挨拶
「朝早くから、ごめんなさい!」
と、ルカとルクールさんが部屋の入口に駆けつけた時に謝った。
「どうした? 何があった?」
と、直ぐにミカエル様も追い討ちをかける。
「あの~、すみません。軽率でした」
と、藍は謝ったが、三人は事情は分からない。入口でミカエル様と、ルクールさんとルカが塞いでいるところに、次々と足音がしてくる。
「ルカ、ルクール悪いがアイを連れて使用人達に会わせてくれ。一通り挨拶が出来ればいいだろう。この朝の忙しい時なら挨拶しか出来ないだろうし、後の注意はルクールがすればいい」
と、ミカエル様がわたしを見ながら二人に言っている。
「そうしましょう。アイ散歩の続きをしょうか」
と、ルカが言ってくる。
……ひぇーん、ごめんって! 段取り狂わしてすみません。
「おーい! おねぇーさーん、何かようじ」
と、部屋の窓下から声がした。ルカが窓側に行って
「お前、ターチか?」
「うん、ルカ兄ちゃん。父ちゃんが何か用事かって聞いてこいて!」
「悪いな。後で行くから。カロンに言ってくれ」
と、ルカが窓下に向かって言っている。
「わかったー」
と、声だけしたが、わたしは朝からお騒がせをしたことに申し訳なくて窓の外を見れない。
「それでは、館の中から案内しましょうか」
と、ルクールさんにも言われ、ミカエル様の横を通りすぎて廊下に出れば、初見の侍従さんや侍女さんが固まっている。
「手当たり次第紹介しますので」
と、ルクールさんとルカに挟まれて、短時間で館の中を回る。
その中には昨日部屋のお手伝いに来てくれた侍従さんと侍女さんもいたが、他の人達と同じように自己紹介に挨拶すれば、次々とこなしていく。
館の中が、終われば外回りだが朝食後となり食堂に案内されれば、ロビン様が座にされたまま聞いてこられた。
「朝一に、何やら鳥が囀ずり羽ばたいていたようだが、それほど気持ちの良い目覚めだったのか?」
と、隣のカリーナ様に小突かれながら仰る。
「おはようございます。ロビン様 カリーナ様。朝からお騒がせ致しました。申し訳ございません」
と、藍が二人を前に謝罪する。
「おはようアイ。昨日は会わせてもらえなかった、カリーナよ。領土では娘を筆頭に迷惑をかけたようで。
義母メリアーナ様からは、アイの事を宜しくと伝言されています。後で話をしましょうね」
と、ロビン様を見ながらクスクスと笑いながら仰る。
「アイ、体調は…………良いんでしょうね。朝から動けたんですもの」
と、メアリー様が拗ねたように言えば、
「姉上、寝着のままアイの部屋に行こうとしてメグに怒られたのは、アイのせいではありませんよ」
と、ダニー様がばらす。
「いいじゃない。朝は疲れて体調を崩してなくて、この後は分からないけどね」
と、ケビン様が言ってくる。
「アイ、ケビンの言う通りだ。ルカ」
と、ミカエル様が言えば、ルカは給仕を任せて食堂を出た。
騒ぎを立てたのはわたしで、間違いはなくて朝食から賑やかな食卓に、場は和んだ。
食後のお茶はいつもは、各々の部屋で飲むものらしいが、ロビン様の提案で一緒にとなった。
「僕は後からアイとお茶をするつもりだったのに」
と、ケビン様が文句を言えば、
「ケビンはいつもは、食後にお茶をしないでしょう」
と、カリーナ様が仰る。
「アイは休憩が必要なんだよ。今一緒にお茶をすれば、部屋では休めるだろう」
と、ダニー様が仰れば、メアリー様とケビン様がわたしを見る。
どうやら、動きすぎたようだ。少し休憩が必要みたい。部屋に来るつもりだったメアリー様とケビン様は心配そうに見てくる。
「ありがとうございます。朝から動き過ぎたようです。少し休めば大丈夫ですから」
と、藍が自己分析すれば、
「その判断は、ルカに任せる。アイは従うように」
と、ロビン様に言われた。
部屋で休憩という逃げ場を作ってもらった。挨拶をしながらだが、こちらの世界に来てから分かる様になった人の気を貰いすぎて、やや満腹状態だ。
部屋には窓からは気持ちのいい風が、流れている。続き部屋の窓も開いているのだろう。揺れるカーテンを見ながら、外に向かって立ち呼吸を整えて両手を二回打ち合わせる。
パァン!! パァン!! 柏手の効果。
昨日の夜は、ベットでセイ様に言われるまま何気なく打った柏手でも纏わりつく気が、気にならなくなった。
今はその効果を信じて意識すれば、纏わりつくものではなく決まった場所に落ち着いた感じだ。
セイ様が言っていた静様の整えると言う表現は、これなんだと分かる。
……知っているようで知らない事の一つだわ。
「アイ、庭師のカロンの所に行くか?」
と、ルカが聞いてくる。
「うん。朝騒がせた事を謝らないと」
と、藍もルカが呼びに来た部屋の出口へと向かう。
「少し顔色が戻ったね。ちゃんと休めたみたいだ」
と、ルカが言ってきたから、昨晩から気になっていることをルカに聞くことにする。
「私の休憩を取ってくれるのはいいけど、ルカはちゃんと休めているの? 昨日も仕事着のままだったでしょう?」
と、きょとんとした顔のルカに聞く。
「えっと、あれが僕の寝着だったけど……」
「えっ! 確かに昨晩から仕事着は違うけど、殆ど変わらないでしょう」
と、思ったまま言えば、
「護衛としてもいるのに、完全に横にはならないよ」
「待って、それじゃ、それじゃいつルカが休むの?」
「ちゃんと休めているよ。領地の時よりは短いけど、アイの行動範囲は今のところ決まっているから」
と、ルカは言う。
……それは、ブラック企業以上でしょう。就労規則とかも無いのは知っているけど、みんなもこんな事してたら身体を壊してしまうよ。
でも、ナリスさんやルッツさんは休みだからと言ってたし、お休みはあるのよね?
? ? ?……あれ? わたしが意識が無い時でも目が覚めたら、ルカは側にいたよね???
「ルカ! ルカのお休みっていつなの?」
「いつでも取れるよ。申請すれば」
「申請って? 申請しないとお休みは無いの?」
「そうだけど?」
「今度のルカのお休みは?」
「今のところ取る予定は無いよ」
「それじゃ、ルカの時間がないじゃないの!」
「あぁ、ダーニーズウッド家のやり方だから、他は知らないけど、申請すれば、年単位で休めるよ。クルナもそうだし私も王都に来た時は、領土の仕事は二年間お休みしていたし、一巡り毎に休みをもらう方法もある。
侍従でも侍女の中でもみんな休みの取り方は違うから、申請はここならルクールが仕切っている」
と、ルカが説明してくれる。
「休みの仕方は変えられるということ?」
「アイの国では、休みが決まっているのかい?」
……言われてみれば、日本でも勤務時間は職業で違うよね。
公務員の父と母でも、部所が違えば時間は違う。勿論勤務時間外で動くことも、わたしの廻りでも学生の時位だよね、カレンダー通りなんて。
「職業で違うけど、1日の労働時間は決まっているはず、多分……」
「休みはその内、又取るよ。父なんか今まで二回しか休みを取ってないらしくて、ニックが言ってたからそうなんだと思うけど」
……え〰️〰️! 今まで二回って! ワーカホリックでしょ! ルカもいえているけど。
「カロン、いるかい?」
と、作業所みたいな所にルカに連れられて来た。
領土のルッツさんの作業所よりは小さいけれど、道具や肥料が所狭しと整理されている。
「父ちゃん、ルカ兄ちゃんと父ちゃんが言っていたおねぇーさんが来たよ」
と、ルカがターチと呼んだ子が、出てきて奥に声をかけている。
「ルカ! そちらのお嬢さんは!」
と、庭師のカロンさんが手で埃を祓いながら出てきた。
「カロンさん、朝はお騒がせをして申し訳ありませんでした。アイと言います。
少しの間、こちらでお世話になりますのでよろしくお願いします」
と、藍が謝罪と挨拶をすれば、
「少しの間?」
と、カロンさんとターチは首を傾げる。
「アイはいづれ王宮に上がる予定なんだ。まだ、その準備が出来てなくて、こちらで滞在になる」
と、ルカが説明している。
「王宮に? じゃぁ、お貴族様ですか?」
と、カロンさんが聞いてきた。
「違います。たまたま知り合いがダーニーズウッド家の皆さんだったので、お世話になっているのです」
と、藍は答を濁した。
……血筋で言えば貴族に入るだろうが、中身も育ちも平民だし、答に困る後で相談しょう。
「それで、朝は何だったんだ? 誰が指笛を?」
と、カロンさんが聞いてきた。
「私です。木に登って何をされていたのかが、気になって。
思わず早朝に大きな声を出してしまいました。始めはカロンさんが登るのかと驚いて見てたら、ターチちゃんが木から降りてきて、どうしても知りたくなってしまったんです」
と、朝の騒動の経緯を説明すると、
「それは、木の剪定をする前に、鳥が巣を作ってないかを見てたんだよ」
と、カロンさんが教えてくれた。
「鳥が巣を作ってたら、どうするんですか?」
と、藍が聞けば、
「移せるようなら移すし、卵がなければ剪定に入るよ」
と、ターチが言う。
「教えてくれてありがとう。ターチちゃん」
と、藍がお礼を言えば、
「おねぇーさんの指笛も良かったよ。木の上から聞こえたけど、凄く上手だった」
と、ターチが藍を褒める。
ルカが厩舎が最後だと言って促すば、ターチが藍の手を持って一緒に付いていく。
「おねぇーさん、ターチが案内するよ。厩舎にはお兄ちゃんがいるの」
「ターチちゃんのお兄さんは、庭師ではないの?」
と、藍が聞くと、
「うん、ダーニーズウッド家の侍従だよ」
「どういう事だ? ターチ?」
と、ルカが疑問を問う。
「元々は、厩舎でお仕事をしてたけど、ナギさんが侍従の仕事を教えてくれて、お館での仕事と厩舎の仕事を両方してるの、今日は厩舎にいるよ」




