面会
「ミカエルです」
と、自分の部屋の扉にノックをして声を掛け、そのまま明け開く。
奥のソファーには、ダーニーズウッド辺境伯前領主 カール様の輪郭をそのまま受け継がれたような壮年の男性が、ソファーの中央に座っていた。
髪色はメリアーナ様の茶色そのもの、目元はカール様と同じで金の瞳は、凄く見開いているが、カール様とは違う芯の強いお顔立ちで、ミカエル様とわたしに視線を向けられた。
「ミカエル? …………そちらは?」
と、ロビン様が言ってきた。
「領土から報告書に記載しておりました、庇護対象者のアイです」
と、ミカエル様が私を前に押し出し紹介する。
……ミカエル様、何か簡単な説明は無しですか?
こういうところ、浅葱兄みたいで何とも血を感じるわ。
「ロビン様、お初にお目にかかります。タツミ アイと申します。
ダーニーズウッド邸にて保護庇護して頂きました。感謝致します」
と、少し固いが初対面は、社会人としてご挨拶するべきた。
「聞いておる。報告もされておる。私がロビン· ダーニーズウッド辺境伯だ。
が、ミカエル! どう言うことだ? 詳細な事は聞いてもおらぬし、報告もされておらぬ!」
と、ミカエル様にロビン様が問う。
「父上、経緯も詳細な事柄も報告しておりますよ。父上がちゃんと読み込まなかっただけでは?」
と、ミカエル様が素知らぬ顔で答えている。
「あの、すみません。私が突然ダーニーズウッド家にお邪魔することになって、申し訳ないですが、シアン国王陛下の指示の元だったと伺っております。ミカエル様は身元が不明者の私を庇護してくれました。
シアン国王陛下がカール様とミカエル様に指示されての事です。内容は存じませんが、ミカエル様の考えもあっての事だと思いますので、不明な点は私にお尋ね下さい」
と、藍は答えた。
「アイ、ソファーに掛けようか。立ったままだと疲れてしまうから」
と、そのままロビン様の前に成るようにミカエル様が誘導する。
「あ、はい」
と、藍が返事をしたがロビン様が、
「アイ、すまぬな。策略好きな息子に巻き込んでしまって」
と、藍には謝っておられる。
「策略好き? ですか?」
と、藍が疑問という顔をすれば、
「ミカエルは、ちゃんと報告も詳細も伝えてくる。だが、わざと知らせず自分の目で分かることは隠すのでなくて気を反らせて伝える、意地悪な所があるんだ」
と、ロビン様は御自分の息子の悪癖を言ってくる。
「そうですね。なんとなく分かる気がします」
と、藍が同意すれば、
「そんなことより、父上はシアン陛下からお話はございましたか? それともまだ、お会い出来ていませんか?」
と、ミカエル様が話を切って変えてきた。
「いや、本日シアン国王陛下の接見の場が設けられたから、お会いして話は伺った。
王都王宮に戻られた直ぐだから、短い時間だったがな。用件は了承してきた」
と、ロビン様は、お祖父様と話がされたことを教えてくれた。
「アイ、私が聞いておること相違がないか確認しても良いだろうか?」
「はい。ロビン様が納得されるまでどうぞ」
「まず、アイはシアン国王陛下の孫であるのだな?」
「はい。それに関しては間違いはございません。祖父しか知らないことをご存知でしたので」
「では、何故? アイが孫だと直ぐに分からなかったのか聞いておるか?」
「それは、初めてお会いした時に名乗った名前に心当たりが無かったそうです。私の母が嫁いだ家名を知らなかったからだと聞いています」
「アイの母親が、陛下のお子様か?」
「はい。母には姉が私には伯母ですが、家を継いでいますから、母の旧姓家名でしたら直ぐに気付いたかも知れませんね」
と、藍は答えた。
「女性の歳を聞くものではないが、身内として聞く。アイは幾つなのだ?」
と、聞かれミカエル様を見ながら答えるが、全く情報を報告していないじゃないか!
「見かけ倒しで申し訳ないないですが、23歳になりました」
と、藍は答える。
「では、暫くはこちらに要るとして、お国には亭主とお子は誰が側におるのだ?」
と、ロビン様は聞いてきた。
「ていしゅ? おこ?」
「父上、アイは未婚の筈です。出産の疑いはございましたが、ディービス達は未出産だと言ってましたよ」
と、ミカエル様が言ってくるが、相手も居ないのに出産できるわけないでしょう。
……でも、わたしの国の技術なら出来るか。精子、卵子バンクがあるもんね。
「結婚も出産も未経験で悪かったですね」
と、ミカエル様を睨めば、楽しそうにミカエル様は笑う。
「そうなのか? アイの役目が仮に終えているから好きに旅が出来たのかと思ったが」
と、ロビン様は首を傾げる。
「すみません。不慮の事故だと思って下さい。意図も計画も何も無く、こちらにお邪魔することになりました。身一つでしたので何から何までご用意して頂きました」
と、藍がロビン様に言えば、
「身一つ?」
「はい。身一つです、ねっ、ミカエル様」
と、藍はミカエル様に促す。
「あはは! そうだったね」
と、ミカエル様も同意する。
「供も無く、女性のアイが一人でダーニーズウッド邸に現れたというのは本当だったのだな」
と、ロビン様が言う。
「それに、私はカーディナル語が全く理解できなかったので、途方に暮れました」
「今、喋っておるが?」
「父上、アイはカーディナル語だけでなく、外国経験が豊富なお祖父様も通じる言葉がありませんでした。
唯一、シアン国王陛下が発した言葉に反応したのが、決め手となってダーニーズウッド家で保護することに成ったのです」
と、ミカエル様が説明するが、
「決め手と言うが、直ぐに話を聞けば良かったではないか? その日のうちに陛下の孫だとわかっただろう?
あんな良く分からない報告で、ミカエル流石に性格が悪いぞ」
と、ロビン様が仰った。
「性格は元々ですが、最初の報告はあれで全部です。隠すことも何もありませんよ、アイが高熱を出して3日間意識が無くて、話す処ではなかったですし」
と、ミカエル様が答える。
「その節は、申し訳無かったです。言葉も通じず私の体質を説明出来ても理解されなかったと思います」
と、藍が言う。
「意識が3日間無かっただと? 病気を患っていたのか?」
「いえ、比較的元気な方でした。3日で済みましたし。ディービス先生とグロー先生、それにロッティナさんにはお世話に成りました」
と、藍が答えた。
「全く意味が分からないが……これがミカエルが報告しなかった訳でなくて、理解出来なかったからだと言うことか?」
と、ロビン様はミカエル様に聞く。
「そうですよ。意地悪でもなく説明しようが無いのと信じてもらえる確信は無かったですね。だったらアイに会った時に説明すれば良いと思いました」
と、ミカエル様が答える。
「ミカエル様が悪くはないのです。私の身体が虚弱な為に、後に祖父だと分かるシアン国王陛下やカール様が、気遣って私の身の上をお聞きになれなかったのです」
と、言えば、
「アートムやニックもお祖父様も危険性が無いと判断をして、シアン陛下の指示にしたがったっていたら、アイがシアン陛下に言葉を教わって周囲もアイを受け入れて、手放せなくなっただけですよ」
と、ミカエル様が言う。
「ミカエル様、手放せなくなったとは大袈裟ですよ。皆さんが親身に接してくれたから、親しくさせて頂きましたが」
と、藍が否定をして下方修正する。
「アイ、ソナタの容姿は国ではどう評価されている?」
「私の国では、普通だと皆さんにお伝えしましたが、メリアーナ様やアートムさんに諭されて認識を改めました。
少し見映えが良い方だと思います。で、こちらでは珍しい髪色と瞳で悪興味を引くだろうと教えられました」
と、藍は説明をした。
それを聞いたロビン様は、ミカエル様を見て、
「ミカエル! ルクールが領土では、どの様な対策をしていたかと聞いてきたぞ。教えて貰えなければ、使用人達がまともに仕事が出来無いとも言っていたが、どうなんだ?」
「対策ね。対策はアイには直力出歩かないで、関わる者は意思の強い自制が出来る者を選抜して、アイに笑顔を向けられても勘違いをしないように通達しましたね。
父上、アイはアカデミーに行く予定ですが、僕にはその対策はありませんよ。それを相談しようかと思っておりました。館では大変でしたから父上に相談出来て良かったです。本当に」
と、ミカエル様がロビン様に言っている。