相談 2
美しい、ペンダント。
シアン国王陛下は、木箱のまま向きを変えてロビン様に渡す。
「これを身に付ける様に言ってくれ。ダーニーズウッド辺境伯領地でしか採掘されない青い石は、ダーニーズウッド辺境伯領地が庇護地であることの証明に成る。王宮細工師の長が作ったペンダントは、私が庇護者である証明だ。細工師の長は青い石を加工出来るなら工賃は要らぬと言っておったが、素晴らしい出来にそうはいっておれまいて」
と、シアン国王陛下は仰った。
……本当に素晴らしい出来だ。指輪に加工するのも大変だが、指輪は台座で石を噛む。石留が有るからだが、このペンダントは台座が無い。
「…………………………」
「何故? 黙っておる? 流石に指輪にはしておらぬぞ」
と、シアン国王陛下は仰るが、
「陛下……まさかとは思いますが、父上から原石の価値をお聞きではないのですか?」
「いや、知っておるぞ?」
「御存知ですのに、加工を依頼されたのですか?」
「勿論だ」
「…………分かりました。身に付けるように言っておきます」
と、ロビン様が、手を伸ばしペンダントを受け取ろうとしたら、
「お待ちください。陛下!」
と、宰相殿下が慌てて声を掛ける。
手を出したままのロビン様と、開けたままの木箱の蓋を持ったシアン陛下は、慌てる宰相殿下の方に視線を向ける。
「何だ? リック? 珍しいものだから見せて欲しいのか? なら、ロビンに見せて貰え今ならゆっくり見られるぞ」
と、シアン国王陛下は仰った。
「それは見とうはございますが、そうではありません! ダーニーズウッド辺境伯!待ってくれ」
と、宰相殿下がソファーから腰を浮かせて言ってくる。
「陛下は、その品を私財で賄われた訳は、陛下の文官に身に付けさせる為に細工師の長に依頼されたのですか?」
「そうだが? 長は加工代は要らぬと言っておったが、ちゃんと対価は支払うぞ」
と、シアン国王陛下は答える。
「陛下、お待ちください。お考えを改めて頂けませんか?」
「何を改めるのだ?」
「その文官を陛下の側に置く事です」
「リックよ。私の個人雇用だと言った筈だが」
「勿論、陛下の私財でされる事です。ですからお願いでございます。お考えを改めて頂きたく思います」
と、宰相殿下が身体の向きを変えてシアン陛下に訴える。
「リックは、私の私財を閲覧できる1人だな」
と、シアン国王陛下は聞いてくる。
「はい、陛下の異母兄姉の関係末席に入れて頂いております」
「私の叔母の嫁ぎ先である、スマールート大公爵、ダーニーズウッド辺境伯に異母姉の嫁ぎ先である、セルリアート公爵、ジェイクリート侯爵と、リックの生家異母兄が降家されたオリゾーラル公爵が私の私財を閲覧できる様にしている訳も知っておるな」
「はい。陛下には私財を残す者がおりませんから、陛下の亡き後は国財に戻す決まりにされたと聞いております」
「そうだ、そして私の私財を有る基準より越える金額が動く場合は許可を必要としたのだ。だが、その許可を出来るものは私の身内と任命制にしたことも、存じておろう?」
「はい。存じ上げております。陛下の叔母様は陛下の従兄弟に成る方を任命されました。シモーヌ様はカール殿をセシール様はお子様がいらっしゃらなかったので、義子息のカムデン殿をそして異母姉のローズ様とサリー様はご自分のお子様ではなくカール殿を任命されました。私の祖父陛下の異母兄ブルーク様は、私の父を任命しましたが父は陛下の私財を閲覧のみにと留めて、私と現オリゾーラル公爵にその許可の任は任命致しませんでした」
と、宰相リック殿下はお答えに成る。
「その通りだ。異母兄ブルークは孫まで私の管理を必要無いと判断されたとそなたの父から聞いていた。今は私が許可を取るとしたら、カムデンとカールだけだ。だが、カムデンは私との血の繋がりが無いことで閲覧のみで許可の任命は放棄した。実質許可がいるのは、従兄弟のカール·ダーニーズウッド辺境伯前領主だけに成る」
と、シアン国王陛下は説明された。
「「えっーーーー!」」
「そのカールもロビンに対しては閲覧のみ任命とすると、言っておった。それもそうだろうて許可はカールのみに成っておるから、私財を残して私が儚くなれば国財に勝手に戻る仕組みだからな。そのカールを説き伏せなければ、今回は出来ぬことなんだぞ」
と、シアン国王陛下は説明された。
「甥のミカエルの話では、父 カールは陛下に何度も説得を試みたと言っていましたよ」
と、兄 ダートルがシアン陛下に問う。
「そうだな、カールは事あるごとに自分がダーニーズウッドで預かると言っておったが……だからメリアーナが自分の指輪を出してきたんだ」
「「母上が!」」
「メリアーナが指輪のままでは要らぬ誤解や憶測を持たれるだろうから石を使って庇護対象者である証を身に付ければ良いのだと助言してくれたんだ。カールを黙らす方法とな」
「は、は、うえ……」
と、ロビン様は思わず頭を抱えたく成ったが、息子のミカエルが言っていたことを思い出す。
……父上が散々、熟考熟慮苦慮されて最後はシアン陛下の思いに添うことにしたと……だとしたら、
「宰相殿下、残念ながら私ではシアン国王陛下をお止めする術がございません。前領主の父カールの精神的な要が前領主婦人の母メリアーナです。その母がシアン国王陛下に付けば父が正当な理由で抗っても勝ち目が無いのがお恥ずかしい話です」
と、ロビン様は御家事情を暴露して父 カールの事情を説明する。
宰相殿下は顔の表情を崩して、
「ロビン殿、それは……その……そうであろう……な」
と、宰相殿下は慰めに近い言葉に留められた。
「しかし、シアン陛下はあの者が、その証を身に付ければ大丈夫だと、安全だとお考えですか? 私には反対に目立つだけだと思うのですが」
と、兄 ダートルが言ってくる。
「一見目立つだけ目立てて、周りが認識すれば落ち着くと判断をしたんだが、私はその者が要らぬ憶測や誤解をされることの方が、心身穏やかに過ごせぬ。
ならば、始めから私が庇護者で有ることを見せ付けるのも手だと思ったがな。
どの様にしても、ここにおるリックやガルソールと側近達に探りが入るだろう。
そなたらもその者を心配して、私との確認に来たのであろう」
と、シアン国王陛下が考えを仰る。
「そうなのか?」
と、宰相殿下が、ダーニーズウッド辺境伯兄弟に問う。
「はい。その通りでは有りますが、宰相殿下が今シアン陛下にお尋ねに成ったこと等は、私共でも一通り議論や対策を思案してきたことなのです。宰相殿下や侍従長の反応や戸惑いは、少し前に私も体験致しました。息子のミカエルや領地で過ごした子供達に何度、問いかけて何度、何故そうなったと確認したことか」
と、ロビン様はため息混じりに答えた。
「ロビン、この前の接見の場で言ったであろう。そなたらダーニーズウッド家を騒がしく捲き込むぞ! っとな」
と、シアン国王陛下が仰れば、侍従長 ガルソールが思い出したのか、あっ! っとした顔をする。
「はい。捲き込まれた後ではございますが」
と、ロビン様は兄 ダートルを見て答えた。
「何だ? ロビンはダートルを捲き込むつもりでは無かったという顔だな」
と、シアン国王陛下は問うて来た。
「はい。私が王都に住み、領主を継いでからも兄はたまの手紙しか寄越さないのに、昨日10年ぶりに顔を見ました。
ですから今回の事も知らせるつもりもなかったのですが……何故か? しっかり関わっております」
と、ロビン様は兄とすれ違っていた事実を言ってくる。
「悪いなダートル。この場におるなら完全に捲き込んでやるでな」
と、シアン国王陛下が笑顔で言ってくると。
「では、シアン陛下。その大層な証を身に付けて王宮内で文官職を勤めれば、危険な事に成るとはお考えに成らないのですか?」
と、兄 ダートルが真剣に問うと、その危険性も有ることに宰相殿下も侍従長もシアン国王陛下に視線をを向ける。
「いや、ダーニーズウッド家から1人侍従兼護衛を付ける予定だ。ロビン、その話は聞いておるな?」
と、シアン国王陛下の問いにロビン様は頷いて返事にすれば、
「陛下の文官に侍従兼護衛ですか? 確かに青い石を付けたまま職に準じられても、例えどの様な若者でも襲われる可能性は有りますね」
と、宰相殿下が仰れば、
「いや」
と、シアン国王陛下は、否定の言葉を出した。




