過保護
「セイ様、私は記憶より体力が付いたように思います」
と、藍は夜にベットに入ると携帯に日本語で話しかける。
『アイのまわりは、チのつながりがあるものがおるでな、しかしまなびやではワレのバリもこころもとなかったの』
と、セイ様は表情は変わらないのに、胴体部のうねりが少ない。
「そうでした。アカデミーという学び場は、私でも圧と根拠は無いのですが、波を感じてました。何なのでしょう? 私が足を踏み入れた場所は限られていますのに」
と、藍はミカエル様とルかに付き添われて行った王立アカデミー学院の事を思い出す。
『アイはなにかおもいだしながら、そのばにおったか? それともアイのキオクにかなしむイワレでも、あるのか?』
と、セイ様が珍しく藍の感情を読んで来る。
「私の記憶に学校というのは、我慢の場だったのであまり良い記憶ではないかも知れません。
お友達が出来ても一緒に遊べず、遊べても友達は楽しく無かったと思います。
いつ倒れるか分からない子に、寄り添ってくれた友達もいましたが、私から遠慮がちになってしまって、父も母も無理して学校に行く必要は無いと言ってくれましたが、一人だけ無理しても学校に行くべきたと周りを説得してくれた人がいましたね」
と、藍はセイ様に誘導されるように古い記憶を探り寄せる。
『アイは、ムリにまなびばにいっておったのか?』
「無理は身体の事ですよ。身体の無理は仕方有りません。私の気持ちは学校も先生も友達も好きでしたから、説得してくれた加奈おばさんには感謝してます」
と、藍は古い記憶から綺麗な女性を思い出す。
……加奈おばさんが、ウチの過保護軍団を説得してくれたんだった。両親からすれば今なら分かるが雑菌だらけの力加減も知らない、元気な子供達の中に、挨拶しただけで引きかけの風邪を貰って来るわたしを、学力なら家でも出来ると判断しても可笑しくない。
わたしの身体の事は加奈おばさんだって知っている。香山医院に入院してる時には、ずっと側にいてくれた。三兄弟にわたしの扱いを仕込んだのも加奈おばさんだったしね。
『藍ちゃん、藍ちゃんの周りには藍ちゃんをよく知っていて可愛くて愛してくれる人しか今は周りにいないのよ。でもね少し場所が変われば藍ちゃんを知らない人の方が、大勢いるの。
藍ちゃんの身体がどれ程弱くても知らないで接して来るわ。大変だろうけど藍ちゃんは体験して学ばなければ、誰かにずっと囲われて生きていくことになる。
悲しいこと、悔しいこと、嬉しいこと、楽しいこと、人の優しさや人の妬みや理不尽さを見て、体験してほしい。
それがいつか藍ちゃんの強味になって欲しい』…………
小学校に上がる前に、加奈おばさんに言われたことだ。これは幼いわたしに対して言ってくれたことだが、両親や周りを説得してくれた内容は知らされていないが、出来るだけ学校に通うことになった経緯だ。
確かに我慢の場になったが、加奈おばさんは極虚弱体質のわたしに試練と経験とわたしにしかない感性を身に付ける機会をくれた人だった。
『アイは、ワレがそばについておるがゆえ、きづかぬうちにカンをきょうつうしておるのかもしれぬ』
と、セイ様は、可能性を言ってくる。
それもそうかと思う、今まで霊感と言ったものに感じたことはなかった。
だけど、思い返して見ると人の敵意や憎悪や妬みに近い感情は身体に影響が合ったように思う。
反対に愛情も好意も触れた手からわたしに伝わって癒して貰っていた。
気って実在に有るんだとわたしは、実体験を元に感じている。
「セイ様はいつもの私の周りに気を張られているのでしょう?」
と、藍はセイ様に聞くと、
『はってはおるが、つよいものではない。つよくはれば、カゴもアイにとどかなくなるでな』
と、セイ様は教えてくれた。
……なんだか、バリアみたいな物で護られているんだ。良くない物も欲しい物も程々にされているんだね。
『ワレはアイをミチビクものではない。アイにセキをもってマモルものだ』
と、セイ様に言われ必要以上は何も教えて貰っていないことに気が付く。
……尋ねた事は教えてくれるけど、道先案内ではないと……とてもそうには思えない。セイ様も過保護ですよ、わたしの周りはいつも優しい小さい渦が付き添っている。
「アイ、何で折角作ったキャラメルを配ってしまうんだ」
と、ルカに朝から注意された。
「何でって、お礼のつもりだけど?」
と、朝の庭園の散歩と筋力低下防止のゆっくり型の運動(見た目は太極拳)を終えた時点でルかに問われたことの返事をする。
「アイは体温が下がった時の為に、キャラメルを作ったんだろう。アイが指示して用意した物は支払いはダーニーズウッド家でされるが、シアン陛下が補填される。それはアイの返済になるんだろう」
と、ルカはシアン陛下とわたしとの約定の事を言ってくる。
……ルカは低血糖をわたしが、体温が低くなって動けなくなると認識しているんだ。間違いじゃないけど、正解でもないのをどう説明すれば良いのか
藍は作ったキャラメルを端切れで作った小さい巾着に入れた。3個入りが二つ2個入りが四つと、試食用として6個、机には残り1個と油紙に纏めて入っている形の悪いキャラメルが数個と、ターチちゃんにあげた3個で作った全部になる。
昨日の段階で、ダートル様に試験の時に頂いた蜜飴の代わりに3個入りの巾着をお渡しした。試食にダートル様とロビン様にミカエル様用として6個を平皿に置いて食べて貰った。
試験に協力してくれた、メアリー様とケビン様に教科書や勉強に付き合ったくれたダニー様に2個入りの巾着をミカエル様に託した。カリーナ様を仲間外れにするわけにはいかないので、同じ物をロビン様に託した。
後は紺色の3個入りの巾着は、ロビン様にお願いをしてシアン陛下に直に届けて欲しいと託した。
国王様が勝手に食べ物を気軽に食べたり出来ないだろうが、無理の無いようにお願いをした。
ロビン様に迷惑を掛けない程度でお願いしたが、大丈夫だろうか。
「それがお礼なのは分かったけど、ターチまであげたら、肝心なアイの分が無くなってしまったじゃないか」
と、ルカは言ってくる。
「ターチちゃんは、鈴の事を教えてくれたり、ルカと買いに行ってくれたでしょう。
今回だって作業場で手伝ってくれたし、お礼に渡しただけよ」
と、藍は説明する。
「作業場でなくて、厨房で作った方が良かった筈だ。アイは始めからターチにあげる口実で手間の掛かる作業場でキャラメルを作ったと俺は思っているけど、違うのか?」
と、ルカにしたら珍しくきつめな言い方をしてくる。
……その通りなんだけど、何がいけないの? ルカの気に障ること?
「私が、ターチちゃんにあげたことが駄目だったと言いたいの?」
と、藍が聞けば、ルカは頷いた。
「その場で、ターチがお礼のキャラメルを食べたら良かったが、ターチはアイがくれたキャラメルを大事に取っておくだろう。それでなくてもアイはターチにわざわざエプロンを作ってあげていただろう。それは使用人であるターチに過ぎる事だと思う」
と、ルカは言ってくる。
「ターチちゃんは私の使用人ではないわ! ダーニーズウッド家のでしょう。仕事以外の事をさせているのにお礼をしてはいけないの」
と、藍が冷静に質問しているつもりだが、悲しくて悔しくて感情が揺れる。
「アイ、何を怒っているか分からないが、過ぎると言っているだけだ。
ターチの為のエプロンを縫って、キャラメルをあげるために作業場を使って、手伝ったからとキャラメルをあげる。それは使用人としてターチに良いことではないと思う」
と、ルカに言われた。
……過ぎるって何? 常識の違い? わたしは人にして貰う事ばかりで、何も返せない。
ましてや、この世界にはわたしが対価になるものを提供出来ないから考えた事なのに。
『藍ちゃんは、人をよく見ているのね。お礼を沢山言えて凄いね。
でもね、過ぎる事は良いことも悪いことも有るんだよ。
藍ちゃんより相手が……小さい藍ちゃんには難しいね……』
何? 小さくないわたしでも難しいの?
加奈おばさん!…………………… 冷静になろう。
ルカは意味の無いことで、わたしを諌めたりしない。いつも側にいて助けてくれる。
そんなルカが、言葉にしてわたしの真意を聞いて、それでも注意してきた。
わたしが、手を出しすぎた? まるでわたしの過保護軍団と、同じ事をしてる? ……出し過ぎたんだ。




