実体験
「アイ、私の文官にならないか?」
と、ビバル先生が言ってきた。
「やっぱり、ビバル先生はアイを気に入ったか」
と、ダートル先生が言うが、
「ルカには振られたが、私がアイを側に置いても問題にならないだろう?」
と、ビバル先生が問題になる事を問題にならないと言う。
「確かに、君がアイを側に置いても問題にならないな」
と、ダートル先生が認める?
「もしかして……あの噂は本当の事ですか?」
と、ルカが何か気付いて呟くと、
「ルカ。あの噂って何だ?」
と、ミカエル様が聞いてくる。
「ヒバル先生は同性愛者だから安全だと、仰るのですね」
と、藍がキッパリ言いきった。
「ハッキリと言うね」
と、ダートル先生がニヤリとした顔で言って、ミカエル様とルカは固まった。
「でも、それは噂であって本当ではないんですね。何か事情が有ったことをビバル先生も利用して噂をそのままにしている?」
と、藍は疑問だと思う事を言ってみた。
「益々アイの事が気に入ったよ。君の知識にも興味があるんだ、その理解し難い言語にも」
と、ビバル先生が言ったことで、藍は理解した。
「ビバル先生は、私の言語に興味があるだけですよね」
と、藍が言いきる。
「アイは面白いね。ビバル先生の事を理解出来ている」
と、ダートル先生は言うけれど、理解は出来ていません。唯、近い人を知っているだけだ。ビバル先生とはさっき合ったばかりで、よく知らない。
「あぁ、この噂のお陰で煩わしい家の家督とか、付き合いとかしなくてもよくなった」
と、ビバル先生が答えた。
「悪噂で縁談も逃げ切った口ですか?」
と、ミカエル様が突っ込む。
「まぁね、実際には恋人も相手もいた訳じゃ無いから、調べれば分かることだし、唯その噂が消えずに未だに付いて回っているだけだよ」
と、ビバル先生は言う。
「本当にお好きな人が出来ても、そのままにされるのですか?」
と、藍は聞いてみた。
「意図して否定せずに流した事に対して、都合が悪くなったとしても、自業自得だからね。
まぁ、ルカはその噂を知ら無かったようだが、キッパリ振られたがね」
と、ビバル先生が仰る。
「私は父に二年で帰るように言われてましたから、あまり周りを見る余裕は無かったです。後から人伝に聞いた位です」
と、ルカは当時の事を話す。
「アイの仕事探しはこれからだろう。資格は今日取得出来たけど、新年度は始まったばかりだから何処も人手は足りているし、辞めた者もいないだろう」
と、ビバル先生が言う。
「何故?もっと早くに要望を出さなかったんだ? そうすれば本式の文句もなく試験を受けれただろう?」
と、ダートル先生が言うけれど、それはそれで妨害は有った筈だ。
……だって、ビバル先生は同意されずに苦笑されている。今回のゾーイ先生の為さり様を見れば、すんなりと事が運んだと思えない。
反対に、ビバル先生とダートル先生が居てくれた今回の試験の方が、問題なく終えたと思える。
「アイの仕事先は決まっていますので、ご心配なさらずに」
と、ミカエル様が二人の先生にニッコリ答える。
「何だ、やはりミカエルの婚約者なのか。ロビン抜きで進めるとは父上も何をなさるやら」
と、ダートル先生は申し訳なさそうにビバル先生を見る。
「えっとですね、違います」
と、思わず藍が即答してしまってから、恐る恐るミカエル様の方見る。
……何となくだがその様に思わせておけと、言われている気がするけど……否定しちゃったよ
「はぁ~~つ、違いますよ。ダートル伯父さん」
と、ため息を付いてわざとミカエル様は身内呼びをした。
「何が違うんだい? ビバル先生のいう通り今は今年度採用された者が、意気揚々と働いているんだよ。今から職を探しても良い処なんてないし、今人が居ないのは余程悪環境か、雇い主の性格が悪いかだよ。そんな処にうちが送り出すわけがないから
と、なるとダーニーズウッド家で採用となるじゃないか」
と、ダートル先生は憶測だが現実を教えてくれる。
「僕もアイをダーニーズウッド家に採用できるならしたいですよ。優秀なのは伯父さんより僕の方が知っていますからね」
と、ミカエル様は憮然に答える。
「何だ! ミカエルは振られたのか?」
と、ダートル先生は、甥の失恋を確信して言ってくる。
「えっ? ミカエル様を振った人がいるのですか? ねぇ、ルカは知ってる?」
と、藍がビックリして小さい声でルカに聞いている。
「振られる以前の問題です。アイには先約が有りますから文官の仕事は決定事項なんですよ。
提出した書類にも書いていた通り、アイの国ニッホンでは、三月前まで学生で教育課程を終えているんです。
しかし、カーディナル王国での資格は無資格でしかないので、今回の要望になったと言うわけです」
と、ミカエル様が説明される。
「文官の仕事が決定事項なんて、一つ問題は有るよね」
と、ダートル先生がビバル先生に視線を送ると、
「問題という程ではないけれど、欠点と言ったらいいのか。アイの不正解の問題文を覚えているかい?」
と、ビバル先生が藍に聞いてきた。
……あっ! 何が言いたいのか分かった。
「地理ですね。地理に纏わる産業気候歴史が、弱いです」
と、自覚有の事を答える。
「学習能力が高いのはよく分かるよ。ダニーの教科書や資料を参考にして、よく覚え込んでいるし試験慣れなのか問題を出す側の、心理を付いて解答が明確だった。
無回答だったのは地理問題で、解答が怪しかったと言うか迷った解答もそれに近い問題だった筈だ」
と、ビバル先生は言ってくる。
「確かにビバル先生のいう通り欠点だね。アイが外国人であることなのか、元々苦手としている科目なのか。
それでも最高得点を出しているのだから知識範囲は凡人よりは優れているさ。
だったら、僕の文官のなるのはどうだろうか?」
と、ダートル先生が言ってきた。
「何を…………」
と、ミカエル様は反応したまま黙り込む。
「僕は、ダーニーズウッド家の一員だよ。アイをダーニーズウッド家で庇護しているんだろう。そうじゃなきゃ次期領主とアートムの息子ルカを付けたりはしないよね。
ミカエルが王都で暇じゃ無いことは知っているし、ミカエルの説明にどれだけのダーニーズウッド家の人間が関わっているか分かりそうなものだよ。
それに僕は、此処では臨時教師であって関わる人は限られてくる。正式採用される教師が来れば僕は王宮の研究室に戻るし、戻らないと責任者がいつまでも留守にするわけにもいかない。だから一時の預かりには適している」
と、ダートル先生は説明してくれた。
「えっ! 研究室の責任者ってどういう……」
と、ビバル先生はビックリしている。
「あぁ、今年度から王宮研究所の所長なんだよ。この前までは研究所研究室室長だったけど、前任者の所長からずぅーと打診されていたけど、断り続けていたら辞めちゃって後釜に据えられただけだよ」
と、ダートル先生が答える。
「ダートル先生として? ダートル·ダーニーズウッド辺境伯として? どっちで話している?」
と、ミカエル様が伯父 ダートル先生に聞く。
「どっちと決められないよ。アイの欠点で有る地理的な事は、側に付いている間に教えてあげれるし、ダーニーズウッド家で庇護しているなら一員として預かりでも良いかと思ったけど、どうなんだい?」
と、ダートル先生が甥のミカエル様に問う。
「アイをいずれ文官職として先方に出すとしても、庇護地はダーニーズウッド家で変わりませんし、ルカはそのままアイの側に付ける予定です。ダートル伯父さんの提案はありがたい事なんですが、伯父さんはルカの指示に従えますか?」
と、ミカエル様はダートル先生に聞く。
「なっ? ルカの指示? ルカの事は信用しているしルカが言ってくることなら、端から否定はしないと思うけど?」
と、ダートル先生は何とか答えを出す。
「アイは、とても虚弱で無理が利きません。先ほどの試験でも本人は倒れる少し前位だったのでしょう。ルカからは休憩が必要だと忠告されました。アイが倒れずに済んだのは伯父さんの蜜飴を貰って休憩出来たからだと思います」
と、ミカエル様が言えば、ダートル先生だけでなくビバル先生も驚いている。
「では、私の噂や個人が嫌で断った訳ではないと?」
と、ビバル先生が聞いてくる。
部屋にノック音がして文官職員が、声を掛けてくる。
「お話し中申し訳ないございませんが、淑女科のメアリー·ダーニーズウッド辺境伯令嬢様と、教育科のダニー·ダーニーズウッド辺境伯令息さまと、騎士科のケビン·ダーニーズウッド辺境伯令息様がお待ちになっております」
と、伝えて来た。
「お分かりですか? 我がダーニーズウッド家では、アイの虚弱を理解して過保護の集団になっております。実体験からですので過剰ではありません」




