ロビンの独り言
「お帰りなさいませ。ロビン様。カリーナ様」
と、別邸執事 ルクールはダーニーズウッド領主を玄関口で迎え出る。
「あぁ、遅くなった。ミカエルは無事に帰って来たのか? 子供達は誰も居ないのか?」
と、ロビン様は使用人達が並ぶ位置に目をやる。
「メアリーはいると思いますが、どうしたのでしょうか?」
と、カリーナ様も不思議がる。
「あのぅ、ロビン様、カリーナ様。ミカエル様は無事にお着きです。留守の間の事業報告書に目を通しておられます」
と、ルクールが報告する。
「領地に届けさせていたが、確かにミカエルが目を通す内容ではあったな。迎えに行ったケビンは?」
「ケビン様は、ミカエル様に御使いを依頼されたようでして、まだお戻りではございません」
と、ルクールが説明する。
「では、メアリーとダニーは?」
と、カリーナ様がお聞きになる。
「メアリー様とダニー様は…………あのぅ、お客様のお部屋におられます」
と、ルクールが歯切れ悪く説明する。
「あぁ、お客様なぁ。私はまだ会ってはおらぬが、シアン国王陛下の依頼でダーニーズウッド家でお預かりする娘さんだったな。
皆にも説明した筈だな。領地で父とミカエルが了承して、今回は王都のこの館で庇護すると」
と、ロビン様は今朝王宮に向かう前に言っていたことを、思い出しながら自然なやり取りのように言ってみる。
「ロビン様は、今会われますか?」
と、ルクールが聞いてくる。
「何か問題でも有るのか? 今でなくても良いが」
と、ロビン様はルクールに問う。
「お客様のアイ様は、お出迎えに出ると身支度をしていたのですが、メアリー様とダニー様にルカが止めました」
と、答える。
「何故? メアリー達が止めるのだ?」
「あのぅ、アイ様は館にお着きになった時は、酷く馬車酔いをされていたようで、先程お薬が切れてお目覚めになりました。
メアリー様とルカが止めるのをダニー様も部屋にこられて三人でお止めしております」
と、ルクールが答えるが、ロビン様もカリーナ様も他の使用人達も意味がわからない。
「私から見ても後から、ご挨拶される方が宜しいかと、ここでは何ですから中にお入り下さい」
と、他の使用人達に指示を出す。
ロビン様とカリーナ様も外出着では、お疲れが取れない。各々の侍従と侍女が誘導すれば、玄関口から人が動く。
ロビン様にはそのままルクールが2階の部屋に付いていく。部屋の扉を開けてロビン様の着替えを手伝えばロビン様から、
「ルクール何を警戒しておるのだ?」
「ロビン様、あの様なお嬢様がおいでになるとは聞いておりません」
と、ルクールが語尾を強く言う。
「何を怒っておるのだ? メアリー達は普通に接しておるのだろう? 領地で交流も有ったのだから何か問題があれば父からもミカエルからも言ってこよう? それがないのにルクール、見掛けで人を判断するものではないぞ」
と、ロビン様は注意をする。
「確かに言葉選びが悪ございました。しかしながらロビン様、あの様なお嬢様に館の中を彷徨かれては、他の使用人達が仕事が出来なくなります。
対策をミカエル様とルカにお聞きになって下さい。領地ではどの様にしていたのか私は教えてほしいです。
メアリー様やダニー様の判断は決して間違いではございません」
と、王都ダーニーズウッド邸を預かる執事 ルクールが言ってくる。
……対策なんかするつもりは無いが、私は黙っておればいいのだし、近々領地に帰領しなければならぬのに。
その……シアン国王陛下の預かり者をミカエルとルカに任すしかないだろう。二人しか真実を知る者はおらぬ。
と、いうより知られては不味い…………色々問題だ。
シアン国王陛下からは、文官の試験を受けて王宮にて生活基準は移すと仰っていたし、それまではルカを護衛と? 侍従としてダーニーズウッド家で庇護はしていくとの事だが、何も大事にする必要も無いし、大人しくして貰えるよう頼む事は、身内としてしておくべきではあるな。
ロビン様は、室内着に着替え終えると、自分の部屋のソファーに腰かける。
ダニエル王太子殿下に引き続き、シアン国王陛下の謁見の場があれば、精神的に疲れていたのだろう。
大層な場ではあるが、領主となり定例会議もこなし、問題がある内政や国政にも対応が出来ている事に安心していたのかも知れないな。
腰かけるソファーのクッションがいつもより深く沈む様な気がするが、今朝腰かけた時には何も感じなかった。沈んだ分だけ気が重いのだろう。カーディナル王国には今のところ問題が起こっているわけでもないが、領地とダーニーズウッド家では思案事項が出てきている。
……我が子、ミカエルからケビンまで健康で問題らしい事は何も無かった。
無かったのか?……ミカエルは、母親を目の前で傷付き失って精神的に心配したが、周りが鬱ぐミカエルを構い優しい長男として場を作ってくれるそんな子だ。
祖父と祖母の指導の元、次期領主として自覚をしてくれた少し冷めた所があるが、人格的には優れていると思っている。後はミカエルを理解してくれる伴侶が問題だが。
……メアリーは、唯一の女の子。
ダーニーズウッド家でも、久しくいなかった令嬢に周りが甘くなりすぎた。家族も使用人もこれは周りの責任と私の責任だな。
しかし、異母兄妹としてミカエルが良いように誘導してくれた。酷く我が儘な部分が出るようで扱いやすさが家族には良かったが、世間からはどうだろうか?
妻のカリーナが受けてきた差別的な事は、地位的には無いだろうが、陰ではあるのだろうな。弟二人はそれを危惧しているところが有るから、問題も起こす。
……ダニーは、我が兄 ダートルによく似ている。人の気持ちに敏感であるのに、それを口にはしない。異母兄のミカエルを尊敬して補佐に回るつもりのようだが、研究室を兄に案内されたのが切っ掛けか? 王宮の研究室に心が動いている。
弟のケビンが、ミカエルの補佐が出来るようならば、研究筋に行きたいのだろう。
だが今のケビンではその判断は出来ぬ。報告書を読む限りではあるが、考えが浅すぎる。
……ケビンは、末息子。上の異母兄と姉兄に可愛がられ良く言えば、おおらか。悪く言えば得手勝手な所がある。
妻のカリーナに性格は似ているが、苦労と人の悪意を受けて人の良し悪しは理解し、明るさおおらかさはあるが我が儘ではない、母親のカリーナとは違う。
挫折と謙虚さを理解しないと、只の傍若無人な者にしかならぬ。
これも私の責任か? 持って生まれた気質だと思うが、環境もあるのか。
……どこから手を付ければ……よいか。シアン国王陛下の孫娘 タツミ アイとは?
領地にからの報告書を読み直してみたが、突然領地に現れた女性をシアン陛下の指示の元、領主邸にて保護。
父 カールが自分の館にアイを住まわすつもりで有ると。母 メリアーナの側に置く。
この段階では、シアン陛下の孫だと知れてないのだな。父と母が気に入ったと言う事は、人格的には優れている。もしくはほっとけない気質なのか?
グローとディービスが、母の往診以外で毎日館に来ている?
メグの娘、ルッツの子が生まれる予定だったが、無事に生まれたと使用人達が喜んでいたが。
でも、何で? ニックが怒りの混もった報告書になるのだ?
無事に生まれて良かったではないか。
王都の商会が、人を使ってミカエルの婚約者の探り有り。侵入者有り。原因はケビンと判明。
これは確かにケビンだと分かっているし、メアリーやダニーからも報告が有った。ケビンだけでなく、三人共叱られ諭され二人は理解したと、ケビンの理解が不明とされている。
最後は、保護した女性アイを王都に別邸で庇護対象とする事。
シアン国王陛下の知己、命の恩人孫娘と判明。外国人であるためにルカを護衛として付ける。
この時は、シアン国王陛下の孫と分かって、陛下が側に置きたくなったのだな。
頑なに妃も側妃もお迎えに成らず、お寂しく無いのかと心配であったが、私をはじめ子供をあやして遊ぶ事がお上手だったな。
お子様がいたのだ、お心に決めた女性も
……さて、ルクールがあの様なと表現する娘に会わねばなるまい。
外国育ちとなると、言葉や身形に問題でも有るのか? 内の気質上外見や生まれは気にする方ではないが?
父と母が気に入ったとなると、元気で明るい娘だろう。
兎に角、私とも血の繋がりが有る娘、皆に愛されておるのなら、何としても守るだけだな。