提案
ダーニーズウッド別邸に馬車が着けば、ルクールさんが玄関前で待っていた。
「お帰りなさいませ。ミカエル様にメアリー様、アイ様もロビン様がお待ちですよ」
と、ルクールさんが馬車から降りたミカエル様に言っている。
「アイはメアリーと休憩しているといい。用事が有る時には部屋に行くから」
と、ミカエル様はルクールさんと先にホールへと行き、メアリー様とわたしはルカと一緒に2階の部屋に向かう。
「アイ、おめでとう。凄いわダニーが大丈夫だと言っていたけど、アカデミーに通わなくても試験に合格するなんて」
と、メアリー様が褒めてくれる。
「メアリー様、ダートル様に沢山助けて頂きました」
と、藍が報告すれば、
「伯父様に?」
と、メアリー様はルカに問う。
「確かに、ダートル様がいらっしゃった事で、何とか問題なく済みましたね」
と、ルカも報告する。
「どういう事?」
と、その場にいなかったメアリー様には分かりようが無い。
「危うく試験に合格どころか、不正をしたと言い掛かりを付けて無効だと言われました」
と、ルカが報告する。
「なんですって!!」
「あ、あ、あ、それを、ダートル様とビバル先生が納めて下さいましたから、ちゃんと証明書は頂きましたよ」
と、慌てて大丈夫だと藍がメアリー様に伝える。
「父上、今アカデミーから戻りました」
と、執務室にいる父 ロビンに声を掛ける。
「お帰り、どうだった?」
「何とか無事に終わることが出来ました。色々障害はありましたが、ダートル伯父さんがいてくれたお陰で、この時間に帰ることが出来たんですよ」
と、ミカエルはソファーに腰かけて報告する。
ロビンは息子 ミカエルの前に腰かけて話を聞く体で促す。
「アイは今年度最高得点で文官試験に合格しました。此方が資格証明書です」
と、父の前に藍が貰った証明書を出す。
ロビンはその証明書を広げて中を確めて驚いている。
「大層な成績だな。ルカの時も驚いたがアイはアカデミーに通ってはおらぬし、此方に来てまだ三月足らずだろう。アカデミーで何が有った?」
と、ロビンは聞いてくる。
「試験の立会人は、その証明書に署名されている三人の先生方です。
教育科責任者のゾーイ先生、教師のビバル先生と伯父 ダートル先生でした」
「ビバル?……」
「試験場に案内された処は、普段使用されていない年一回の一般試験場でした。
確かにこの前会場となった試験場でしょうが、大勢受ける試験ではない今回の試験には、必要のない広さの場を用意されていました」
「ルカもそこで受験したのか?」
「いいえ、ルカはダーニーズウッド家の推薦受験でしたので、選択試験と同じ場だと言っていました」
「平民扱いをされたと言う事だな。ダーニーズウッド家の推薦であればルカと同じであるが」
「伯父さんは何も知りませんから、その扱いに異議も不愉快も有りませんでしたよ」
「そうだろうなぁ」
「試験を始める前に、僕は確認を取ったのです。伯父 ダートル·ダーニーズウッドがいるのは忖度と疑われないかと」
「で、」
「ビバル先生が、頼んでも忖度をしない人を選んだらダートル先生になったと仰いましたが、ダーニーズウッド家に対しては忖度をしているというのです」
「後からの依頼を受けてやったと言いたいのか」
「そうでしょうね。ゾーイ先生は端からアイが試験に受かるとは思ってもいらっしゃらなくて、関心も無くビバル先生と伯父さんに任せていました」
「昔は、教育熱心な先生だったがな」
「此方からの依頼は、アイの文官資格取得試験でしたが、始めたのは一般試験でした。提出した書類には教育課程は終えていると明記したにも関わらずです。アイの身体の事を考えるとあまり長時間の拘束は控えたいと思っていましたが、それには何も言わず従いました。
全問正解で、三人の先生方が驚いているのが内心面白かったですね」
「それから文官試験に移ったのか?」
「それが、一般試験は用意されて受けましたが、文官試験問題は用意されておらず、ルカに先生方の控え室に取りに行くよう指示されました。
あまりの対応にルカはダーニーズウッド家の侍従だから勝手に使うなと文句が出たのは仕方ないことだと、僕は思います。
それをダートル伯父さんが間に入ってルカに取りに行かせたのですが、ビバル先生は用意していると言っていたものが用意されておらず、ルカの語尾にも苛立ちが隠っていました」
「兄、ダートルは黙って見ていたのか?」
「いいえ、伯父 ダートル先生は、ゾーイ先生とビバル先生の為さりように忠告をされていました。怠慢と屁理屈を言うなと」
「フッ、そうか」
「文官試験はゾーイ先生がすると仰いましたが、ビバル先生がこれ以上対応の悪さを出すわけにはいかないと、ご自身で試験は続行なさいました。50問の試験が終わってビバル先生が今年の正解率が6割だと言い掛ければ、ゾーイ先生が8割でないと合格させぬと言い出して、でも、まぁ、アイが45問正解し9割ですので合格です。
ですのに、ゾーイ先生が正解率が高いのは可笑しいから、試験が無効だと言い出したんですよ」
「はぁっ? アイが不正をしたと?」
「馬鹿馬鹿しいのにも程があります。不正をしたのは教師である貴殿方だろうと、僕は言いましたよ。何せアイが優秀であることは知っていましたから、どんな言い掛かりを付けてきてもやり込めるつもりでした」
「で、認めたのか?」
「ええ、ダートル伯父さんも参戦してゾーイ先生の言い掛かりをやり込めてきましたよ。
その時はアイも疲労していて、早く終わらせてやりたかったですし、証明書を貰うまでに伯父さんが休憩が必要だろうとアイを休ませてくれました。あの、いつも伯父さんが持っているくそ甘い飴をアイは喜んで貰ってましたよ」
「あぁ、あれな。兄が自分で作って持っている蜜飴かぁ」
「アイの話では、その貰った飴で何とか持ち耐えたと言ってましたが、ただの飴ですよね」
「そうだな、少し癖は有るがただの飴だな」
「その後に証明書を貰って帰るはずでしたが、ビバル先生が、アイをご自分の文官にしたいと言い出して来たんです」
「いやいや、シアン陛下がお待ちなのにといっても、まだ王宮では用意が出来ていないな」
と、ロビン様が思案される。
「僕もアイが簡単に文官試験を取得するとは思わなかったので、補修や追加でアカデミーに通うだろうと思ってました。いくら優秀だとしても、全く言語も知識も違う国から来て、文官試験におまけに最高得点まで叩き出して」
と、ミカエル様も呆れ顔をして答えている。
「アイに礼儀作法を教えないといけないが」
「殆ど教えることはないのでは?」
「いや、ダーニーズウッド家の中でしか、知らぬであろう。王宮に上がれば今のままでは済まぬと思うぞ。慣らしておく必要がある」
「そう言えば、ビバル先生でなくてダートル伯父さんもアイを文官として預かりたいと言っていましたよ」
「兄が?」
「今年度から王宮研究所所長になったそうです」
「はぁ? 研究所の所長って、研究所の長が臨時教師をしても良いのか?」
「さぁ? 研究室室長から所長になったから、繋ぎの教師でしかないと。
アイが先約の仕事場に行くとしても、短い間だけ預かりで良いだろうと言ってましたよ。
父上、僕はそれを相談したかったのです。
アイは文官資格を取得した優秀な者でも、初めて勤める王宮では、シアン陛下が側にいても体調を維持出来るとは思えません。父上が言っていた礼儀作法や文官の仕事の流れや体験は、アイには必要ですよね。
今ならアカデミーに、ダートル伯父さんがいてアイに文官の仕事の流れや苦手な地理問題の補修をお願い出来ませんか。礼儀作法はメアリーが復習代わりに館で教えさせれば良いですし、メグがいるので間違いを教えたりしないでしょう」
と、ミカエルがアカデミーの伯父からの提案を考えていた事を相談した。
「兄がいる間な。そうだなシアン陛下にもご相談だが、それは良い案だと私も思うぞ。
で、アイの衣装の事は相談したのか?」
「あっ! 忘れてました。アイはアカデミーではフードを被っていたので、ほぼ知られていません」




