試作品
「セイ様、私はセイ様にご挨拶も御供えの御神酒や生花を、何もしてきていないと思うのですが……気に障りましたか?」
と、藍はベットの中で携帯を手に問う。
『アイは、ワレがのみくいするものだとおもっておるのか?』
と、携帯画面の中をウネウネと泳ぎ藍に問い返す。
「いえ、社で宮司 千種がしていた事は人がしてきた長い繋がりだと思っていたことです。セイ様に必要無ければいいのです」
と、藍は答えた。
『アイのいうとおり、あれはワレをつなぐぎしきみたいなものだ。ここにびみなミキがある、きせつのハナがある、きせつのキノミがある、ワレはひとのこのキセツであるのになぁ』
と、セイ様は説明してくれる。
「私はセイ様に教えて頂けましたが、他の人達にはわからないことですよね」
と、藍が聞けば、
『わからぬのになぜ? しんねんのあいさつにくるのじゃ? しんけんにネンをおくってくるのじゃ?』
と、携帯のセイ様はウネウネを止めて渦のまま聞いてくる。
「何故でしょうね? 自然に神頼みしていますものね」
と、藍が思考の沼に入る。
……無宗教だという若者でも、新年の挨拶に神社に参拝に来て、受験生は合格祈願をする、家内安全を祈願して浮気や不倫をしないで欲しいが、離婚しなければ家内安全なのか?
わたしの場合は健康祈願であるけれど、身体は兎も角、心は健やかであったし、人各々だよね。安産·交通·商売·上達·金運……etc. その内異世界転移?転生祈願も出てきたりして……それに近いものは前から合ったような……魔法使いになりたい!(チートスキルが使いたい!) 変身アクションヒーロー·ヒロインになりたい!って二次元のカノカレと恋愛したい!……全部無理な事をお願いするよなぁと、思っていたけどわたしが知らないだけであるのかも…………
『アイ、どうした? キがさまよっておるぞ』
「いえ、人の思考とは面白いなぁと」
『オモシロイとな? キミョウでしかないが』
「奇妙ですか? き、みょ、う……? セイ様が奇妙。理であるセイ様が不思議だと?……だから長くこの地にいらっしゃるのですね」
と、藍が納得した。
……理解し難いと思われているのなら、奇妙のままでいいや。理の中に収まらないことが人なんだろうなぁ
「アイ、厨房は使用しても良いとロビン様から許可が出ているよ」
と、ルカが言ってくる。
「えぇ、聞いてるわよ。ただねちょっと匂いが気になるから、ターチちゃんに手伝ってもらうついでに竈を借りたの」
と、藍は別邸庭師のカロンさんの作業場に来ている。
「ルカ兄ちゃん、おねぇーさん、作業場の竈を使えるようにしておいたよ」
と、ターチちゃんは頬に煤を付けて言ってくる。
「あら! ターチちゃんが掃除をしてくれたの?」
と、藍が聞くと
「う~ん、父ちゃんが、ターチは煤を取ったよ」
と、カロンさんが使えるようにしてくれたようだ。
「寒い時期なら良く使っているだろうから、アイは気にしなくても掃除をする頃だから」
と、ルカがカロンさんがわざわざ掃除をしたわけでないと言ってくる。
……今回は試作品だからね。わたしの記憶のレシピで作れるのか分からないし、材料を購入して借金を増やし慣れてきた自分が少し怖いが、まだ働けていないのだから仕方ない。
それまでに協力してくれたダニー様や周りにお礼をしたいし、わたしの補給糖は絶対に必要だと試験会場で実感したからね。ダートル様にも貴重な補給糖(ブドウ糖)をお返ししなければ蜜飴は低血糖の症状か食事の替わりのエネルギーの筈だ。学生の頃からご自分で作っておられるのなら間違いない筈。
同じ物では無いけどわたしの知ってる物に近い物が出来たら、お返ししょう。
「ターチちゃんには、エプロンと三角巾を作ってみたの。着けてみようか」
と、藍が端切れで縫ったエプロンとお揃いの三角巾をターチちゃんに見せる。
11歳にしては小柄であるが、背中でクロスした紐で調整出来る型にした。後ろ手で結ぶのは難しいだろうから、長くした紐は前で結ぶなり捻り差しにしても大丈夫だろう。
「おねぇーさん、どうやって着けるの?」
「じゃぁ、着けてあげようか」
と、藍がターチちゃんにエプロンを着けてやるとルカが聞いてくる。
「厨房で使っている物と違う形なんだな」
と、疑問に聞いてくる。
こちらの世界のコックさん料理長をはじめ、髪は長ければ括るか、短髪にするかでほぼノーガード。上着は普通のシャツに腰エプロンで、手拭きを兼ねているようだ。
ダーニーズウッド家では食事毎に腰エプロンを取り替えて、料理人さんはお仕事をしている。ターチちゃんに作ったエプロンは侍女さんが着けている物に近いだろう。
「ターチちゃんと色は違うけど、形は同じでしょう」
と、藍もエプロンを着けて三角巾で頭を覆う。
「おねぇーさん、ターチも」
と、エプロンと同じ柄の三角巾を持って藍の側に来た。
……調理器具は流石にお借りしたけれど、バターが無いからルカに頑張ってもらいましょう。
わたしがバターを作るのは、明日は寝込む事になるからルカとターチちゃんにお願いします。
瓶の煮沸と器具の煮沸をターチちゃんとすれば、テーブルにきれいな布を敷き余熱が引くのを待つ。
「今日私が作るのは、ミルクキャラメルというお菓子です? お菓子? でいいか」
と、藍がキャラメルがどの分野になるのか定かでないが、スイーツ作りに欠かせない計量カップがないが、そこまでしなくてもいけるのが良い。
ここの砂糖は白くない黒糖や三温糖に近いが風味で出ていいかも。ミルクは水牛らしいがあるから後はバター。ミルクがあるならバターがあってもいいのに。煮沸した瓶にミルクを入れて皮で封をする。
二つの瓶をルカとターチちゃんに渡せば、二人とも不思議がる。
「さぁ、二人ともこの瓶の中身が固まるまでフリフリして下さい」
と、藍がルカとターチちゃんを促す。頑張れば10分位でバターは出来る筈。
「おねぇーさん、フリフリって何?」
と、ターチちゃんが聞いてくる。
……えっ? フリフリが通じない!
「ルカは分かるよね」
と、藍がルカに振り向けば、何処かの親父が徳利の首を持って無くなったと合図するフリフリをして見せた。
……ち、が、う、よ! そっか、フリフリが通じないか。わたしがすると疲れちゃうがバターは欲しいからやりましょう。
「えっとね、皮の封の所と瓶の底に手を掛けて上下させます。いいですか? 優しくしないで激しく上下を繰り返します」
と、藍が瓶に手を掛け上下に激しく振って見せる。
バシャ!バシャ!バシャ!バシャ!
……あれ? 前にした時は直ぐに息切れして倒れたけど、まだやれそう。なんだが楽しい。
「分かった、分かった。藍のフリフリの意味が分かったから」
と、ルカに止められた。
……まだ、フリフリ出来たのに
「おねぇーさん、瓶を振り続けたらいいの?」
「そう、瓶の中身が固まってくるからそれまでに頑張ってフリフリしてね」
と、藍が説明する。
……小学校の理科の実験でした時は、全部友達にしてもらった。わたしは1分も振り続けられなくて目を回しました。小学生だったから? あれ?
「アイは、他の用意をすればいい。ターチとばたーは作るから」
と、ルカが凄い早さで瓶を上下に振っている。
……ルカのその早さは出来ないわ……わたしには……
テーブルに薄い油紙を裁断する前の大きさで買って来てもらった。四隅が出来るよう折り込み軽く小麦粉を振る。砂糖の量を決めたら砂糖の3倍のミルクを器に入れてよく混ぜる。アレンジは今回はしないで、普通のミルクキャラメルに挑戦してみる。成功したら塩味や紅茶にナッツ類を入れてみてもいいだろう。
まず基本がどうなるか。
竈の火が弱くなったが煮沸したお湯はそのまま残したい洗い物が木ベラや鍋を洗うのに固まったキャラメルの後始末は悲惨にしかならないからね。大きい鍋は横に置き中ぐらいの鍋を竈に置けば直ぐに熱が伝わる。濡れ布巾も用意すべきだね。
「アイ、見てくれないか固形になっているけど」
と、ルカとターチちゃんが藍の目の前に瓶を突き出す。
……おぉおぉ!! ちゃんとバターになってる!
「二人とも凄いね! バターだよ。分離した液体も美味しく飲めるから後で一緒に頂こうね」
匙二杯で、今回はいける筈。一旦鍋を濡れ布巾で熱を下げて全部入れてから火にかける。竈の火を調整しながらは難しいが、ルカが調整してくれるようだ。鍋の中身が泡立ち木ベラで焦げないように撹拌していく。
……うゎ~っ! 甘い匂いが広がっていくけど大丈夫かなぁ。後もう少し粘度が欲しい、砂糖に色が付いているから焦げないように…………
油紙に流し込めば後は粗熱が取れるのを待つだけだが、作業場の外が騒がしい。
ルカが様子を見に外に出れば、
「ダートル様!」




