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臨時教師

……なんで、僕が御使いに来ないといけないんだ? いくら異母兄さんが次期領主だとしても急に、横暴すぎるよ。

御使いなんて、ルカにさせればいいじゃないか。侍従として付いてるならさ……


一人馬車の中、ブツブツと不平を言っていると馬車が止まって、御者が王立アカデミーの門番に手続きをしているのが聞こえてきた。


「今日は、来客が多い日なんだが、何かあるのか?」

と、二人の門番の内一人が御者のナギに話しかけている。


「そうなのか? まだアカデミーは始まっていないのに、お客様が多いってどうしたんだろうな?」

と、内のナギも答えている。


……何かしらあっても、門番と御者には関係ないじゃないか……


「先生方は、色々用事があるのは分かるけど、さっきは王宮からの馬車も来ていたしな」

と、門番が話している。


……オイオイ、無駄話をしてないで早く用事を済ませて帰りたい。


「あまり、それは言わない方がいいぞ。俺だからいいが、他の者が聞けば何かあるかもと探られるし。何かあった時に何処から聞いたとなるぞ」

と、ナギが馴染みの門番に忠告している。


……あっ! ナギはダーニーズウッド家別邸に仕えて長い中堅だ。

アカデミーが始まれば、送り迎えを中心にしてくれる使用人の一人だ。

馴染みだから忠告していたが、これが本当に何かあれば門番からの情報となることだって……あるんだ。

普段は僕達の送り迎えに対して、何も感情を出さないナギだけど、忠告出来ると言うことはナギが普段から気を付けている事?

結構馬車の中では、色々ぶちまけているが、門番とナギの話が聞こえるという事は、僕が普段言っていることがナギにも聞こえている?


僕は、王都に帰る時にもお祖父様やシアン陛下の事を愚痴たが、そう言えば姉上やダニー兄さんは何も言わなかった。

同意もされなかったし、注意もされなかった。


「すまねぇ、聞かなかった事にしてくれ」

と、門番が慌てて頼んでいる。


「お互い仕事中だ。気を付けような。もうすぐアカデミーが始まるし、新しい人も出入りがあるから」

と、ナギは言っている。




手続きが終わり馬車が動き出した。門を通過して広いアカデミーの中を、馬車止まりのある玄関に着けてくれる。


「ケビン様、こちらでよろしいですか?」

と、ナギが聞いてくるが、専用棟に着けないことで知っているんだろう。


……僕が何の御使いかを知っているから、事務室がある玄関に送ってくれたんだ。

今までは姉上の淑女科、ダニー兄さんの教育科と送った後に貴族科に、送ってくれていた。


異母兄さんは、ナギに僕を連れていく場所を言って指示していることになる。


「ここで良いよ。もし他に馬車が入るなら馬車置き場にいてくれていいから」

と、答えたらナギがびっくりした顔をした。


……おそらく、ここに待っているのが当たり前だと思っていたんだろうな……さっきまでそう思っていた事だから驚かれても仕方ない。


「では、他の馬車が入りそうであれば、馬車置き場に移動致します」

と、ナギは答えた。


アカデミーの玄関から入れば、受付の人が普段なら立っているが、誰もいない。

ここから入るのは客人だったり、呼ばれた親だったりだが、誰もいないという事はない筈だ。


……どうしようか? このまま帰る訳にもいかないし、誰か通ってくれないだろうか。


と、思っていたら奥の扉が開いた。


……えっ? 伯父さん? ダートル伯父さんに似てるな?

と、思ったら目があった。


……あっ! ダートル伯父さんだ。

伯父さん絶対見たことあるけど誰だった? 位に思っているんだろうなぁ。眉間に皺を寄せて考えている。いつもの事だ。


「伯父さん。僕だよケビンだよ」

と、言ったら、やっぱりといったような笑顔で近づいてくる。


「どうしたケビン? アカデミーは始まってないぞ」

と、ダートル伯父さんは言ってくるが、始まっていても僕が来る場所じゃないよ。


「実はさ、異母兄さんの御使いで来たんだけど、誰もいなくて困っていたんだ」

と、説明すれば、


「そうか、ミカエルの御使いか誰かを呼んで来ようか?」

と、ダートル伯父さんが言ってくれた。


「教育科の先生にお手紙を渡すのと、内容を見てもらって手続きの書類をもらって帰る予定なんだけど、ダートル伯父さんは王宮の研究室でしょう。なんでアカデミーにいるの?」


「普段は王宮にいるけど、臨時で教育科の先生をする事になったんだ」

と、ダートル伯父さんは言う。


「えっ? 伯父さん教師免許を持っているの?」


「持っているよ。持ってないと教師は出来ないだろう?」

と、意図も簡単に答えてくれるが、そんな話を聞いた事がなかった。


「じゃぁ、この手紙は伯父さんに渡してもいいんだね」

と、ケビンが言えば、


「それは駄目だろう。私はあくまで臨時だ。他の教育科の先生に見てもらった方がいい。さっきまで臨時の教師の打ち合わせをしていたから、先生方は教育科の事務室にいらっしゃるから、呼んでくるよ。待ってなさい」

と、言って奥に行ってしまった。


暫く待っていると、ダートル伯父さんと年配の先生が玄関口まで出てきてくれた。

そのまま応接室に案内されて、伯父さんは帰るのかと思ったがそのままいてくれるようだ。


「教育科で試験をしてくれとな?」

と、ゾーイ先生は手紙を見ながら呟く。


「どういう事ですか?」

と、ダートル伯父さんが聞いている。


「何でも外国で知識的には、教育課程を終えているそうだが、カーディナル王国での職を得るには証明が必要となるわな」

と、ゾーイ先生が答える。


「何の職を希望しての事でしょうか?」

と、ダートル伯父さんが問う。


「文官というが、外国の俄では無理であろうな」

と、ゾーイ先生が答える。


「無理だと分かるように、試験をするのでは?」

と、ダートル伯父さんも答える。


「本人が諦めやすいように、試験をしてやればいいのか」

と、ゾーイ先生も納得しているが、


「僕も質問してもよろしいですか?」

と、ケビンが二人に問う。


「なんだ?」


「その、試験依頼と言うのは、異母兄ミカエルからでしょうか?」


「ダーニーズウッド辺境伯前領主だと? カール様? と、ミカエル様とな?」

と、ゾーイ先生は署名者を見る。


「なんで? 現領主のロビンじゃないんだ?」

と、ダートル伯父さんが聞いてくる。


「でしたら、それは領土内で作られた書類だからでしょうか? 父 ロビンは王都に居ますから」

と、ケビンか言えば、


「ロビンから手紙が来ていたが、目を通しておらなんだ」

と、ダートル伯父さんが言えば、


「ダートルよ、こちらの呼び出しもだいぶ前に出した物だがな」

と、ゾーイ先生はダートル伯父さんを睨みながら言っている。


「ゾーイ先生、間に合ったので良いではないですか」

と、ダートル伯父さんが言っている。


「なら、文官としてダーニーズウッド領土内で使うということか?」

と、ゾーイ先生はダートル伯父さんを無視して聞いてくる。


「僕が答えて良いことが判断できません」

と、ケビンが言うと、ゾーイ先生はニヤリと笑ったのだ。


……わざとだ。わざと疑問にして僕から情報を聞き出そうとしているんだ。ダートル伯父さんがここに居ることは偶然だとしても、今までの僕なら知っていることを簡単に喋っていただろう。


「僕は、異母兄から使いを頼まれただけです。手紙を教育科の先生に見てもらい、必要な書類を持ち帰るのが、僕の使いとしての仕事です」

と、ケビンはゾーイ先生に言う。


「そうか、何も知らぬか。これから選択科で騎士科を進むケビンならば、知らなくて仕方ないの」

と、明らかに挑発されている。


「それはそうですよ。ケビンはミカエルに使いに出されたと言っているのです。もし、知っていても容易く次期領主となる兄の手紙の内容に答える訳がないじゃないですか?」

と、当然の様にダートル伯父さんは言ってのけた。


……やっばり、答えるべきではない。異母兄さんは試しているのだろうか?


「まぁ良い。必要な書類は揃えよう。その書類に明細な事柄を記入していただくかな」

と、ゾーイ先生が意地悪げな顔で言ってくる。


「でも、どういう事なんだ? 父上の署名があるなら、別に文官の資格が無くても領内で使う位どうにでもなるだろう? 王宮で使う気かな?」

と、ゾーイ先生が書類を取りに部屋を退室してからダートル伯父さんは、核心を突いてくる。


……異母兄さん、ダートル伯父さんが臨時で教育科に来ることなったのは、もしかして……

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