回避
「お分かりですか? 我がダーニーズウッド家では、アイの虚弱を理解して過保護の集団になっております。実体験からですので過剰ではありません」
と、ミカエル様が現状を言ってくる。勿論ルカも頷きそうだと答えている。
「それが、アイが言っていた体調管理が自分の努力で毎日していることだと、本心から言っていた事なんだね」
と、ダートル先生が問う。
「僕もルカもアカデミー卒業生です。先生方に思う事が無いとは言えませんが、異母妹弟達が待っていますので今日はこれにて失礼致します。ダートル先生とビバル先生がアイを預かるというのなら後程打合せしたいと思います。考え直されるのであればお返事は、ダニーにでもお手紙でお願い出来ますか」
と、ミカエル様はルカに目配せをして藍を立たせる。
「本日はお時間を頂きましてありがとうございました」
と、藍が両手を前に揃えて頭を下げた。多分此方ではしないお礼の仕方だ。
「そうか、じゃぁまたな」
と、ダートル先生は言って、ビバル先生は頷き返事をしてくれた。
部屋を出た三人は部屋の前廊下に並んで待っているダーニーズウッド家の三妹弟を見つけて、ミカエル様が声を掛ける。
「三人とも待たせたな」
と、兄の顔で妹弟達に言えば、
「私達の事は良いのです。それよりアイはどうでしたか?」
と、メアリー様は異母兄ミカエル様を払いのけてフードを被ってミカエル様の後ろにいる藍に向かって問いただす。
「大丈夫です。合格証明書を頂きました」
と、返事をしたらルカに預けた証明書を指差して見せる。
「異母兄上、姉上から聞きました。淑女科では今日教育科で何か有るのを探られたようです」
と、ダニー様がミカエル様に報告した。
「おまえ達は今からどうするんだ?」
と、ミカエル様が妹弟に問う。
「私は一緒に帰ります。今日はこの後の予定は有りませんから」
と、メアリー様が言って
「僕は授業があるから、此処で」
と、ダニー様はそのまま廊下の奥に進まれて別れた。
「僕もこれから授業が有るから、騎士科に戻ります。アイには夜に話をさせてね」
と、ケビン様もダニー様が向かわれた反対の方向に駆けて行かれた。
「メアリーは、一緒に今帰れるのか?」
と、ミカエル様は異母妹の様子を見る。
「はい。荷物はニルスに預けてから此方に来たので、直ぐに帰れます」
と、メアリー様が言ってくる。
「メアリー? えらく用意周到だな」
と、ミカエル様が異母妹 メアリーの変化に驚いている。
「私はアイを見習っただけですわよ。自分ではちゃんと考えて行動していたつもりでした。本当につもりだったの!
でもアイを見ているとつもりだったことが、凄く浅かった事に気が付けたの。
今までの私なら合流するからとそのまま時間通りに来ていたでしょうね。でもアイが心配で直ぐに帰れる様にと考えたら、まず私がその行動の邪魔になってはいけないと思って、帰れる用意をしてからダニー達と落ち合ったの。
ダニーはアイの復習に付き合っていたから心配無いとは言っていたけど、途中で体調を悪くしたりすれば分からないでしょう」
と、メアリー様が藍の手を繋いだまま、事務所玄関口まで歩く。
ルカが退所手続きをしている間に、ミカエル様がメアリー様と藍を馬車へ誘導してくれる。
玄関口の職員さん達の視線を感じながら、ニルスさんが出してくれた手に掴まって、中に入れば思わず深いため息を出してしまった。
「アイ、やっぱり疲れたのね。少し顔色が悪いわ」
と、メアリー様は敏感に私の体調を読んでくる。
「メアリー様、気付いて頂けるのは嬉しいのですが、あまり言い当てられるのも恥ずかしいのですよ」
と、藍がメアリー様に笑顔で答える。
「そうなのか?」
と、ミカエル様が不思議そうに聞いてきた。
「それはそうですよ。私はメアリー様より年上のお姉さんなのに、元気でいるところを見せたいじゃないですか。痩せ我慢しているところを見られるのは恥ずかしいものです」
と、藍が言ってみる。
「別に恥ずかしくないわよ。アイの寝顔なんて沢山見てきたし、アイはお化粧しないから分かりやすいしね」
と、メアリー様が慰めという誤魔化しをしてくれる。
「メアリーはそんなに分かるのか? 僕には今の段階では分からないな」
と、正直に仰る。
「クスクス……ミカエル様、男性と女性では、見るところが違うのですよ。男性は経験と教えて貰った場所しか見ないのです。でも女性は教えられなくても違和感を感じる事が出来るのですよ。
それが顔色だったり、目の大きさだったり口元の形だったり、ミカエル様とメアリー様が見ているところが違うだけです」
と、藍が説明をする。
「じゃぁ、ルカがアイの体調に敏感に分かるのは何故なんだ?」
「ルカは元々だとは思いますが、いつも観察癖が有りますよね。少しの変化に敏感というか、職業病というか、メアリー様と違って私の身体の使い方だったり、行動の変化で見破られている気かします」
と、藍が説明をする。
「ごめん具体的に教えてくれるか。今まで皆がアイの変化を何故分かるのか、疑問だったんだ」
と、ミカエル様が馬車の中異母妹と藍だけの空間で聞いてくる。
「多分ですよ。メアリー様は私の顔色の違いを直ぐに分かるのは、ミカエル様よりご自分の顔を見ている時間が長いからで、ミカエル様は短いからです。これは記憶の定着です。
メアリー様がお元気な時の顔色と元気でない時の顔色を記憶して差が分かるようになった経験が、私にも適応されていているのです。
それが小さな差でも分かる仕組みですね。
今度はルカの場合は、私の行動範囲を記憶していると思います。椅子に座る速さや仕草の変化だったり、歩くときの幅や速さで、違いを読んでいると思います」
と、藍が説明すると、
「残念ながら、最近なのよ違いが分かり出したのが、それまではアイの演技というか我慢していることに事に気付かなかったし」
と、メアリー様が言ってくる。
「メアリー、そう言ってくれるな。僕は今だによく分からない事が多い。体調が悪くなるまで気付かない」
と、ミカエル様が異母妹に愚痴る。
「お二人ともそんな技術は必要ないのです。医師にでもなるおつもりなら、磨いて欲しい技術ですが、私と関わったせいでその技術を収得することに申し訳なさが私にはあるので、これ以上はお止めください」
と、ミカエル様とメアリー様に訴える。
「アイ、それは負担だと言っているのか?」
と、急にミカエル様が言ってきた。
「あぁ…………」
と、藍は何とも言えない声を出してしまった。
「異母兄さん、それ……は」
と、メアリー様が悲しげに目を伏せた。
「今、アイは自分の体調を読まれるのが、嫌だと思ったことだろう?」
と、ミカエル様が聞いてくる。
「それは……違いますミカエル様。体調を読まれるのが嫌ではなくて、私を優先されるのが嫌……と言いましょうか、出来れば後回しにして貰える方が良いと言いましょうか……」
と、藍が結局負担だという表現を誤魔化して言っていることに迷った。
「アイ、この際だハッキリ言っておこう。アイが体調を崩すと迷惑だ」
と、ミカエル様が言ってきた。最も過ぎて藍は頷いた。が、
「異母兄、さ、ま、! 何を、仰っていますの!!」
と、メアリー様が目に見えて怒り顔になって言ってくる。
「メアリー、最後まで聞け。メアリーはアイが体調を崩したらどうする? 心配で自分の事を後回しにして気持ちも落ち着かず、物事がいつも通りに出来るか?」
「出来る訳がないじゃないですか??」
「そうだろう、僕だって忙しいんだ。だがアイが心配で考え事が疎かになる。だったら、アイには元気に側にいて欲しいと思わないか?
アイが負担に思うのではなくて、回避するための技術だと思えないだろうか」
と、ミカエル様が言ってきた。
……同じ様な事を言われたな……負担に感じなくてもいい。
嘘つき藍の嘘を見抜く技術が増えるだけだから……
嘘つき藍だなんて酷い云われようだよね……




