一方通行
「ねぇ! アイ。本当にミカエルと婚約しないの?」
と、カリーナ様がわたしに詰め寄る。
ダーニーズウッド家別邸での挨拶が一通り終えて、ダニー様がアカデミー復習にお付き合いの一巡り中、カリーナ様は暇さえあればわたしに問うてくる。
「私達、そろそろ領土に帰らないとロビン様が言ってるのよね」
と、毎日同じ事を仰ておりますが、
……流石メリアーナ様が評価するだけのことはある。
諦めない根性の方です。これは二年間されるとロビン様も根負けするよね。
「アイの事が気になって、おちおち帰れないとロビン様も仰るし」
と、カリーナ様が本気でわたしを心配しているのが、分かるから邪険にも出来ない。
……本気で心配されているのが……伝わる。分からない方が良いこともあるんだ。ロビン様と言いながら素直でないのが、やはり親子だ。
そもそも、ロビン様がミカエル様との婚約を打診してきた事から、カリーナ様に火が付いた。
ロビン様、ミカエル様にルカと四人で打ち合わせ中の事、突然ロビン様に提案された。
「アイの安全のためにミカエルと婚約としとかないか?」
「はぁーいぃ?」
「私の勘で悪いが、アイがアカデミーや王宮にあがった際に色々巻き込まれる気がしてならない。いくらシアン陛下がアイを守ると言っても一日中アイと一緒にとはいかぬ。
周りの妨害が必ず出てくるだろう」
と、ロビン様は苦慮したことを伝えてくる。
「あの、婚約者ならおりますが……」
「アイの側にはおらぬではないか」
「それは、私の国におりますので、カーディナル王国にはおりませんね」
と、藍も認めるしかない。
架空の人物にすると現実味に欠けると思い、友人の結衣さんの婚約者の名をお借りしている。人物像だけだが、岡田さんの事なら出会いから経緯を嘘を付かなくても、そのまま伝えることが出来て楽なのだ。
「アイが既婚者と言っても側にいなければ、国の婚約者と同じであろうしな」
と、ロビン様は仰る。
「ルカも側にいてくれますし、私も手加減をしてなくていいのなら策はございますよ」
「アイ、人は目に見えて初めて納得するものだぞ。文章だろうが言葉だろうが、人の思考とは都合よく出来ている。
私も最近それが分かったのだ。ミカエルが寄越した報告書では、納得も信用も出来てなかった。息子が悪戯や虚偽紛いで、私と遊んでいると感じていたからな」
と、しみじみ仰るロビン様は、ミカエル様の報告書が真な事でも信じ切れなかった事を伝えてくる。
「信用が無いですね。アイのせいではないから気にする必要は無いよ」
と、ミカエル様が言ってくれるが、
「あの、ミカエル様。申し上げ難いことですが、私を守るためだけに婚約者を装うと言う事は、私が国に帰ってしまったらミカエル様はどうなるのですか?」
と、藍はロビン様とミカエル様の自己犠牲な話に納得が出来ないでいる。
……いくら身内だと言っても、家名に汚点が付く話だと思う。偽りの婚約者に仕立てあげて、わたしは日本に帰れそうだから帰ると言えない。
親身に接しされると申し訳なさ過ぎて、我儘な甘えに押し潰される未来が見える。
「あぁ、そこを考えちゃうか。アイは……ごめんそれは僕の狙いでもあるから、気付いて欲しくなかったな」
と、ミカエル様がバツが悪そうに言ってくる。
「意味が分かりません……ミカエル様の犠牲に甘んじるなら自分でなんとかします」
と、藍は本心から口に出す。
「実はさ、シアン陛下からも父上と同じ提案をされたんだ。
僕には不利益にしかならないが、アイの婚約者を装って欲しいと、でも、シアン陛下は長考された後やはり今の話は無かったとことにすると仰って。
だから、父上が同じ事を言ってきた時は本当に驚いたよ。
ただ、父上の場合は僕と家の汚点と成っても守ると約束した事は、どんな犠牲を伴ってもすることなんだろうね」
と、ミカエル様はロビン様を目付ける。
「それは、そうだが……ウチで候補にあげるとしたら、ダニーとケビンでは役目にならぬ。
残りはミカエルしかおらぬではないか。事情を把握しているのも限られておるのに」
と、ロビン様が苦慮されたことを明かす。
「もうひとつ相談なのですが、私が平民だと言ったらどうなりますか?」
と、藍が身分の事を打ち明ける。
「それもあったのだな」
と、ロビン様が頭を抱えながら仰る。
「アイは平民でないだろう……と言い切ったら困るか……あっ! アカデミーの書類の身分には何て書いたんだ?」
と、ミカエル様が聞いてきた。
「えっとですね。私の国では平民ですが、平民と書くと身分を盾に要求されるのが、嫌でしたので神職としました。実際の私の職業も巫女ですので嘘ではございません」
と、藍が書類に書いた内容を答える。
「貴族筋であるのに、貴族となれば爵位は王族だしな。王族の令嬢が一人で彷徨くことはないわな」
と、ミカエル様がわたしに目付けてくる。
……だってしょうが無いでしょう! わたしの国では99%が、平民なんです。旧とか付く家柄はあるけど。
と、いった経緯が合ったのですが、ロビン様はカリーナ様にわたしがダーニーズウッド家に入るとなれば、どんな問題が出るだろうかと相談されたらしい。
相談で何も決まったことでも、わたしが承諾したことでも無いのに、カリーナ様は何やら思うことが合ったらしく、毎日口説かれている最中なのです。
「カリーナ様、私には婚約者はいるのですよ。ミカエル様がどうとかではありません」
と、藍が何回も言ってきたことを繰り返す。
「聞いているわよ。アイの祖国にそのカナタがいるんでしょう。何故かしら?……アイがその婚約者カナタに気持ちがあるように見えないのよね。此方でも有ることだけど政略的な事なら、ウチのミカエルはお勧めなんだけど」
と、カリーナ様が言ってきた。
……気持ちは無いですよ……他人様の婚約者に。
でも、岡田さんに対して、無感情ではないです。優しい所に真面目な所、消防士としての仕事の向き合い方は、尊敬している。
一見遊び人を装っているところは、ミカエル様との共通点はあるけれど、友人としては大好きだ。
「カリーナ様は、ロビン様が遠く離れてお仕事をすることになったら、諦めて他の殿方に気持ちを向けるのですか?」
と、少し意地悪に聞いてみた。
「そうね、お仕事なら終わるまで待つわ。でも、ロビン様が他の方を慈しまれるなら諦めるかしらね」
と、カリーナ様が笑顔で答えた。
「えっーー! 意外なお答えです……」
と、藍は正直に口に出してしまったが、
「だって、実際に今もそうだもの。ロビン様にはクリネ様がお心に有るのよ。一生消えることが無い愛情と一緒に。太刀打ちできないわよ、最愛の息子を守って亡くなってしまったのだから」
「……えっ? どういうことで……しょうか? 先妻のクリネ様は賊に襲われて亡くなったと、教えて貰いましたが。
カリーナ様も怖い思いをされたと伺いました」
と、藍はメリアーナ様とアートムさんにお聞きした内容を思い出いだす。
「まぁね。私の場合は納得は出来ないけど、仕方がないことではあるのよ。
でも、クリネ様は御自身にも周りにも問題が無いところで悲劇に見舞われたのよ。ロビン様の心痛は私には想像すら出来ないわ。
どんなに時間が過ぎても、ミカエルの奥にクリネ様は存在している。
それは、私がロビン様のお側で過ごした時間がクリネ様より越えたとしても変わらない。
だから、ロビン様の心が他の方に動いたなら、諦めると思うの」
と、カリーナ様はあからさまに答えてくれた。
「私は、結婚をしたことがないので分かりませんが、私の母は父に一方通行な思いをしてきたけれど、両想いになると衝突事故になるから一方通行で同じ所を目指す方が良いと言っていました。時間差でも同じ方向に進めば平行することもあるから、向かう方向が一緒ならば気持ちはそのままでいられると。
娘の私から見れば、今なら父が進む時間と母の進む時間が違うことで、お互い思い合っているように見えます」
と、藍は自分の両親主に母親から聞いた事を打ち明ける。
……父 誠と母 朱里の向う方向が虚弱でいつ儚くなるか分からない娘に向いていることは、わたしが一番知っている。
どちらかに見放されていれば……なんて……




