忖度
「足元にお気を付け下さい」
と、馬車の扉を開けてくれたのは、ダーニーズウッド家の侍従ニルスさんだ。
先に馬車のステップに足を付けて下車したのはミカエル様で、御者台からルカも降りミカエル様の後ろに付く。
「ニルスさん、ありがとう」
と、馬車からステップに足を置くとニルスさんの手が目の前に差し出された。藍の右手は扉縁の取っ手を掴んでいたが、左側に出された掌に手を置いて下車する。
チリン……チリン
いつもではないが、朝の散歩にターチちゃんが付き合ってくれる。ルカと歩く早さとかを見て何かを感じたのか、お喋りしながら歩く早さは藍に合わせてゆっくりだ。
お話の内容にルカにお願いをした鈴の種類で、金属か陶器と大きさ個数の希望を聞かれた時に、ターチちゃんが鈴を扱っているお店を知っていると言ってきた。
やはり馬具を扱っているお店をらしいが、お祭りに付ける飾り紐や飾り鋲と一緒に有ると言う。
ルカとターチちゃんが一緒にお店に行き色や大きさを見て説明をしてくれた。
陶器の鈴を2個、金属の鈴を小粒を3個と飾り紐を数本お願いをして購入した。
ミカエル様を先頭にフードを被った藍が続く、フードの袷から見えるドレスは上衣は、白色でウエストから下は鮮やかな赤色。ウエストに大きく飾り結びがされていて、板状の物が胸下に差してある。板状からは音がする紐が垂れて揺れている。 チリン……チリン
ニルスさんが馬車を着けてくれたのは、王立アカデミー学院の事務所前で、馬車止めの庇が在るところだ。
「お待ちしておりました。ミカエル·ダーニーズウッド辺境伯閣下」
と、玄関口に二人の男性が立っている。王立アカデミー学院の先生の制服では無いらしい。事務所文官職員のようだが、わたしとルカには何も言ってこない。
「僕は付き添いだよ。今日ここに喚ばれたのは後ろの彼女だ」
と、ミカエル様が言えば、
「伺っておりますが、何故? フードを寒くも雨も降っておりませんよ」
と、文官職員さんは言ってくる。
「ミカエル様! 脱いでもよろしいですか? 不振がられていますよ」
と、藍がミカエル様に訴える。
「今は被っていろ。先生方に会うまでは。
私の指示だからそのままで、先生方にお会いする」
と、わたしにはそのままで、文官職員さんには、わたしの意思ではないと伝えた。
事務所内に入ると、何だか見覚えある壮年の男性が待っていた。
「良く来たね、ミカエル。それに卒業生のルカにそちらがタツミ アイだね」
と、にこやかに声を掛けてきた。
「お久し振りですね、ダートル伯父さん」
と、ミカエル様が言ったら、
「おっと! ここではダートル先生だよ。ケビンから聞いてないかい」
と、メリアーナ様よりの確かにダニー様は、ロビン様より伯父似のようだ。
「ダートル様お久し振りです」
と、わたしの隣で控えているルカが、挨拶をする。
「お初にお目にかかります。タツミ アイと申します。
本日は此方からの要望にお応え頂きまして有り難う存じます」
と、少し固いがフード越しに、社会人としてご挨拶をしてみた。
「僕に改まって挨拶をしてくれなくても良いんだが、臨時教師をすることになった、ダートル·ダーニーズウッド辺境伯だよ。僕も試験に見届け役として側に居ることになったから」
と、ダートル先生は言ってくる。
文官職員さんの1人が先導して何処かに案内される。
……忘れてた。わたしは方向音痴なんだった。一人では帰り道が分からない。ミカエル様やルカとはぐれると迷子になりそうだ。
フードで顔を隠して歩いていると足元しか分からないし、顔を上げて歩くように言われてないから何回角を曲がったか数えておくべきだった。
「此方の部屋でお待ちください。ダートル先生もどうぞ」
と、部屋のドアを開けてくれるが、何処かの教室? 勉学するようの机が並んでいる。
カーテンが正面にしてあるが両側は壁だ。入った所は部屋の後ろになる。机が纏めてドア横に詰まれている。部屋の中心部に1つ机が設置され。カーテン側に向いて対面にもう1つ長机が置かれている。
……どうやら此処で、試験をされるらしい。が、ミカエル様とルカが憮然な顔付きになった。ミカエル様はともかくルカまでとなると珍しい。
ダートル先生が後ろから部屋の中に入り、見回しているが、何もご存知無さそうだ。
「ミカエル、入口で立ってないで中にお入りよ」
と、手招きをされて、わたしはミカエル様に手を差し出されて進む。
「アイ、この部屋は少し寒くはないか?」
と、後ろからルカが聞いてきた。
「今は、フードを被っているから分からないけど、外より少し涼しいのかしら」
と、藍は返事をしたけれど、確かに巫女衣装では寒いかもしれない。三人でダートル先生が居るところまで来ると、
「タツミ アイは、外国人だと聞いていたけど、綺麗なカーディナル語を話すね」
と、ダートル先生が聞いてきた。
「お誉めにあずかり、嬉しいです。教えてくださった方々に伝えますね」
と、藍が返事をした。
「えっ? 方々? って。大勢いるのかい?」
と、ダートル先生はミカエル様を見ながら言ってくる。
「すまない。お待たせしたな」
と、ドアから2人の男性が入ってきた。1人は、結構な年齢と分かる男性と、ダートル先生より少し上ぐらいの男性が、近付いて側に来た。
……このお二人が試験官になるのかなぁ。
藍は、挨拶をすべきとフードを外し、袷のボタンを取り肩から落としたフードをルカに渡す。
「お初にお目にかかります。タツミ アイと申します。
本日は此方からの要望にお応え頂き、お時間を頂きまして有り難う存じます」
と、藍が挨拶をすれば、三人の先生方が固まった。
「ほうほう、成る程。職員から寒くもなく雨も降っておらぬのにフードを被った失礼な女性だと聞いたが……確かにな」
と、年嵩の先生が言ってくる。
「ゾーイ先生! 玄関口で僕は言いましたよ。フードを被らせたの僕の指示です」
「ミカエル、落ち着きなさい。普通ならフード越しに話さない。職員達の反応は当たり前だと思うよ。私はミカエルの事を知っているから訳が有るのだろうと気にしていなかったが、他の人ならそう判断しても仕方ないよ」
と、ダートル先生が取りなす。
「そうそう噛みつくな。訳有だとしてもまさか、フードを被って来るとは思わぬだろう」
と、ゾーイ先生がニヤニヤして言ってくる。
「ゾーイ先生、紹介がまだですよ。
私はビバルです。基礎学習と言語を主に担当しています。ダートル先生の後輩ですね」
と、自己紹介をしてくれた。
「私が教育科の責任者のゾーイだが、今は教鞭を取っておらぬ。貴族科も兼ねておるからそちらでの指導係が多いの」
と、ゾーイ先生が此処での長であると教えてくれた。
「伯父……ダートル先生が見届け役と伺いましたが、どの様な事でしょうか? 忖度していると?」
と、ミカエル様が三人の先生方に問う。
「いえ、違いますよ。ミカエル様、忖度が無いからお願いをしたのです。研究馬鹿なダートル先生に忖度をお願いしても、他の人ならいざ知らずしない方にお願いしたまでですよ」
と、ビバル先生が答えてくれる。
「しかしながら、この状況では試験をしていただいても忖度が有ったと思われませんか?」
と、ミカエル様が不正が有ったと思われることを心配している。
「ほーーぅ、ミカエル様はそのお嬢さんが試験に合格すると? お考えで」
と、ゾーイ先生は言ってくる。
……それもそうだよね。外国人が母国語を理解して文官になろうとしているなんて、無謀に思われるよね。それに女性だというのもあるのかなぁ?……後ろにいるルカからも不穏な感じが漂っているんですが、ミカエル様の怒りの感情が大きい。何故?
「ミカエル様、私は学びや職に性別や人種を重きに置いておりませんが、ゾーイ先生の言う通り今回の試験は無謀だと思われます。
私共は試験に忖度は致しませんが、ダーニーズウッド辺境伯家に対しては忖度を致しますよ」
と、ビバル先生が言ってくる。
「えっ! 私が見届け役なのは忖度だったのかい?」
と、ダートル先生二人の先生に問う。
「ダートル先生、だからそれは違います。ダートル先生には試験が不正なく遂行されたことを見届けて頂いて、一緒に採点して貰います」
と、ビバル先生が説明をする。




