適性
「アイの個人雇い主は、シアン国王陛下か?」
と、ダートル様が聞いてきた。
「そうですけど?」
と、すんなり藍が答える。ロビン様とミカエル様は顔を見合わせてため息混じりに言っていた。
「アイ、ダートル兄はシアン陛下と交渉するらしいぞ」
と、ロビン様は教えてくれる。
「何を交渉するのですか?」
「いやいや、シアン陛下とは交渉で出来ないけど、提案は出来るかなぁ」
と、ダートル様は言ってくる。
「提案?」
と、ミカエル様が聞き返すが、
「領土でシアン陛下がアイを気に入ったと、言う事は分かった。能力はあるが文官資格が無いのをダーニーズウッド家の庇護の元試験を受けされたのも理解できる。だが書類の中に記載されたことが本当であれば、アイは私の知らない国の外国人で平民だと言うことだな。これではシアン陛下が側におられても要らぬ憶測を呼ぶだけだと思うが……父上が忠告しないわけは無いよな……内の者が浅はかである筈も無い。
だから、私も協力するとシアン陛下に提案する」
と、ダートル様が言い出した。
「協力して頂けるのですか?」
と、藍が聞けば、
「だから、私の文官になればいいだろう?」
と、ダートル様が答える。
「伯父上、お祖父様がどれだけ説得したが御存知無いから簡単には仰いますが、シアン陛下はアイを護る為に王宮に戻られたのですよ」
と、ミカエル様が言ってきた。
「どう言う意味だ?」
と、ロビン様も聞いてくる。
「今年度の定例会議で、ダニエル王太子殿下は無事に四大側近閣下と四方辺境伯との会合を終えられました。シアン陛下はダニエル王太子殿下の譲位を表明されております。上位側近も代替りを促して今回は宰相殿下に一任されていたと、帰都の途中で伺いました。次の世代に急な変化は内政が疎かになると。徐々にダニエル王太子殿下にお任せの予定だったのを、お任せになるそうです」
と、ミカエル様が馬車内で聞いた話をする。
「待て、そんな話しは私は知らないぞ? 確かにリック殿下はと言うより四大側近閣下達が代替りの旨を理解されていたようだが」
と、ロビン様は言ってくる。
「それは、ダーニーズウッド家はロビンに変わっているし次期領主予定のミカエルがおるからで、四大側近閣下様達はシアン陛下と年廻りが前後だったりで、代替りはオリゾーラル公爵家位だろう」
と、ダートル様が指摘する。
「それとシアン陛下がアイを護る事とどう関係があるのだ?」
と、ロビン様はミカエル様に問う。
「表向きはシアン国王陛下ですが、国政をダニエル王太子殿下と宰相殿下にお任せになり、内政をシアン陛下が抑えになると伺いました」
と、ミカエル様は答える。
「成る程な、アイの事を何かと言ってきそうなのはシアン陛下の周りだからか」
と、ダートル様も納得される。
「外交や国政に目を向けると、外国人であるアイを側には置けないでしょう。どんなに優秀だと言っても実績も信頼もまだアイには有りませんし、でも内政でシアン陛下より上はおられません。国内の事ならシアン陛下は文句を言わせないと仰いました」
と、ミカエル様が説明される。
「だから、アイを文官として側に置かれて護ると言われるのだな」
と、ロビン様も納得された。
「シアン国王陛下も色々考えて下さっているのですね。いつまで側におれるか分かりませんのに」
と、藍が呟いたらロビン様とミカエル様は苦笑された。
「しかし、味方は一人でも多いに越したことはないだろう。私も協力すると言っているじゃないか。明日は一緒に王宮に出向くよ、ロビン」
と、ダートル様が仰る。
「それは、兄上が協力してくれるのは有り難いですが、試験場にいただけの兄上が何故そこまでしてくれるのか、真意が読めません」
と、ロビン様が警戒される。
「何故? 何故かな? シアン陛下には幼い頃からロビンと遊んで頂いた。父上を筆頭にダーニーズウッド家を親愛信用している。
それに私はロビンには負い目を感じているんだ。私は領地経営を端から疎かにして、ロビンに負わせてきた。気儘に勉学や研究に取り組めたのも弟が、優秀で兄想いでいてくれたからだ」
と、ダートル様が言葉にされた。
ミカエル様と名指しされたロビン様は黙って聞いておられたが、
「ダートル様は、弟のロビン様に家督を押し付けた自覚がございますのね。無自覚なら仕方ないことですが、ご自覚が有るのなら返せるうちにお気持ちは返した方が良いですね」
と、藍は容赦無い。
「えっ!」
と、ダートル様だけでなく、ロビン様とミカエル様も驚いている。
「私は、此方の方の事情は分かりませんが、カール様が長子が領地経営や統治に興味が無くてもロビン様に適性がなければダートル様が家督を継がなければいけないと判断されたでしょう。上位地位の貴族の生まれで、責任を放棄なさりはしないでしょうし、多くの領民に心を砕いて置いての方です。
ロビン様に適性や指導に重きを置かれたから、今領主としてロビン様がいらっしゃるのです。親を想い兄を想い領民や責任を感じても領主を担っておられるロビン様に失礼です。ダートル様」
と、藍は言葉にした。
「そうか、そうだな。私よりロビンが領主として適しているから父上はロビンを選んだ。私の我が儘に駆使てくれたわけではないか」
と、ダートル様が言って来る。
「待ってください。私がカール様から聞いたことでは無いですよ。御自分でお聞きになれば良いことです。私はダートル様が勝手にロビン様に引け目を感じておられることに、違和感と怒りが混み上がっただけです。
よく知らない私に云いように言われたのです、お叱りになっても宜しいですよ。言い過ぎた自覚が私に有りますので、その責は受けるつもりです」
と、藍が言って来る。
「アイ、それくらいにしてくれないか。私がアイに庇われている事に、居たたまれないのだが」
と、ロビン様が仰る。横でミカエル様が俯いた姿勢のまま、肩が震えている。
どうやら、笑いを堪えているつもりのようだが、隠れしきれてない。
「何を笑っている? ミカエル」
と、ダートル様が憮然とした顔で甥を見れば、
「ぷっぷっつ〰️あはっはっはっーうっ、うっ……いや、うっ…………ふぅ~~。すみ、ません」
と、必死に笑いを止めようとミカエル様が顔を赤くして耐えている。
……息を止めると、笑いのツボが抑えられるの?
と、思っていたらわたしとミカエル様の目が合った。
「ぶっはっはっあっはっあっはっはっひぃーあはっあはっあはっはっはっ……くるしい……う」
と、ミカエル様が声を出して笑いだした。
ロビン様とダートル様が唖然とミカエル様を見ているが、藍は以前にミカエル様のツボに嵌まった笑いを見ているし、筋肉痛で苦しんでいるのを知っている。
「だ、だ大丈夫か? ミカエルどうした!」
と、ロビン様が心配されたので、
「ミカエル様、これ以上になりますと、またお辛いですよ」
と、藍は静かに伝えた。
それを聞いたミカエル様が吐く息を整える様に、深く息をしてまだ肩は揺れているが止まりそうだ。
俯いた顔は汗ばみ、両膝に手を置いて息を整えている。
……良かったですね。笑うと体力を使うから気の毒で。
「はぁー。アイ、酷いじゃないか! 僕が笑い出すとどうなるか知っているのに」
と、ミカエル様からのダメ出しが来た。
「えっ? 私のせいですか? ミカエル様がお一人で笑っていただけですよ」
と、藍も言い返す。
「そうだぞ。ミカエルが勝手に笑い出した筈だぞ。アイは何もしてはおらぬし」
と、ロビン様も言ってくれる。
「はぁー、疲れました。伯父さんと父上がアイに説教されて、諭されて、何が合ったか知りませんが無遠慮なアイに戸惑いながら本心を晒して可笑しくて我慢出来ずに笑ってしまいました」
と、ミカエル様が落ち着いて言ってくる。
「ミカエルは、笑い上戸だったのか?」
と、驚いた風にダートル様が聞いてくる。
「そうですよ。一端笑い出すと止まらなくて、涙を流しながら笑っておられますよ」
と、藍が説明する。
「本当に?」
と、ロビン様も聞いてくる。
「僕の事はいいです。伯父さんが父上に負い目を感じる必要が無いのが分かったのなら、アイに協力はなさらないのですか?」
と、ミカエル様が聞いて来た。
「いや、協力はするよ。私もダーニーズウッド家の人間だし、そもそも個人でアイを気に入っているのだから」
と、ダートル様は言ってくれた。




