表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/185

第四十四話『僕は謝罪しない』

『……照屋君、ここに来れると良いね』


『ああ、そうだな。……アイツがあんなに行事を満喫してるの、今日が初めてだったから』


 花畑を見つめて会話する二人の声を聴きながら、僕は花畑に向かって歩を進める。……話題の中心は僕の方にあるみたいだけど、そのまま進むとも思えなかった。


『そうなんだ。……照屋君とは、結構長いお友達なの?』


『ああ。と言っても、高校に入ってからの事だったけどな。……いつも一人でいて、変わった奴だった』


 僕に対する信二の評価は、今も昔も『変わった奴』で統一されているらしい。まあそれを否定する気もなければ抗議する気もないけれど、僕の考え方をある程度知っても『変わってる』って印象に変動はないようだ。


『アイツ、友達を作ろうとしないんだよ。会話ができないわけじゃないのに、他の奴と会話をしようとしねえし。放課後に誘おうとしてもすぐにどっか行くし』


『…………確かに、照屋君って授業終わった後に席を離れるまですごく早いよね。何かの事情があるんじゃないかって、そう思えちゃうぐらいに』


 僕の事情を知っている千尋さんが、信二の愚痴にも似た言葉に苦笑いしながら返す。信二と千尋さんの間には大きな知識の差があるし、僕の行動の見え方が違っても何らおかしな話ではないだろう。……僕の秘密を知る前の千尋さんがどう思ってたかは、もう知る由もないけれど。


『ま、それを聞こうとしてもアイツは教えてくれないんだろうけどな。……アイツ、どういうわけか口が堅い時があってさ』


『誰にだって言いたくない秘密はあるってことだよ。あたしにだって桐原君にだって、知られたくない秘密があってもおかしくはないでしょ?』


『ああ、まあそうだな……。だからこそ、俺はびっくりしたんだよ。千尋さんは、紡ぐとも仲良くできるぐらいにすごい人なんだな――ってさ』


「……来た」


 話の流れが明らかに変わったのを聞きつけて、僕は足をわずかに早める。……『その瞬間』に間に合わなくなるのが、僕にとって一番最悪な展開だった。


 なんでかって言われたら、僕の胸はこの上なくざわついているからだ。二人が話しているのを聞いているだけなのに、なぜだか落ち着かない。……何僕を置いて話してるんだって、怒鳴り込んでやりたくてしょうがない。


 自分の伝えたいことを伝えに行くのに僕をダシに使おうとしたのも減点対象だ。そんな切り出しで目標達成なんてされようものなら、僕と千尋さんが積み上げてきた関係が全部信二のためのものになってしまう。……そんなことは、死んでも御免だ。


「悪いね……なんて、もう言ってあげないからね」


 スポーツドリンクで補充した体力を存分に使って、僕は花畑に向かって全力で歩き続ける。ここまで二人の会話を聞き続けて、僕の気持ちはもうはっきりと決まった。


『……え、あたし?』


『そう、千尋さんだよ。千尋さんの周りではだれもが楽しそうにしてて、笑顔がたくさん溢れてる。その理由を探したら、きっと千尋さんしかいないんだ』


 一度踏み出したらもうべた踏み、信二渾身のアプローチタイムがスタートする。その早口に急かされるようにして、僕はさらに足を速めた。


『俺、千尋さんの事ずっとすげえって思ってて。周りの人がみんな笑顔になってて、千尋さんも笑ってて。……ずっとその笑顔を見て居たいって、気が付けば思ってた』


『え……え?』


 唐突な口説き文句について行けずに、千尋さんは焦ったように口ごもっている。きっとファンクラブの動きがあったからこそ、千尋さんは初めて告白のようなものを受けているのだろう。そりゃ確かに、慌てたって当然だ。


 その気持ちを信じは汲み取っているのか、それとも自分の事しか見えていないのか。僕に作戦を聞かせた時みたいにただ押し付けるだけになってるんだったら、それは厳しく咎めなきゃいけないだろう。


 早足はいつしか駆け足になって、僕は何年かぶりに全力で走っている。一分でも一秒でも早くたどり着いて、そのむず痒いやり取りを止めなければ気が済まなかった。


 お前は千尋さんの何を知っているんだ、ただお前の願いのためだけに千尋さんを利用しているだけじゃないのか。……それを、特別なんて言葉で彩って隠そうとして言い訳があるはずがないだろう。


 ああだめだ、怒りの言葉が先走って脳みそを駆け巡っている。全部全部叩きつけて、信二を止めたくて仕方がない。自分自身でつないだ通話なのに、それを叩き切ってやりたくて仕方がない。


「……はあ、はあ、はあ……ッ‼」


 息が上がる、肺が焼ける。今が春だなんて嘘だと言いたくなるぐらいに、汗がだらだらと垂れている。……少しでも早くたどり着かなきゃという思いだけで、足は前に進んでいる。


『まあ……だから、あれだ。こんなことをいきなり言われて、千尋さんは戸惑うかもしれないんだけどさ』


 その間にも会話は進み、信二は最後の決定的な一言を告げようと大きく息を吸い込む。それとほぼ同じタイミングで、僕は二人の姿を視界にとらえた。


 微妙な距離がそのまま心の距離を表しているようだけど、信二はそれに気づく様子もない。気遣うふりして気遣わず、ただ自分の思いを告げようとしている。……告白なんて勝手なものだなんて言われたら、僕は反論できないけれど。


 それでも――それでも、だ。


『「その……俺は、千尋さんの、事が――」』


「………………千尋さんッ‼」


――それでも、信二にその言葉を最後まで言わせるわけにはいかない。


 通話口と遠くから二重に聞こえてきていた声を遮って、僕は喉よ枯れろと言わんばかりに声を張り上げる。……千尋さんの視線が、僕の方をまっすぐ捉えた。

 次回、遠足編クライマックスです! 迷って揺れ動いた果てに紡が見つけた答えの行く先、ぜひ見届けていただければと思います!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ