説明 2
「私ダートル·ダーニーズウッド辺境伯は研究所の室長をしておりましたが、前任者の退職退所に伴い、研究所の所長に任じられました。
それは、宰相殿下が委任書を私に下さいましたので、御存知だと思われます」
と、兄 ダートルは一旦確認を宰相殿下に問う。
宰相殿下も新年度の人事任命に関わっておられるし、委任書を作成責任者でおられるので頷き認められた。
「その頃、王立アカデミー学院の教育科の教師が事情が有ったのか移動となったそうです。
この辺りは私はアカデミーの職員ではありませんから、ご確認は個人でなさってください。
研究所室長宛にアカデミーから依頼書が届きましたが、私は所長職に付いておりましたから、届いたのは新しく室長になったバースト·ボドール辺境伯に届きました。
アカデミー教育科の依頼は教師免許を持つ私に教師としてアカデミーに来て欲しいとの依頼でしたが、何分教鞭を取るつもりで教師免許を取得したわけではないので、お断り致しました」
と、兄 ダートルが説明していく。何やら宰相殿下に思い当たりが有るのか、表情を崩された。
「お断りしてからも、依頼書が届く事にバーストが私が所長職に付いている事を知らせて、他を当たる様に返事をしたところ、王宮の文官職を管理されておられる宰相殿下に依頼願書を出したが、新年度に付き配置は終えているので、次年度に依頼願書を出すように返事が来たそうです」
と、兄 ダートルが確認を宰相殿下に取るように、話を止めて視線を送る。
「認めます。確かにアカデミーから教師職を出来る者を斡旋して欲しいと依頼書は届いておりました。配置済みでは有りましたが王立アカデミーの事ですので、希望者がいないかと告示はしましたが、希望者はおりませんでした」
と、宰相殿下は答える。
「私の所には、それまでは教育科として依頼書が届いておりましたのに、個人名で教育科責任者ゾーイ·バルコーナギ侯爵と記名で届いたのです。ゾーイ先生は私が学徒の時にお世話になった先生でしたので、臨時での教師を引き受けた経緯です。契約書にも臨時であること長くて二月で研究所に戻る旨を明記しております」
と、兄 ダートルが説明した。
「成る程な、ダートルが臨時で教師をすることに成ったのは分かったが、ダーニーズウッド家の依頼である資格試験に立会わなくても良かったで有ろう」
と、シアン国王陛下は仰る。
「その点も私は断りましたし、甥のミカエルからも試験前に伯父の私が立会人では忖度だと疑われないかと指摘を受けました。
ですが、ゾーイ先生ともう1人の立会人で有るビバル先生が私は頼まれても忖度をしないから立会人で良いと試験は執り行いました」
と、兄 ダートルは自分が進んで立会人に成った訳ではないと訴えた。
「どうだ? リック。納得は出来たか?」
と、シアン国王陛下は隣で資格証明書を睨んだままの宰相殿下に問う。
「王宮から教師が出来る者を斡旋出来ていれば、疑われずに済んだと言っているのですね」
と、宰相殿下の答えにダーニーズウッド辺境伯兄弟は揃って頷いて返事にした。
「私共は正規の手続きをして、正当な試験を受け文官資格証明書を持参致しました。
シアン国王陛下からの預かり者はカーディナル王国での文官資格保持者で間違いございません」
と、ロビン·ダーニーズウッド辺境伯は伝える。
「教師免許を持っているダートルに聞く。この者は私の文官職を勤まると思うか?
忖度をしないそなたなら、正直に評価致であろう?」
と、シアン国王陛下は兄 ダートルに問うて来た。
「正直に申し上げて、分かりません」
と、簡単に答えた。
「えっ?」
と、ロビン様だけでなくその場に居たものは全員そう思った筈だ。
「私は、その者と試験の立会人として初めて会いました。付き添いに甥のミカエルと使用人のルカがおりましたが、いくらダーニーズウッド家の推薦枠だとしても次期領主予定の付き添いとは大袈裟だと正直な感想でした。
資格取得試験で手心を加える気は更々なく、反対に手厳しく曖昧な解答には不正解を付けました。
その結果がシアン陛下がお持ちの証明書です。ゾーイ先生の嫌がらせで一般試験から始めて全問正解でしたので、文官資格試験を受ける段階で試験問題が用意されていませんでした」
と、兄 ダートルが説明したところで、
「どういう事だ?」
と、宰相殿下から質問が入った。
「私は臨時ですので、試験内容も問題内容も存じません。ですがダーニーズウッド家の依頼で試験を受けさせたという過程が必要だったのでしょう。端から試験を合格するとは先生方は思っていなかったようでした。
勿論私も簡単に合格するとは思いませんでしたよ。
ですが、一般問題を全問完璧に解答すれば、話は別です。優秀で有るから推薦したのであれば最後まで見届けたいと思いました。
文官試験もゾーイ先生は嫌がらせをしましたね」
と、兄 ダートルが言えば、
「どんな嫌がらせをしたんだ?」
と、今度はシアン陛下が聞いてくる。
「解答の正解率で合否は決まります。今年度は6割で合格していたようですが、ゾーイ先生が8割でなくては合格としないと言ってきたのです」
と、兄 ダートルが答えると、シアン陛下だけでなく宰相殿下と侍従長も証明書を覗き見る。
「45問正解で9割です。何の問題も有りません。反対に曖昧な答に私は不正解としましたので、後2問は惜しい解答でした。
この試験の結果だけを見れば、文官として問題は無いでしょう」
と、兄 ダートルが答えると、
「試験では問題なくとも、人間性に問題が有るというのか?」
と、宰相殿下は直ぐに聞いてくる。
「始めにお話をしたように、私は試験場でこの者と初めて会いました。例年一般編入試験場らしいのですが、1人の受験者に対して大勢の受験者を入れる教場です。甥のミカエルはその場を見て不愉快さを出しておりました。ダーニーズウッド家の推薦枠の試験で文官試験依頼の筈だと思ったのでしょう。私は事情を知りませんでしたから甥の不服が理解出来ませんでした。後から分かった事ですが、その者は体調を崩す直前まで我慢していたようです」
「何を我慢しておったのだ?」
と、宰相殿下が聞いてくる。
「その者は甥の指示でフードを目深に被ってアカデミーに来ました。私との挨拶もそのままでしたので、訳が有るのかと気にしておりませんでしたが、ゾーイ先生とビバル先生が揃ったところで被っていたフードを脱ぎ、礼儀正しくお挨拶をされました。凄く丁寧な形で。
ですが、その者は脱いだフードを着ることなく試験が始まりました。一般試験に用意されてなかった文官試験。終わる頃には身体が冷えて集中し過ぎたのか、使用人のルカが休憩を訴えて来たのです」
と、兄 ダートルが説明すれば、
「だから、どうなんだ?」
と、宰相殿下が急かす。
「お分かりに成りませんか? 次期領主予定の指示に従い、挨拶は礼儀正しく用意された場に不服を示さず。体調が崩れても我慢をする者。
人間性も優れていて、学力も文句無しの優秀さです…………………………が、どうやら身体が弱いみたいですね」
と、兄 ダートルが言い終えると、シアン国王陛下とロビン様は大きくため息を付かれた。
「「はぁっ?!」」
と、宰相殿下と侍従長が声を上げて、シアン国王陛下に視線を向ける。
「ダートルは人間性も学習能力も優れているのに、その者は身体が弱いから私の文官に相応しく無いと?」
と、シアン国王陛下が問う。
「いいえ、分からないとお答え致しました」
と、兄 ダートルは始めの答を繰り返す。
「ダートル、そなた本当に忖度をせぬな。そこまで説明しておいて最後は分からぬと答えるし」
と、シアン国王陛下が仰れば、宰相殿下も苦笑いされる。
「陛下は、ダートル·ダーニーズウッド辺境伯の話が本当ならば、人間性も文官能力も優れている身体の弱い者を側に置くと、それも個人雇用されるとなれば、我々側近はその者をどう扱っていいのか、軋轢が生じるかと杞憂致しますがお考えはございますか?」
と、侍従長 ガルソールが心配顔をして聞いてくる。
「軋轢か? ガルソール。私は異母兄上に譲位されこの国を護ってきた。異母兄上の血を引き継ぐ者を後取りとして慈しんで育てたつもりだ。本当の祖父を側に付けて」
と、隣の宰相殿下に視線を向ける。
「ダニエルには優秀な側近が付いて導いて行かねばなるまい。だが、まだまだ経験も考えも浅い者達ばかりだと私は判断する。経験豊かな私の側近はダニエルに移行させたいと思っておるが、リックはどう考える」
と、宰相殿下に振る。




