような事はするな」
と、紺色の巾着を侍従長に渡せば、
「ロビンは、あれに出来れば直に渡して欲しいと頼まれたのであろうが、確かに私は直に受け取った。だがそのまま私が中を改める訳にはいかぬから、後は此方で対応をする良いな」
と、ダーニーズウッド辺境伯兄弟に伝える。
「勿論でございます。シアン国王陛下に届くのであれば中身は問題ではないかと」
と、ロビン様は答えた。
侍従長が担当の者を呼べば、ルトーニが巾着の中を改めている。平盆に紺色の巾着と油紙にくるまったキャラメルが3個に紙切れが、開いた状態で置かれソファーのシアン陛下の前に置かれた。
「ロビン様がシアン国王陛下にお渡しになった物を改めました。中身はこのような物です。
先程 ダートル様がお菓子だと仰いましたが陛下がお口にされるのであれば、毒味致します」
と、侍従のルトーニがシアン陛下の側で報告している。宰相殿下はシアン陛下と並んで座っておられるから、ご一緒に覗き込まれているが表情は難渋顔をされる。
シアン国王陛下は、平盆に頼りなく揺れる2つ折りされて開いた紙を手に取ると、ダーニーズウッド辺境伯兄弟でもあまり見たことが無い、相好を崩されてまま目を通された。
「ルトーニ、一つ口にする毒味を頼めるか」
と、平盆のキャラメルを指差して仰る。
「シアン陛下は、此が何か御存知なのですか?」
と、宰相殿下はシアン陛下に問われる。
「ふむ、口にしておらぬから分からぬが、きゃらめるというお菓子らしいな」
と、紙切れを見ながらシアン陛下は答えられた。
「シアン陛下、飴に近い物でした」
と、侍従長がルトーニから報告があった内容を伝える。油紙を広げ少し欠けた薄い茶色の塊を、シアン国王陛下は口に入れる。
「ふむ、甘くて美味しいな。はて、昔何処かで食したことが合った気がするが……あれの手作りのようだが……」
と、シアン国王陛下は紙切れを見ながら、感想を述べられた。
「失礼ながら、シアン国王陛下は食されたことがあるのですか?」
と、兄 ダートルがシアン陛下に問う。
「ふむ、今まで気に止めなかったが、多分異母姉から頂いた隣国のお土産だったと思うぞ」
と、シアン国王陛下は答えた。
「シアン陛下の異母姉様というのは、リリー様の事でしょうか?」
と、宰相殿下も問う。
「私も好んで甘味を食しておらぬが、カーディナル王国の菓子であれば、このきゃらめるなら食したいと伝えたであろうが、それ以後口にしておらぬ。
昔に食したきりだとしたら、他国からの菓子で異母姉か異母兄の姪姫が嫁いだ国の菓子位しか心当たりはないな」
と、シアン国王陛下はお答えに成る。
「シアン陛下に食材やお菓子を御待たせをされたのは、異母姉上様のリリー様ですが遠方に嫁がれた前国王陛下の姪姫様お二人も、異母叔父でいらっしゃるシアン陛下に日持ちするお菓子を御持たせされておりました」
と、侍従長 ガルソールが答えた。
「ガルソールは私が外交に近隣諸国を廻っておる時に就いておったな。リックとガルソール各々1つ食してみるか? 私だけの記憶では定かでない」
と、平盆に乗っている残りのキャラメルを、側に立っている侍従長 ガルソールと隣の宰相リック殿下にシアン陛下は手渡す。
各々シアン陛下に直に渡された物を、お二人は口に運び味わいながら思案する時間を取られた。
「シアン陛下、大変美味ですね。好みの甘味ですので、食しておりましたら記憶に有ると思います。私は初めて口に致しました」
と、宰相殿下はお答えになった。残りる侍従長に視線が行けば、
「シアン陛下の仰る通り、私は口にしたことがございます。陛下の毒味役をしておりました頃なら、やはり陛下が外交に出ておられた頃でしょう。
しかし、異母姉上様のリリー様でしたら、ボドール辺境伯領地境で交易交流がございます隣国ピリジアーノ国に成ります。
今まで我が国に入って来ないとは考えられませんが」
と、侍従長 ガルソールは陸続きのピリジアーノ国とは物流も盛んで、食材の輸出入も頻繁であるから違うと述べた。
「ガルソールに記憶が合って、今まで我が国に入っておらぬのなら、姪姫のどちらかの御持たせだったのだろうな」
と、シアン陛下は結論付けた。
「シアン陛下への御持たせを、ロビン·ダーニーズウッド辺境伯に頼んだのは陛下の文官か?」
と、宰相殿下が聞いてきた。ロビン様は頷き返事にしたが、
「では、陛下の文官とやらは姪姫が嫁がれた遠方の者なのですか?」
と、侍従長も問う。ロビン様はその問いには反応をしなかった。
「いや、その二人の姪姫が嫁いだ国では無い。第一あちらの国は身分制の厳しい所であっただろう。私が第5王子であることを軽くあしらっていたしな。それこそ姪姫に御持たせを持ってくる者位にしか見ていなかったのではないか」
と、シアン国王陛下は懐かしく不快さを帯びて話された。
「シアン陛下のお言葉で、思い出したことがございます。姪姫のジャスティーヌ様が陛下に御持たせに変わった入れ物に入ったお菓子を、お渡しになった事がございました。覚えておられますか?」
と、侍従長 ガルソールが問うと、
「そんなことも合ったな。帰国してもその入れ物を開ける事が出来なくて難儀したな。
折角、異母兄上にもご自分の娘からのお土産を報告したかったが、開けれずにいたが誰が開けたのだ? 開けたから口にしたはずだが?」
と、シアン国王陛下も反対に侍従長に問う。
「思い出しました。前ボドール辺境伯が仕掛けに気が付いて開けて頂きました。
その時に入っていたお菓子に、きゃらめるは似ておりました」
と、当時の侍従だったガルソールは答えた。
「陶器の入れ物に仕掛けがしてあり、簡単には開けれない仕組みになっていた物か?
そう言えば、ジャスティーヌがお土産としてくれた物だが、私達だけでは開けられなかったからと、1つだけ食して前ボドール辺境伯に入れ物ごと下賜したような……気がする」
と、シアン国王陛下は、過去のやり取りを思い出しながら言葉にした。
「それは、白地に黄色と青色の花の絵が施された入れ物でしょうか?」
と、ロビン様は思わずシアン陛下に問い質した口調になった。
「確かそうだったな?」
と、シアン国王陛下はロビン様の問いに、侍従長にも確認する。
「花の種類まで分かりませんが、色は黄色と青色でございました」
と、侍従長も認めた。
「なんだ? ロビンが知っているわけがないと思うが、何処かで同じものを見たと言うことか?」
と、シアン国王陛下は他意もなく聞くと、
「昔、兄 ダートルの代わりにアカデミーの淑女科のお茶会に呼ばれたことが有りました。
そのお相手の方に、会話中に白磁の入れ物で花の絵が書かれた物を差し出され、開けて欲しいと頼まれましたので、力任せに無理矢理開けてしまってから、その入れ物が仕掛けて開ける物だと気が付いたのです。
中身は飴のような形状で、1つだけございました。蓋を開けたお礼にと頂いた物が……キャラメルに近い物でした」
と、ロビン様は表情に変化すること無く、答えられた。
「そうか、確かロビンの奥方だったのは、ボドール辺境伯縁者であったな」
と、シアン国王陛下はロビン様の心情に添うように静かに仰い、兄 ダートル様に視線を移した。
「ロビン、アイを少しの間ダートルに預ける。しかし、それはあくまでも私が呼ぶまでの期間でのことだ」




