第五十五話『僕たちとお土産』
「こうやってお土産を二人で見てると、遠足の時にいろいろと話したのを思い出すね。桐原君を振り切って紡君を探すの大変だったからよく覚えてるよ」
「あー、確かに必死になって探してたもんね……。千尋さんって迷子とかになる方じゃないから、そうなんじゃないかとは思ってたんだけど」
いろんな種類の動物のぬいぐるみをあれこれと手に取りながら、僕と千尋さんはのんびりと言葉を交わす。ふれあい広場ではしゃぎまくって満足したのか、穏やかな千尋さんの口調は満ち足りたものに思える。
僕はと言えば最後までウサギをだっこすることはできなかったけれど、千尋さんが楽しそうにしている姿を見られたからそれだけで大満足だ。『仕方ねえな』と言わんばかりに最後触らせてくれたウサギもいたし、前遠足で来たときよりよっぽど楽しめていると言ってよかった。
『一緒に居る人が楽しいと楽しい』っておもえるのも、考えてみれば随分と久しぶりだ。……信二といる時はそう思えていなかったんだなってことを突き付けられるから、同時に何とも言えない気分になるけど。
「そうだよ、あの時は頑張って振り切ったんだから。桐原君があの時色々決意して遠足に来てたみたいに、あたしだっていろいろ頑張ろうって決めて遠足に来てたってことなんだよ」
一か月越しに明かされた事実に僕が驚いていると、千尋さんは誇らしげに胸を張る。その少し幼いような仕草も微笑ましくて、思わず口元がふっとほころんだ。
千尋さんの考え方を大人っぽいなと思う機会は結構あるのだけれど、隣にいると時折すごく幼く見える瞬間がある。その度に僕は千尋さんの隠れた一面を見たような気分になって、同時に嬉しくなるのだ。……この側面を知ってるのはきっと学校では僕だけなんだと、そんな優越感に浸りたくなる。
それを言ってしまうとほかの人にも千尋さんに隠れた幼さのことがが知れ渡っちゃうし、絶対に他の人に大きな顔をするつもりはないんだけどね。優越感は自分の中でぐっと噛み締めつつ、千尋さんの幼い部分はこれからも僕一人で発見しては堪能するつもりだ。
「……紡君、どうしたの? すごく口元がゆるっゆるだけど……」
「ううん、なんでもないよ。ただ楽しいなって思ってただけ」
その変化を千尋さんに見抜かれて、僕は咄嗟に首をブンブンと横に振る。幼さの話を当人に語ってしまうと、その側面がなかなか出てこなくなってしまうような気がしてならなかった。
「うん、それならよかった。前の遠足の時に楽しみ切れなかった分、今回は二倍も三倍も楽しまないともったいないもんね」
そんな僕の弁明を聞いて、千尋さんは安心したように笑みを浮かべる。手に持った鞄の横で、小さなキーホルダーが揺れていた。
僕の鞄にもそれと同じデザインのキーホルダーが付いていて、ふと僕はそれに手を触れる。……その瞬間、千尋さんの表情がふっとほころんだ。
「……そのキーホルダーを一緒に買えたの、あたし本当に嬉しかったんだよね。紡君と二人で話せた甲斐があったなって、あの時頑張ってよかったなって、これを見る度に振り返れるから」
「うん、そうだね。……これを見る度に遠足の思い出がよみがえるの、すごくいいと思う」
確かにあの時はいいことも悪いこともあったけど、その先には特大の嬉しいことが待っていた。だからあの遠足は絶対にいい思い出で、忘れちゃいけない思い出で。見るだけでそれを思い出せるお揃いのものがあるという事が、なんだか無性に嬉しかった。
忘れたくなくても、人はきっと変わっていく。それを食い止めることなんてできなくて、嫌だって言っているだけじゃきっとそれからは逃れられない。……だからこそ、こういうものは必要なんだろう。眼にしたとき、触れた時、ふとしたことでその存在を知覚した時。そういう時に、その時の気持ちにまで立ち返れるような、思い出せるようなものが。
「……ねえ、あのさ」
そう思ったからこそ、僕の口は自然と動いた。断られるかもとかそんなこと一切考えずに、ただ自分の願いだけで。いつまでも忘れたくないし忘れられたくないから、手が自然とぬいぐるみに伸びた。
「……お揃いの物、これからたくさん増やしていかない? 思い出の証、みたいな感じでさ」
千尋さんと過ごす毎日を通じて、紡の価値観も少しずつですが変化していきます。お互いにお互いを変えあう二人の様子、ぜひこれからも見守っていただければ幸いです!
――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!




