不正
「…………終わりとします」
と、藍はビバル先生に向けて言葉にした。
……50問中答え無しとしたところは3問。自信が無いが記入したところは5問ある。8割で合格なら8問不正解でも何とかセーフの筈だよね。
「では、採点とするか」
と、ゾーイ先生が解答用紙を受けとると、ペンを持ちビバル先生の方を見る。
「それでは答え合わせといきましょう。タツミ アイ此方へ」
と、ビバル先生の隣へと誘導される。ミカエル様とルカが何か言いたそうにしたが、そのまま事が進むようだ。
……ビバル先生の正解の答え合わせに、ゾーイ先生は何か引っ掛かりがあるのかなぁ。正解を聞いて問題文を聞くのは何回目だろう? わたしの解答に疑問でもあるのかなぁ?
あぁ! この問題の答え分からなかった。
「タツミ アイ。何故? この問題が分からなかったのだ」
と、藍が答え無しとしたところで、ゾーイ先生が聞いてきた。
……えっ! 今それ聞く? 分からなかった事に理由が要るの?
「ゾーイ先生、採点が終わってからでいいでしょう」
と、ダートル先生が言ってくれる。
「分からなかった事を知るために、目の前で採点をしているのではないか」
と、ゾーイ先生が言い返す。
「えっ! そうなんですか? 僕は誤採点をしないようにしているのかと思ってましたよ。ゾーイ先生は問題文を確認してたから」
と、ダートル先生は答える。
……そうだよね。わざわざ今分からないことの授業が始まるわけでもないからね。
後にしてもらえるといいのだけど……個人でルカにでも聞くのに。
「ゾーイ先生、採点をダートル先生に変わってもらえますか」
と、ビバル先生がため息を付きながら言う。まだ採点は半分も残っている。
「何故じゃ? 誤採点はしとらんじゃろ」
「さっきの採点のやり方でいいでしょう」
と、ビバル先生がゾーイ先生に言って、解答用紙をゾーイ先生からダートル先生の前に移す。
「じゃぁ、続きをどうぞ」
と、ダートル先生はビバル先生を促す。すぐに半分の採点が終わり、自信がなかった解答は2問不正解で、合計5問の不正解となった。
……良かった。45問は答えられたよ。復習と言う予習をしておいて良かった。ダニー様にお礼を言わないと。
「タツミ アイの文官試験は合格ですね」
と、ビバル先生は言ってくれる。
「待て! 可笑しくないか。此処まで正解率が高いのは」
と、急にゾーイ先生が言ってきた。
「「えっ!」」
と、ビバル先生とダートル先生は、驚いた顔でゾーイ先生を見る。
「先程からどういうおつもりですか。ゾーイ先生は何に言い掛かりを仰っているのでしょうか!」
と、ルカが切れている。
「どうやら、問題文が漏れていたと思われる。この試験は無効だな」
と、ゾーイ先生が仰った。
「「はぁあ!!」」
「「えっ!!」」
と、わたし以外が声を上げて驚いているが、
……正解率が高いから、不正を疑われている? 始めにビバル先生は6割って多分これがいつものボーダーラインなんだ。解答圏が広い場合は半分以上解答出来れば、統一的に収得していると判断をする。一点集中で覚えてもヤマ張を出来ないような試験内容だった。
オマケにゾーイ先生は、イケズに普段の6割を8割にって変更してきた。
ビバル先生はそれには異議を唱えなかったということは、外国人のわたしへのハンデ? ペナルティー?
わたしが頑張り過ぎたのが、不正を疑われる事になるなんて……
「ビバル、今回問題文が漏れた経緯は調べなくてはならぬな」
と、ゾーイ先生が言う。
「どうやら、不正は王立アカデミー学院にあるようですね」
と、ミカエル様が椅子に掛けたまま言う。
「なんじゃと!」
「可笑しいのはそちらでしょう? 始めに僕はダートル先生が立ち合うのは忖度を疑われないかとお聞きしました。
しかし、ビバル先生は忖度ではないと仰りましたよね。そもそも伯父 ダートルが臨時教師になることを此方はケビンが聞いてくるまで知りませんでした。僕がケビンを使いに出したのは今年から選択で騎士科を選んで教育科に関係が無いからです。
ケビンを使いに出した日にたまたま伯父と、玄関口で会ったと言ってました。
ダーニーズウッド家からの依頼書の内容はゾーイ先生と伯父しか知りようがない筈です。内容を確認されたから書類を用意して下さったのはゾーイ先生ですよね。ケビンから受け取った教育科からの書類に内心不愉快な思いは有りましたが、試験を受けるアイが躊躇なく記入するのを見て僕は後の提出書類を用意しました。
アイは教育科のダニーに教科書や資料を見せてもらいながら、此方の知識を補っただけですよ。一歩たりダーニーズウッド家から出ておらず、使いのケビンは、事務所の談話室しか入っていません。書類を届けたダニーは、ビバル先生に授業終わりに手渡したと言っていましたが、どうなんです?」
と、凄みのあるミカエル様が、ビバル先生に問う。
「確かに、ミカエル様が仰る通りですね」
と、ビバル先生は認める。
「それに他のご子息ご令嬢のように現職文官を雇って試験勉強させている貴族籍の方々の方が不正ではないのですか。斡旋しているのどなたでしょうか?」
と、ミカエル様は追及の手を緩めない。
「そちらにもルカや文官資格持ちの使用人はおるであろう」
と、ゾーイ先生が言えば、
「確かにダーニーズウッド家で文官資格だけでなく、色々な資格保持者はおりますが、それは当たり前の事ですよね。何か?
ルカが資格を取ったのは5年前です。全く同じ問題なんですか? 一般試験は7年前です。これも同じ問題なんですか? もし同じであるなら先生方は何をしているのですか? 不正をさせているのが教員ですか?」
と、ミカエル様は不正をさせているのは今回の試験ではなく他の試験の方だと言いきった。
「ミカエル、落ち着きなさい。僕が臨時教師になったのは、教育科の教師に移動が有ったからであくまでも僕は臨時だ。本職は王宮の研究室にある。正式採用される教師が来てくれたら問題はない。ただ依頼はゾーイ先生だったけど、急でしたよね」
と、ダートル先生は経緯を言うが、不信でもあると訴えた。
「あっ!、それは私からゾーイ先生にお願いをしました。臨時ならば受けてくれそうな人は、ダートル先輩位しか思い付かなくて」
と、ビバル先生は言ってくる。
「伯父のダートルが教育科臨時教師は、本当に偶然だと仰るのですね」
と、ミカエル様が確認すれば、三人とも頷かれた。
「ミカエル様、私が試験を受けた問題も順番も違っていたと思います」
と、ルカが付け加えて言ってくる。
「試験は毎回内容は変わっている。同じものが何年間にかは出るかもしれないが、今回の分は漏れようがないし、漏れた場合は内部犯行になるでしょうね」
と、ビバル先生はゾーイ先生に対して言う。
ミカエル様が言っている事が正しいと、ビバル先生は言ってくれた。
……う~~ん、まだなのかなぁ? 頭フル回転させて最近覚えた知識の引き出しから出してはしまいを、繰り返すと結構脳のエネルギーを消耗しているのだけど。
それでなくても現代日本の知識でないものを、覚えるのに知っている内容をリンク付けして、文字も数字も変換しながら勉強したのは、大変だったんだから。
暗記の技術をフル活動しました久しぶりに。
あーーーーっ! ブドウ糖が欲しいな……せめて、休憩したいな…………
と、外野の事を気にせず、立って考え事をしていたら、チョンチョンと肩を突かれた。
……えっ? 何!
と、見れば肩口に油紙に包まれた物が乗っかっている。
どうやら、ダートル先生がわたしの後ろに回って置いてくれたらしい。茶色い油紙を広げるとキャラメルみたいな塊が出てきた。人差し指と親指で塊を摘まんで匂いを嗅いで見る。
甘い匂いと記憶にある蜂蜜の匂いだ。
思わず顔を意識してダートル先生に向けると、ダートル先生は手を口に入れる仕草をしてニッコリ笑ったのだ。そのままわたしも同じ仕草でその塊を口に入れた。
……あ、ま、い、やっぱりキャラメル擬きだ~。知っている物より溶けるのが早いけれど、お口の中は塊が溶けて広がっている。
流石蜂蜜。ブドウ糖と果糖?だっけ? 脳に持っていかれていた血中の糖も身体に戻るのが早い。
これならもう少し持ちそうだけど、これ以上だと難しいな。
「はい。タツミ アイは、文官試験に合格でよろしいですね。ミカエル話がある」
と、急にダートル先生は言い出し、ゾーイ先生とビバル先生に藍の解答用紙を突き出す。
「勿論私はそうだと判断致しましたよ」
と、ビバル先生が言えば、
「証明書を作ってくる。待っておれ」
と、ゾーイ先生が退出された。
「ミカエルは僕に付いてきて話がある」
と、ダートル先生が言えば、
「悪いですけどアイを置いては行けません」




