閑話 出会 2
「ロビン様!」
と、経済科の棟を抜けて庭園側を歩いていると、1人の騎士見習いが声を掛けてきた。
「ふぬ? 君は?……」
と、ロビンは見覚えが有るが名前までは思い出せずにいたら、
「無理も有りません。俺……私はダーニーズウッド辺境伯領土内、サッチルド伯爵家にお仕えしております。ロイと申します」
と、騎士見習いが身元を言ってくる。
「あぁ、アンディの所か。道理で見た顔だと思った」
と、ロビンはロイという青年を覚えていた。
ダーニーズウッド辺境伯領地は広く領地内を伯爵家や子爵家に領地を任せて統治させている。領地内の貴族を信用信頼しているが、放任している訳ではない。
領地の産業や産物の資産的な事を管理するのも領地の領主の務めとなるが、父 カールは文官を連れて領地内を視察して回る。兄と私は父に連れられて御一緒することが合った。
父 カールはあまり細かい指示は出さないが、任せている領地内の出来事や問題は把握しており、時折質問形式に後の対策や結果を求めて問う。脳筋のようでしっかり数字も頭に入っているから、貴族側の文官達も緊張しながら視察に同行している筈だ。
「ロイは、サッチルド家に任している領地の民だったな。アンディの推薦で騎士科に入ったのか?」
と、ロビンは父 カールや領地の貴族が領民の優れた者を推薦で選択科にアカデミー受験をしていることを知っている。
「はい、サッチルド家の推薦で騎士科に入ることができました。しかしアンディ様でなくてご子息のイアン様が私をアンディ様に薦めて頂きました」
と、ロイとは説明する。
「あぁ、イアンが……確か!」
と、ロビンは少し前に父から聞いた話を思い出す。
10歳になったイアンが王都のアカデミーに入学するのを嫌がり家出みたいに館から抜け出して、敷地内の森で隠れていたところ領民が見つけて、イアンが気の済むまで付き添っていた。
「アンディ様が、イアン様を見つけた褒美に推薦して下さいました」
と、ロイは言ったが、
「アンディはそんなことではロイをアカデミーに推薦したりはしないだろう。ロイの人柄や能力を見極めてした筈だよ」
と、ロビンは次期当主であるアンディ·サッチルド伯爵をよく知っている。父 カールの側近であり優れた文官でもある。
「ありがとうございます、精進いたします……あのぅ……ロビン様、先程ダートル様をお見かけいたしました」
と、ロイは言いにくそうに報告してくる。兄もアカデミーにいるのだ、ロイが何処かで見かけても不思議でも無いが?
「そうか? 兄 ダートルもアカデミーに在席しているから、見掛けるだろうな?」
と、普段から仲が良い兄に遠慮はない。
「ダートル様のご婚約者の方は、お決まりになっていたのでしょうか? ダートル様を意外な場でお見掛けしたので、正直二度見いたしました」
と、ロイはバツが悪そうに報告してくる。
「意外な場?」
「はい。淑女科の談話室で御令嬢と、お茶会をされていました。他の御子息方であれば当たり前だと思ったのですが、ダートル様をアカデミー内でお見掛けすることが無かったもので、本当にいらっしゃるのだと驚きました」
と、ロイは兄 ダートルをアカデミー内で見掛けないからいないと思っていたらしい。
「そうか、兄も誰かに誘われたのかも知れないな」
と、ロビンはロイに答えてやる。
「私は騎士科の友人に誘われて、初めて淑女科の場に伺いましたが、私のお仕えする方は決まっておりますので、友人の付き添いになります」
と、ロイは自分の意思で行ったと言わない。
「そう決めなくてもいいぞ。王宮勤めになっても他領地になっても構わない。ロイがダーニーズウッド辺境伯地出身であるのは変わらないが、成績次第では上を目指してもいい。卒業まで勉強や見聞は広げて決めればそれでいい」
と、ロビンは推薦枠でアカデミーを卒業後近衛になった者や他領地の領主や当主に仕える者も居ることを教える。
「はい。見聞を広げて学びたいと思います」
と、ロイが返事をすれば、1つ気に成ったことを確認する。
「ロイが見た兄のお相手は、何処の御令嬢か分かるか?」
と、ロビンはまだ、正式に次期領主と決まっていない兄と自分の婚約打診が有ることを知っている。
「はい。私は存知あげませんが、友人は知っていたようで、東側のボドール辺境伯令嬢様だとお聞きしました。ただ周りは注目の的に成っておりましたので、ロビン様にもお耳に入るかと思います」
と、ロイが他所から入る情報より、近くの者からの情報を先に知っておく事を優先にして、声を掛けてきたことが分かった。
「ロイ、ありがとう。情報をあげてくれて、私も兄もその手の話は得意ではないから助かったよ」
と、ロビンは騎士見習いのロイに礼を伝える。
「いえ、差し出がましい事をいたしました」
と、ロイは控えめに礼をとり離れていった。
……わざわざ騎士見習いのロイが、私に伝えたと言うことは兄の事より、周りに気に成ることが有ったと言うことだな。
兄から淑女科に行くとは考えられない。誰かが段取りを組んだか? 仕組んだか? 取り巻く者に嫌悪を感じたか? どちらにせよ様子は見るしかない。
「ロビン!」
と、別邸で朝から警護第5団隊所属の騎士と訓練をしていると兄 ダートルから声を掛けられた。
「おはようございます。兄上」
と、ロビンが騎士に待てをして兄に向き合う。
「ロビン、訓練中にすまないな。今日時間を明けてくれないか?」
「はぁ? どうかされましたか?」
「いや、前から教育科の先生方にお願いをしていたことのお返事を頂いた段取りの日が、友人との約束の日に重なってしまったのだ。私の代わりに友人の約束に付き合ってくれないか?」
と、兄 ダートルが言ってくる。
「私が代われる事なのですか?」
「大丈夫だ。友人の妹君がお茶会の練習相手を探しているだけだから」
「急に代わるのはお相手に失礼に成りませんか? ご友人に変更の依頼をされては?」
「それでも良いのだが、私は教師資格を取らないといけなくなったから、これからの予定が立ちにくい。同じ立場のロビンであるなら変更せずともお約束の練習相手に違いはないと思ったのだが……他の御子息に頼むのもな」
と、兄 ダートルが言ってくる。
……あぁ、他の方では支障があるのか? お茶会の相手? ロイが言っていたボドール辺境伯御令嬢か?
「お約束の今日だけで良いですか? 兄上が今日以降都合が付かないでいるのなら、後はご友人に代わりの方を見つけてもらうと言うことであれば、今日は私が兄上の代役を努めますよ」
と、ロビンが急な兄の用事変更を、先方に失礼がないようにするだけに引き受ける。
……内心、ロイから聞いた事から、次の約束を取り付けている兄の友人にも興味がある。その約束を受けた兄の事も興味がある。
「あぁ、それで良いよ。多分私はこれから時間を取れないと思うし、ロビンに負担をかけるつもりも無いんだ。先方からの変更なら気が楽なのだが、私が安易に受けた約束でお断りをするのは悪くてな。ロビンの方が話題があるだろうから今日だけは頼むな」
と、兄 ダートルに依頼された。
「分かりました。善処します」
と、ロビンは答えて思わずため息が出た。
……兄上は何を根拠に私の方が話題が有るとお思いなだろうか?
兄上と気の合う兄弟であること事態、たいして面白くしてあげれるとは思えないが……
「申し訳ないですが、本日のお相手を努めさせて頂きます。ロビン·ダーニーズウッド辺境伯です」
と、ロビンは淑女科の談話室に足を向けてたどり着いた。何回かそれこそ友人に誘われ頼まれてお茶会に参加をしたことは有るが、御令嬢の話題には付いていけず、友人達の弁才に驚きを隠せずにいた。
友人達は嘘ではないが、誇張や捏造紛いな話題に御令嬢達が楽しくお茶会を過ごせているのであれば、此で良いかと見ていた。
「ごきげんよう、ロビン様。ダートル様がご都合が悪くなったと兄から伺いました。初めまして私は、クリネ·ボドール辺境伯です」
と、こげ茶髪をこめかみから編み込み、後ろで纏めて流している。茶目を目一杯開いて見つめてくる視線は、兄との違いを探して楽しんでいるようだ。
「今日だけ辛抱してくださいね。私とはお話が続かないかも知れませんが、クリネ嬢のお話は楽しみにしておりますから」
と、ロビンは聞き役に徹するつもりで来たと伝える。
「はい!」




